【第百九十三話】魔王対勇者
我は早速、5発の巨大な火球を勇者にぶつけてみる。
おそらくは、この攻撃だけで王国の魔術団1つを壊滅させられるだろう。
5発の巨大な火球は勇者の周りに着弾し、次々に爆発を起こす。
衝撃波が我の顔を殴ってきて、実に気分が良い。やはり威力は高ければ高いほどいいな。
「……ほう?」
黒煙が晴れると、そこには無傷の勇者がいた。
なるほど、爆発は効かないか。
魔法が効かないとは聞いていたが、まさかここまでとは。
しかし、まだ絶対に効かないとは限らない。
我はまだ残っている5発の巨大な火球を消し、今度は水の槍を創り出してみる。
計30本の水の槍、射出速度を上げればどんなに強固な魔力耐性を付与した建材でも破壊できる。
我はそれらを一気に勇者に向かって放った。
「めんどいな」
めんどい! めんどいと来た!
とてつもないスピードで来る槍の雨に恐れるでもなく、瞬きすらせずに、そう呟くだけとは! 面白い。
実際に勇者は剣を構えているだけで、体にどんなに水の槍が命中しようとも、水の槍が体を貫くどころか、怪我1つ負わないでいる。
少しぐらいはダメージを受けていても良いだろうに、中々どうして面白い。
それより……服の方はなぜ攻撃を食らっても大丈夫なのだろうか。
着用者の魔法耐性に比例して防御力を上げるものか? だとしたら奴の来ているあの白い服は、どんな鎧よりも固いことになるな。
ああ面白い。
「次はこれだ!」
我はそう叫んで今度は岩の砲弾を次々に撃ってみる。
どれも川の上流にある大岩ほどの大きさだ。それを秒間10発程度の連射速度で放ってみる。
大岩が着弾する度に、大地震が如くの振動が地に轟く。
秒間10発も放っているものだから、地の揺れどころか、もはや空間も揺れているように感じる。
しかし、勇者はこれすらも食らっていないようだ。
大岩を剣で弾いてこそいるが、それもダメージを受けるからといった理由ではなく、ただ単に視界の邪魔になりそうなものを断切しているように見える。
その証拠に、勇者の右肩に命中する岩など、視界の邪魔にならなさそうな岩は無視して食らっている。
「怪物め!」
我はそう言いつつも、笑みを浮かべていた。
これは本当に魔法が効かないかもな。
身体能力はあまり自信がないのだが……まあ続けるとしようか。
「これはどうだ?」
我は岩の砲弾を飛ばすのをやめ、光の質量弾と闇の質量弾を創り出す。
2つとも直近で見ると、その全体像を見ることが出来ないほど巨大だ。
我にも被害が及ぶ可能性はあるが、しかし勇者の魔法への耐性がどれほどあるか、見てみたい。
「でかいな」
我は2つの質量弾を勇者に向かって放った。
奴にとってもこの質量弾は予想外の巨大さらしい。
我は周りに土属性の魔法で囲いを創り出し、身を守る。
流石に我はこの攻撃の被害を受けて、ピンピンしているような化け物ではない。
自爆して自死するなんて未来が起きないよう、我は自分の魔法から身を守っているのだ。
我はそう思いつつ、勇者にその2つの光属性と闇属性の質量弾を放った。
その瞬間、世界の終わりが始まったかのような地響きが囲いの外から聴こえ、それと同時にとてつもない衝撃が伝わってくる。
耳が張り裂けかねないぐらいの音の大きさに、我は耳を塞ぐ。
目眩のように揺れていた地面の響きがやんで、我は囲いの外に出る。
案の定、周りの建物は消し飛んでいた。
それどころか、ここから遥か遠くの建物ですらも地面の振動によって倒壊していた。
そして──勇者も消えている。
どこへ行った?
まさか死んだわけじゃあるまい。
あの程度で死ぬほど、勇者はヤワじゃないはずだ。
では一体どこに?
