【第百八十二話】配下
「シビル様ー」
様付けで呼ばれるというのは、腹をくすぐられるような感覚を覚える。
それでも惡い気はしないので、様付けで呼ぶことを我は一応、許容している。
「敵の殲滅は終えたか?」
「はい!」
あのとき人間に虐げられていた人間とは思えない快活さだ。
まあ我の配下なので、これぐらいの元気があったほうがいいのだろうが。
「あ、あの……そちらは?」
先程の魔術師がそう訊いてきたので、「我の配下だ」と答えた。
ああ、配下なんて初めて持ったものだから、どう扱えばいいかわからないな。
配下としての階級もつけてみようか? これから配下はもっと増えていくだろうし、行動は早いに越したことはないだろう。
「いえ、そうではなく……」
「どういうことだ?」
我の配下というもの以外になにか説明するべきものはあるだろうか?
我は特にないと思うのだが……。
「名前ですよ! 名前!」
ああ名前か。
確かに配下の名前は教えておかねばならないな。
……。
あれ?
「お前さん、名前は?」
「知らなかったんですか!? 自分の配下の名前を!?」
「あはは……私はヘリサス・ミカーテです」
なんともまあ我をしょうがない奴だとでも言う目で見てくるな……。
まあ、間違ってはないんだが。
「ヘリサスだ。我の配下をやっている」
「もう取り返そうとしても遅いですよ!」
うぅむ。
どうにか誤魔化せそうなものとでも思っていたが、中々手強い。
この魔術師の記憶を消せばこの失態はなくなるのでは?
我はそう思って魔術師に手をかざした。
「させませんよ!?」
どうやら気づかれてしまった。
魔術師は我に杖を向けていて、魔力を杖に溜めている。
察しがいいな。いや、今の我の行動があまりに突飛だったからか。
「それより……」
会話に割り込むようにヘリサスが言葉を発した。
何か大事があったのだろうか。
「勇者一向が王都各地で目撃されています。こちらも被害が出ており、第5騎士団が壊滅したそうです……」
騎士団が壊滅。
勇者一行といっても、たった数人程度の規模だ。
そんな奴らが、何十倍にも人数もいる騎士団をたった1日程度で壊滅させる……。
甘く見ていたら、我も足をすくわれそうだ。
なんとしてでも、我の考え事が達成されるまで、我は死ねない。
その時まで、我はなんとかしてでも生き残らねばならないのだ。
「騎士団が壊滅って……さすが勇者とでも言うべきですかね?」
「あぁ……、立ち回りを間違えたらお前さんら、死ぬぞ」
正直、一回も勇者と戦ったことがないので、勇者の実力を隅々まで知っているわけではない。
しかし……楽しみだ。
そんじょそこらの騎士団長、魔導師を超える実力の持ち主……。
その言葉を聞いただけで胸が高鳴る思いだ。
「楽しみだな……」
「どこがですか!? 下手したら自分たち死ぬんですよ!?」
「その緊迫感がたまらんのだ。わからんのか?」
「私はわかります」
さすがは我の配下だ。我の性格に合わせて答えている。
しかし、この魔術師は駄目だな、戦闘というものを楽しまない類の人間だ。
「お前さんも楽しまんか。一生にあるかないかの出来事なのだぞ?」
「そりゃそんな勇者と戦えば一生はそこで終わりますからね!」
なるほど冗談は上手いらしい。
我はその魔術師のその言葉を聞いて高らかに笑った。
「はは! 面白いことを言うじゃないか」
「実に真剣な事を自分は言ったつもりなんですけど……?」
「シビル様を笑わせられるその度量。私にもご教授願いたいです」
「自分がおかしいんですかね……?」
そのように若い魔術師はそう言って、渋い顔をした。
しかし……本当に勇者相手は気を引き締めていかねばならないな……。
場合によっては我が負ける可能性だってある。
リーバルトから聞いた話だと、奴は魔法が全く効かなかったらしい。
ならば、我もそれ相応の対策をしなければ。
魔法が効かないのならば、物理で行くべきか……。
魔法耐性の能力か? だとしたら魔力で創り出した岩を落としてみたら、どんなふうな処理になるのだろうか。
興味深いな……。
「シビル様が難しい顔をしていらっしゃる……」
「少し笑ってないですかこれ……」
いかんな。戦いのことになるとどうしても笑みが漏れてしまう。
別にそれで笑みが漏れてしまっても、これといった弊害はないのだが、やはり改善はしないといけない癖ではあるのだろう。
我たちはその後20分ほど一休みをした後にまた移動を開始した。
正確には、破壊活動を再開したとでも言うべきなのだろうが。
「これ自分たちいらないんじゃないんですか……?」
我が魔法を放っている隣で、若い魔術師がそのように言った。
「シビル様の負担は減らさないといけません。とにかく微力でもこの方の手伝いをするべきです」
ヘリサスはそう言いながら、我の先にある1軒の家に大きな岩を落とし、破壊する。
やはり魔人の力は良いな。魔力量も多いからか、威力の大きい魔法を使える。
「じゃあ自分は足手まといにならないように、大人しく休みますね」
いくら人間と言えど、仕事をしないのは少々遊びが過ぎるな?
帝国から金を貰っている兵士ならば、給与分の仕事をしてほしいものだ。
「サボっていいとは言ってないが?」
「ええー」
「えー、じゃない」
我はそう言って若い魔術師を窘める。
いくら魔力量が我たちよりも少ない人間だからと言って、サボられては流石に困る。
……これ我お母さんじゃないか?
「シビル様」
我が様々な建物を燃やしている最中、ヘリサスが我の名前を呼んだ。
その声は疑問を持っているかのように感じる声だ。
「どうした?」
「いえ、ホーラ魔法学校は襲撃しないんですか?
あそこが現在、ホーラの様々な部隊が待機している場所だとご存知でしょう?
シビル様なら簡単に破壊できるでしょうに……」
ヘリサスは疑問に満ちたような声で我にそう言う。
魔法学校を襲撃する……か。
「しない。するメリットが我にはない」
「でも魔法学校に待機している部隊や教師が戦場に出てきたら厄介では?
だったら先に魔法学校ごと潰しておいたほうが得策かと」
「それでもだ。我がたかがホーラの部隊、教師ごときに敗れるととでも?」
「そういうわけではありませんが……流石にシビル様と言えどイルモラシア・リブ・ブラッス相手には少々苦戦するかと……」
確かに、あの人と戦って、我が圧勝するような光景は想像ができない。
どちらかと言うと、ボロボロに負ける光景のほうが我としてしっくり来るのだ。
あの人も16年前と比べたら多少なりとも強くなっているだろう。
先生には勝てたが、校長先生に勝てるとは到底思えない。
あの人は勇者よりも強いだろう。
そう考えると、今一番警戒するべきなのは、勇者ではなく校長先生だ。
「そうだな。たしかにあの人は警戒しなければならないな」
「……? 珍しいですね? あなたなら『あんな魔女に我が負ける訳無いだろう!』とでも言うと思いました」
この若い魔術師は我をなんだと思っているのだろう。
我は訝しみながら、そのまま街を破壊し続けた。




