【第百八十三話】教会内部
【視点:リーバルト・ギリア】
教会に入ると、そこには荒廃の景色が広がっていた。
僕達が制圧するまでもなく教会関係者は地に伏しており、壁には血痕がついている。
よく見ると、そこには協会関係者以外にも、帝国兵士の格好をした人間も倒れているので、ここで戦闘が繰り広げられていたのだろう。
わざわざこっそり教会の内部に侵入する必要なんてなかったわけだ。
「一応、ここは受付のような場所のようですし……本堂にはまだ人がいるんじゃないんですか? 味方か敵かもわかりませんが……」
僕がそう言うと、ハッセルは「敵だと嬉しいんだがな……」と漏らして、本堂の方へと向かっていった。
彼の顔は微妙に曇っていて、何かを考えることを避けているようだった。
彼の言葉は多分、好戦的な人間の言葉ではなくて、単純にルミリク兵が中を荒らしていない事を願っているような言葉だろう。
一応、教団側の人間は息があるので、多分ルミリク兵が中まで浸透している可能性は少ない……と、思う。
もっとも、じきに死ぬと判断されて、この人達が見逃されていたのなら話は別だが。
「開けるぞ……?」
ハッセルが閉まりきっている本堂への扉の前で、剣を構えながらそう言った。
僕達は静かに頷き、それぞれの武器を構える。
大丈夫、シミュレーションだ。
もし目の前から敵が襲いかかってきたら、頭に大きめの石をぶつけて気絶させる。
オッケー完璧。
誰がなんと言おうと完璧……ヨシ!
僕はハッセルに合図を出して、瞬時に杖に魔力を溜めた。
「お前ら動くな!」
ハッセルが扉を剣で破壊し、我先にとそう叫びながら本堂の中へと入った。
僕達もハッセルに続いて、本堂の中へと入る。
「……いない、か」
ハッセルが静かな本堂でそう言葉を漏らし、ゆっくりと警戒しながら中を歩き回る。
本堂の中には人っ子一人いない。隠れているだけか……?
あるのは、かなりの数の長椅子とその他修飾された物、正面にある巨大な神の像だけだ。
そこには死体どころか、血痕もない。
「どこにも人はいません!」
仲間の一人がそう叫んで、この本堂に僕達以外の人がいないことが証明された。
入口にはたくさん人が居たのに、本堂には誰もいない。
それどころか、血痕も、戦いの跡もない。
そもそも直近に人がいた跡すらもない。
そんなことありえるのだろうか。
本堂には入口よりも人がたくさんいてもおかしくはなかっただろう。
避難していたとしても、こうも人の痕跡が消せるものだろうか。
落とし物や、泥の1つもついていないなんて異様だ。
最初から本堂には人は来なかった?
でも、ここには様々な装飾品がある。
もし帝国の兵が侵入していたのなら、多少は強奪をしていそうなものだ。
となると、やはり教団は入口で帝国兵を食い止めたのだろうか。
しかしこうも人の痕跡がないと、かなり違和感を感じる。
「バカどもが」
ハッセルがとてつもなく怖い表情をしながらそう呟いた。
その顔は鬼気迫るもので、まるで何か努力したものが全て無駄になったかのような表情だ。
「ど、ど、どうしたんですか?」
スクリが声を震わせながら、ハッセルの怒気に対応する。
「あれほど皇帝陛下が教団は攻撃するなと……言っていただろうが……」
ああなるほど、帝国が教団内に秘密裏に侵入したことをバレないように、せっかく王国人である僕を利用して教団内に入ったのに、それらの努力が全て水泡に帰したことに彼は激怒しているのだろう。
これで帝国は勇者教団と関係が険悪になったらしい。
それはつまり、教団から帝国への様々な支援を受けにくくなったことを意味する。
「クソが!!」
ハッセルが目の前にある長椅子を蹴り上げ、破壊した。
今、彼に話しかけるのはあまり良くない気がする。
「私達はハッセルさんの様子を見ておきますから、リーバルトさんたちはアディメさん捜索を開始してください」
仲間の魔術師が僕にそう耳打ちをして、教会の廊下に繋がる扉を指さした。
僕はスクリとその他4名の騎士魔術師達に目配せをして、廊下に出る。
「2人1組で探しましょう、僕とスクリ、あとは魔術師と騎士とで動いてください!」
前衛後衛としてチームを作ったほうが良いと思い、僕はそう指示をする。
ちょうど、魔術師2人、騎士2人といたので助かった。
僕とスクリは両方とも魔術師ではあるが、ある程度近距離戦にも対応できるように鍛錬しているため、それほど問題にはならない。
それに、この人達も帝国近衛騎士団の団員である以上、練度もそこらにいる騎士や魔術師とは大違いだろう。
心配要素は少ない。
「了解しました!」
そう言って即興で4人の仲間たちは2組のチームを作り、それぞれ別の部屋で捜索し始めた。
その一連の動きの速さには迷いがなく、さすがは帝国近衛騎士団とでも言うべきか。
……騎士団なのに魔術師がいるのは何も考えないでおくべき。
いや、それを言ったら"騎士"だというのに、馬に乗ってない戦士のことも騎士と呼んでいることから突っ込んだほうがいいのか……?
「すごいですねー」
スクリが淀みのない声でそう言葉を発した。
彼女は普通の歩兵の事も騎士と呼んでいることについてツッコミはしないのだろうか。
いや、そもそも僕の元いた世界と異世界とでは騎士の概念が違うのか……?
「ひとまず、急ぎましょう」
スクリが続けてそう言った。珍しく真面目だ。
僕の方も考えが脱線していたし、早くアディメさんを見つけなければ……。
僕はアディメさんが何処か遠くへと行っていないことを願いながら、廊下に並ぶ幾多もの扉を開ける作業を開始した。