「後ろだよ」
「ッな……!」
我はとっさに後ろから現れた勇者の斬撃を躱した。
危なかった。あと数瞬遅ければ、我の首は飛んでいたではないか。
「……やりすぎだ、魔王」
「戦争にやりすぎもなにもないだろう?」
実際、この攻撃を受けていたであろう勇者は、見事に無傷である。
魔法に耐性があるという次元ではない。もはや魔法全般の攻撃が無効化されているようだ。
残る属性の魔法は風のみだが……対して効果も得られんだろうな。
まさに魔術師殺し、魔法の存在意義すら疑わせるような規格外の存在だ。
勇者、実に面白い。
「なぁ……我の配下にならないか?」
実に気分が良い。
こいつがいれば、我の計画はスムーズに進む。
一切の弊害も障害もなく目的にたどり着ける。
「嫌だな」
まあそう来るか。
もとより期待なんてしていなかったから、別にこれといった驚きもない。
「交換条件を出されても俺はお前の配下にはならないぞ」
ふむ、見通されていたか。
世界の半分でもやろうとでも言おうとしたが、まあ良い。
それより、今はこいつとまだ戦えることに喜ぶとしよう!
「《身体強化〈攻撃10〉》《身体強化〈速度17〉》《対斬撃耐性8》」
我はそう詠唱して、身体能力を底上げする。
この大人に満たない体では普通の人間よりも身体能力を高めなければならないが、まあ仕方がない。
少しの辛抱だ。
「不味いかもな」
勇者が初めて真剣な構えを取った。
なるほど、魔法に対してはかなりの自信があったようだが、肉弾戦は少し自信がないのか。
魔法にだけ対して異常な耐性を見せるのは面白いな。
とすると……。
「……いきなりしゃがみこんで、どうしたんだ魔王」
突如としてその場にしゃがみこんだ我にそう話しかけてきた。
土属性の魔法による投石は効かなかったが……では魔力で作られたものではない、自然の物質はどうだろうか。
我は地面に転がっている手頃な石を勇者に投げつけた。
「ッ!」
勇者は露骨に我の投げた石を避けて、バランスを崩した。
やはり──魔力のみで構成された物に対しては無敵だが、自然にできた純粋な物質に関してはそれに当てはまらないらしい。
「殺す」
初めて我に見せた勇者の殺気は、魔王である我ですら身が震える。
本気だ。本気で我を殺すつもりなのだ。
「《対斬撃耐性15》」
我はそう詠唱する。
今の我にそんじょそこらの剣士は傷を与えることすら不可能だろう。
だが、目の前にいる勇者はおそらく例外に入る。
気をつけなければ腕を取られかねんな……。
「さあ、来るといい」
我は勇者にそう告げて、身構えた。
──来る!
「《剣技:一刀両断》」
我は白く光る刀身をするりと避け、奴の背中に回し蹴りを入れる。
一刀両断。どんなに斬撃に耐性をつけようが、当たれば簡単に体が2つに分かれる攻撃だ。
我は勇者に回し蹴りをいれたが、手応えは感じなかった。
やはり無効してくるか。魔法の耐性もあるが、どうやら物理攻撃にも耐性があるらしい。
通常の威力の10倍はある蹴りを入れたのに、奴は吹っ飛ぶどころか悶えることすらしない。
「本当に規格外だな」
我はそう呟いて、2撃目3撃目4撃目と次々に拳を勇者の腹に打ち込む。
1秒に5撃、腹に打ち込む。
だがそれでも勇者は我の攻撃を耐え、次の攻撃を繰り出してきた。
「《剣技:一撃五切》」
それは我の胸に命中した。
1回だけの斬撃を繰り出されたはずなのに、まるで5回切りつけられたような衝撃が我の胸に走る。
いや、実際に実質5回の斬撃を食らったのだ。
奴の剣に込められた魔力が我の体に刻み込まれ、5回分の斬撃のダメージを与えた。
実に厄介な攻撃だ。
斬撃に耐性があると言えど、そう何度も食らっては体にダメージが蓄積されていく。
衝撃によるダメージの無効はしていないのだ。
「キツイな……」
勇者はやはり澄ました顔で我に剣を振りかぶっている。
我はすぐさま後方へと跳躍して「《身体強化〈攻撃15〉》」と詠唱する。
通常の人間であれば、今の我のような身体強化をすれば1秒と持たずに魔力が枯渇して死にかねないだろう。
魔王である我でも、少し厳しいところがある。
せいぜい10分間程度か。まあそれだけ持つなら十分だろう。
「さすが魔王だな」
「お前さんも中々に良いぞ」
我がそう言うと、勇者は上段に構えた。
我も拳を構え、攻勢の型を作り出した。
──勇者が走り、我もそれに向かう。
勇者が我の頭を割ろうと剣を振り下ろす。
我はそれを左に避け、肘打ちを勇者の横腹に放ったあと、しゃがみ込み足払いをする。
体勢が崩れた勇者の顔面に我は力いっぱいに7発殴り込む。
我は7発しっかりと手応えのあるパンチを勇者に与えた後、踵落とし勇者の肩に入れる。
脱臼を起こせれば幸いだが……。
「《剣技:剣牢》」
やはり駄目だったかッ!
