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異世界転生した男、ほのぼの人生計画に夢を見る  作者: 黒月一
【第六章】少女救出編

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【第百八十六話】拘束部屋と日記

 アディメさんが囚われていただろう部屋の中、そこでの生活はとても過酷だったものらしい。

 壁には爪で引っ掻いたような跡と、血液が固着しており、床にはところどころ緑色の抜け毛が落ちている。

 部屋の隅にある机の下に、ポッドのようなものがあり、それの蓋を開けてみると排泄物の臭いがした。


 また、ベッドの足には鎖が付いていて、それは途中で切れている。その断面は切れ味の良い剣で切ったような感じで、綺麗に両断されていた。

 おそらく、アディメさんをこの部屋に閉じ込めておくための拘束具として使っていたのだろう。


 机の上には、青いリボンのついた麦わら帽子が置いてあった。


「……アディメさんが捕まっていた部屋で間違いなさそうです」


「そうですか……」


 僕をここに案内した魔術師は暗い顔をしながら俯いた。

 絶対にここにアディメさんがいた、とは断言できないものの、緑色の抜け毛に青い麦わら帽子があるということは、アディメさんがいた確率は高いと見積もったほうがいいだろう。


「それで、僕にとって堪えるものとは?」


 僕は俯いている魔術師にそう訊く。

 まさかこれが僕に堪える光景だというわけではないはずだ。

 こんなの、少なからず僕は何回も経験しているし、先程の魔術師の発言は、僕にとって堪えるもの、というような言い方だった。


 この光景はたしかに堪えるものではあるが、それは周りの人間も僕と同じように精神的な負荷が掛かるものに違いない。

 僕個人だけが堪えるようなものではない。


「……」


 この部屋の探索を担当したであろう魔術師と騎士がお互いに、気まずそうに顔を見合わせた。

 どうする、とでも考えていそうな面持ちだ。


「後悔するかもしれませんが、いいんですか……?」


「大丈夫です、後悔は慣れっこですから」


 こんな嫌な慣れというのは初めてだが、こういう時に限ってはそれなりに役に立つ。


「…………わかりました」


 魔術師が僕の答えを聞いて少しの間を置いたあと、そう言った。

 僕の背後ではスクリが非現実的なものを見るかのように、部屋の様子を隅々まで観察している。


「これを……見てください」


 そう言って魔術師が出してきたのは、それほど分厚くない本だった。

 いや、これは日記帳か……?

 タイトルは書いていない。


「僕は文字を読むのが遅いので、時間がかかりますがいいですか?」


 いまだに異世界言語を読むのに慣れていないというのはお恥ずかしい話だ。

 日本語の活字が読みたい……。


「……構いません。どんなに時間がかかっても、私たちは待ちます」


 いやに同情的な表情で話しかけてくる。

 なんだ。その目は。

 読むのが怖い。いい知れぬ恐怖がある。

 怖い絵でも書いてないよな……?


 そう思いつつ、僕は日記帳の1ページ目を開いてみる。

 良かった、別に怖い絵があるわけではなさそうだ。

 ひとまず日記を読んでみようか。


【日記:?】

 つい先程、勇者からこの日記帳を渡された。

 あの人、私に今日が何日かも教えてくれないのに、日記帳を渡すのは嫌味なのだろうか? もしこれが純粋な所業だとしたら、もはやそういった、人を不快な気持ちにさせる才能があると思う。

 といっても、私にこれ以上なにか暇つぶしができるものがあるかというと、そうない。

 だから、まあ、短いながらも今日が何があっただとか、何がなかっただとか、そういうのを書いてみることにする。

 とりあえず、今日は何も書くことがないから、これで終わり。


 2日目、日付はわからない。

 今日も相変わらず寒くてやることがない。おそらく冬であることはわかるのだけれど、何月の冬かはわからない。

 でも寒さのピークに達している気はするから、多分12月か1月か、そこらへんだと思う。

 ピラーさんが私の排泄物の入ったポットを持っていくときに、彼女とちょっとだけ会話をしたのだけれど、勇者は私を保護したという説明をしているらしい。

 間違ってはいないけれど、この扱いが保護なの?

 ただの監禁じゃないのかって、その時に思った。それをピラーさんに伝えると、彼女は苦笑いをしてそのまま部屋を出ていってしまった。

 まあ、私なんかにこんな話をされても気まずいだろうしね。

 今日は終わり。


 3日目。

 勇者は私の日記を見ていたらしい。

 私が寝ている間にこっそりと部屋に忍び込んで、今日の様子はどうだったとか確認を取るために。

 私がその事に気がついたのは、昨日の、いや、今日の夜に物音がして、起きたらそこに私の日記を盗み見している勇者がいたからだ。

 私が気持ち悪いだの、酷いだの、そんな罵倒をしたら、彼はしょんぼりとした様子で「もうしない」と出ていってしまった。

 彼が部屋を出ていく時に残した「もうちょっと自分の心の声を反映する形で書いたほうがいいよ」という助言が、本当に気持ち悪かった。

 気分が悪い。今日は寝る。終わり。


 4日目。

 癪だけど、勇者の助言通りに日記を書いてみることにした。

 私もちょっと、固い文章になっている気がしたから。

 あの子が来た。メックスちゃんが。

 あの子は部屋に入ってきた私を見るなり、私の頬をビンタしてきた。

 あのときの笑顔が忘れられない。本当に私のことが嫌いで、痛めつけたいと思っていた顔だった。

 なんだって私がこんな目に合わなくちゃいけないの? 私はそんなに悪い子なの?

 あの子は私の頬をビンタしたあとに、私の顔を机に思いっ切り叩きつけて、何度も何度もうずくまっている私を蹴りつけた。

 今でも私の頭部と腹にあのときの痛みが残っている。

 ピラーさんが来なかったら、私はどうなってたんだろう。

 リーバくんに会いたい。

 今日はもう寝よう。


 5日目。

 日記は夜に書くのがいいと思って、私は夜中、蝋燭の小さい火でこの日記を書いている。

 あの日以降、本当に勇者は私の日記を盗み見ることはしなくなった。

 できれば昨日の日記の内容は見てほしかったけれど、仕方がない。

 私が不幸な目に会うのはいつものことだ。

 今日の昼食の献立は珍しく豪勢だった。

 といっても、リンゴと肉があっただけだけれど。

 いつもは冷たいスープが温かったのを覚えている。ピラーさんがどうやら冷たかったスープを暖炉の前でしばらく温めてくれていたらしい。

 本当にあの人は優しい。メックスちゃんと勇者と同じように、勇者教団関係者とはとても思えないくらい。

 彼女の顔はよく見ないけれど、それでも私より高身長ですらっとしてて、ヴェールのような長髪がとても綺麗だったのを覚えてる。

 かなりの美人さんで、女の子の私でも、どこか好きになってしまいそうだった。

 私にはリーバくんがいるから、まだ大丈夫だったけれど。


 追記、リンゴと言えば、リーバくんに最初に会った日を思い出す。

 あの時リーバくんが私を連れ出してくれなければ、私はきっと自殺していたと思う。

 リーバくんが私にリンゴを買ってくれたあの時、初めて私は存在していい人間なのだと感じることが出来た。

 やっぱりリーバくんはすごいな。

 リーバくん、私のことを嫌いになったのかな。

 嫌いになっただろうな。私があんなことをしなければ……。

 ないだろうけど、もし彼に会えたら、その時にごめんなさいって言わなくちゃ……。

 今日はもう寝たい。終わり。

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