【第百八十四話】扇動者の憂鬱
「アディメさん!!」
僕は切羽詰まったような声で扉を開け、中を確認する。
見る限り、ここにはいない。
僕は一応中に入って、ベッドの下、机の下、クローゼットの中を確認してみるが、やはりそのどこにもアディメさんの姿は見当たらなかった。
僕がここに来るまでに開けた扉の数は優に10を超えている。
いくら何でも部屋の数多すぎでしょ……。
そこまで部屋が必要なのだろうか?
「ひ、ひとまず休みません? リーバルトさん……」
スクリが疲れた様子でベッドに座り込み、僕にそんな風に言ってきた。
休む? まだアディメさんが見つかってないのに?
「駄目だ、まだアディメさんが見つかってない」
僕がそう言うと、スクリは不満があるような声で僕に言っていた。
「大体、そんなに乱雑に探したところで、いるかもわからない人を見つけるのは難しいんですよ」
「いるかもわからないじゃない。いるはずだ」
「どこにそんな根拠が……」
スクリが悪態をつきながら、入口の部屋の扉の周りを土属性の魔法で固めた。
閉じ込める気か……!
「なっ……」
しばらく出られなくなってしまった。
これではアディメさんを見つけることが遅れてしまうじゃないか。
「少し落ち着きましょうリーバルトさん」
「落ち着けると思うの!? スクリは!」
僕が焦って少しおかしくなっているのは自覚している。
しかし、そうなっているのには理由があるのも僕は知っているのだ。
そして、それがちょっとやそっとのことで落ち着けるようなものでないことも。
「そこをどうにかして気を取り直すのが、落ち着くという行為でしょう」
「ただスクリが休みたいだけなんじゃないのか!?」
「それもあります……が、今のリーバルトさんは普通じゃない。
1つの目的を達成するために暴走するのは良く無い癖ですよ、リーバルトさん」
何をわかったように……!
……いや、実際にそうなのだろう。
じゃなければ、僕はこの場にはいない。
そんな癖をもっていなければ、僕はそもそもここでスクリと話していないはずなんだ。
そんな癖をもっていなければ、僕は今頃、魔法学校のみんなと楽しく生活していた。
そんな癖をもっていなければ、わざわざ今アディメさんを救出せずとも、彼女と一緒にいることが出来た。
そんな癖をもっていなければ、王都に住む人々を不幸な目に合わせずに済んだ。
そんな癖をもっていなければ、僕は、僕は──。
「……落ち着きましたか?」
「……あぁ」
ひとまず、落ち着くことは出来た。
僕はその場に座り込み、俯く。
床の木材のなんでも無い模様が、まばらに浮いている。
「ねえスクリ」
「なんです?」
「どうして……こんなことになったのかな」
「……さぁ?」
まるで興味がないようにスクリはそう発した。
彼女は僕の人生をすべて見てきたわけじゃない。
そんな反応をしても、特段責めれるものじゃないだろう。
「私は宗教に疎いので良くわかりませんが、結局は運命なんじゃないですか?」
「運命……?」
ポエマーみたいなことを言うようになったな。
「そうです。私達はいわばボードゲームの駒で、神かそれに近しい者たちが駒を動かして、自分の望む盤面を作ろうとしている。
動ける範囲は決まってるし、駒を動かす奴の裁量で運命は変わる。面白ければそれでよし、そんなもんじゃないですか?」
「んな適当な……」
「適当ですよ。その場に適したものなんです」
これが最も適している状態とでも言うのか?
僕と、僕の周りがただ不幸になっているだけじゃないか……!
「そっちにとって最も適した、ではなく、駒を動かす奴にとっての最も適した、だよ」
……? あれ……おかしいな。
今一瞬、スクリがテタに見えたような気がする。
いや、気のせいだろう。
スクリがらしくもないことを言ったから、ついそんな幻覚を見ただけだ。
いきなり変になられると、こっちまで気が狂いそうになる。
こりゃ僕も疲れてるな……。
「そ、それだったら、その駒を動かしている奴は、僕が不幸になることを望んでいるみたいじゃないか」
「そうだよ」
うぅん……。まずいな、本当に段々とスクリがテタに見えてきた。
それに……なんだか……意識が……。
「ひとまず休めばいい。まだ再会の時じゃないから」
そのスクリのものではない、透きとおった声を最後に、僕の意識は途切れた。
【視点変更:スクリ・インカフ?】
倒れてしまった。
どんなに彼が教会内を探そうにも、アディメ・へラーラは見つからないだろうし。
まあ結果オーライ。
「どう説得しよう……」
早くこの場を離れさせて、勇者の元からアディメ・へラーラを助け出させねば。
この体重い……。
それにしても……。
あいつ、こんな宗教を作って、面白いのかな。
地球の各地から勇者として色んな人間を転移させてまでやることが、転生者の抹殺だとか、こんな宗教の構築だとか……本当、嫌になる。
私が慈悲で転生させた人間を殺されるのは、いささか不快。
少しは意趣返しもしたいし……そのためにはリーバルト・ギリアに頑張って貰う必要がある。
あの天使の子も色々と頑張ってくれたみたいだし、みんなの無念を晴らすためにも、少しは私も頑張らなくちゃ。
あいつとのチェスも、まだまだ序盤か……。
「はぁ……」
アジテーター。私の名前の由来だけど。
私がそんな高尚なことができる器になり得るか……。
無理……。
この体重いし、体力なさすぎだし、多分むりぃ……。