我はすぐさま後ろへ後ずさろうとして、直後、我の背後に斬撃が放たれた。
勇者は目の前におり、我の背後に斬撃など放てるわけがない。
となると、先程の剣技による攻撃か。
おそらくは剣技の発動範囲内の任意の対象が範囲外に出ようとした瞬間に、斬撃が繰り出されるものと見た。
これで我は勇者から離れることはできなくなったわけだ。
「はぁ、はぁ」
勇者は鼻から血を出して、苦しそうに呼吸をしている。
やはり肉弾戦には幾分か我にも勝率はあるらしい。
「とはいえ、こちらも少々キツイな……」
魔力の消費が激しい。
久しぶりにこんなに魔力を使うものだから、疲れが顕著に現れるな……。
多分回復までに1週間程度はかかりそうだ。
「すぅー、ふぅー」
我は深呼吸をして、勇者の姿を捉える。
やはり奴の周りの魔力は乱れていて、うまく操作ができない。
しかし、戦っている中で、奴の周りの魔力の流れが唯一安定する時がある。
それは、奴が剣技を放つ瞬間だ。
その瞬間に奴の周りの魔力は綺麗に整列して、奴の剣に魔力の流れが出来る。
おそらくこの魔力の乱れは、あの白い刀身の目立つ剣の特性によるものだな。
「……面白い。その服といい、剣といい、お前さんといい、実に面白い!」
我は勇者の元に走り込み、奴の顔面を鷲掴む。
身長差があるからうまく掴めるか不安だったが、杞憂だったようだ。
我は思い切り勇者の頭部を地面に叩きつけた。
地面に巨大なクレーターができ、振動が辺りに伝わる。
「《剣技:八つ裂──」
我は勇者がそう詠唱した瞬間、空間の魔力の流れが安定した瞬間に、全ての魔力を我の体に吸収させた。
一度に大量の魔力を吸収するのは、ちょっと吐きそうになるな。
「──っな!?」
勇者が驚いたようにそう叫んだ。
奴は未だに我に顔面を鷲掴みにされて、必死に我を離そうとしている。
「剣技を多用しなければ、もう少し勝算はあっただろうに……」
我は奴の頭部を持ち上げ、また地面に叩きつける。
ガンガンガンと、頭蓋骨を割る勢いで地面に叩きつけ、出血を加速させる。
「……魔力耐性は果たして、今のお前さんに機能しているのかね?」
我はふとそう考えて、勇者の口腔に小さな土の玉を創り出した。
爆裂する機能を付けた、小さな土の玉だ。
空間の魔力が消え失せた今なら、あるいは……。
「待て……やめろ、お願いだ……」
「これでも我は魔法学校で優等生だったんだぞ? 好奇心はどうしても止められないものだからな」
我は勇者の口腔内で土の玉を破裂させた。
勇者の口から爆発の白い煙が出てきて、それと同時に勇者は吐血した。
なるほど、やはり魔力に頼った魔力耐性か。
今のように、空間に魔力がなければ魔法を無効化できないわけだ。
「……ふむ。実に興味深かった、礼を言う」
我はそう言って、勇者の顔面から腕を離した。
──その瞬間だった。
「ぁ……あ……嘘、だろう……」
我の口から多量の血液が吐き出される。
何が……起こった……。
「……はあ、はぁ、対斬撃耐性が解けるのを待ってたぞ……」
我はふと、勇者のいる方を見た。
奴の腕が、剣先が、我の腹に向かって伸びている。
クソ……ぬかった……。
「回復薬が全部無駄になったか……てかクソ不味い」
勇者は空の小瓶を投げ捨て、我の腹から剣を抜いた。
空洞の出来た我の腹からは大量の血が流れ出ている。
回復薬を持っていたのか……姑息な……。
「さようならだ、魔王」
勇者が我に剣を振りかぶった。




