【第百八十一話】魔王と拷問卿
【視点:シビル=メルクディア】
ホーラ王国王都、我にとって、考え深い街を我は破壊している。
我がここを離れたのはもう16年も前か……。先生はどうしているのだろうか。
今頃、リーバルト達が勇者教団の教会を襲撃している頃合いだろう。
あいつらにとって、アディメ・へラーラとか言う娘はよほど大事な者らしい。
「シビル様のお通りだぁぁ!!」
我の近くにいる魔術師がそのように叫んで、火球を四方に撒き散らした。
こいつは我の部下だ。
帝国から譲り受けた部下なので、我の直接の配下ではない。
あくまでもこいつは帝国所属の魔術師だ。
前に配下にした魔人とは違う。
「どこかしこに魔法を撃つな。味方に当たったら面倒だ」
「はい! すいません!」
本当にすまないと思っているのだろうか、こいつは。
もう少し反省しているような顔はできないのか?
それにしても、やはり人間というのは本当に体内魔力量が少ない。
我なら100発は撃てるであろう火球を、こいつらはたった8〜9発程度撃っただけで気絶するほどだ。
そのためか、こいつらがいつも撃つ火球の威力はせいぜい家に火をつけるぐらいだ。
我だったらその家を含んだ区画ごと吹き飛ばせるというのに。
「お前さん、残り魔力少ないだろう? 休んでおけ」
我の保有している、魔力を可視化し自在に操ることの出来る両目で、こいつの残り体内魔力量を見て我はそう言った。
あと5発も魔法を撃てば倒れるな。
「あ……ありがとうございます!!」
そう言って、そいつはその場に座り込んだ。
思ったよりも疲れていたらしい、肩で息をしているような状態でしんどそうだ。
「──あら? 休ませて良いのかしら?」
妙な猫撫で声で話す女がやってきた。
我がこの世で嫌いな奴と言ったら、魔人差別主義者の次にこいつが来るであろう。
「……帰れ」
我は憎悪のこもった声で奴を威嚇する。
「嫌われちゃったわぁ……お姉さん悲しい」
「我と同い年だろう。この年増が」
「あなたにそう言われてもピンと来ないわぁ? お・チ・ビ・ちゃん」
一々癪に障るような言動が目につく。
拷問卿から挑発卿にでも二つ名を変えたらどうだ、と言いたくなってくる。
「我はシビル=メルクディアという名前がある。おチビちゃんなどでは断じて無い」
「ならアタシはエシル・グレーズよ。年増じゃないわ」
「年増だろう」
我がそう言っても、目の前にいるこの女は全然堪えている様子はなく、へらへらとしている。
露出の多い黒い服を着ているのも気に食わん。不敵な笑みを浮かべているのも気に食わん。
「31歳はまだまだお姉さんよ?」
「馬鹿かお前は」
ああもう! 何もかもがうざったい。
こういうことならもっと別の場所の攻撃を担当すればよかった。
なんでよりによってこいつと攻撃場所が被るんだおかしいだろう。
「あ、あの、凄いギスギスしてますけど……大丈夫ですか?」
我の隣で座り込んでいる先程の魔術師の男がそう言った。
大丈夫に見えるのなら、こいつの目は節穴だ。
「そう見えるか?」
「い、いえ……」
「アタシは大丈夫よ!」
「我は大丈夫じゃない!」
なんとかしてこいつをどうにか殺せないものか……。
今殺したら確実にバレるだろうし……。
その醜悪な体ごと消滅させれば……!
「アタシを殺そうとしているのが見え見え♪」
「黙れ」
ああ癪だ癪だ癪だ。
口を縫い合わせてやろうかとでも言いたい。
「また殺り合いたいのか?」
こいつとは一度、本気で殺し合ったことがある。
つい先月、こいつが我の肩に、突然何も言わずに長めの針を刺してきたのだ。
あの時は本当に意味がわからなかった。
痛みをある程度は我慢できる我が、思わず唸ったほどだ。
そうして、ついカッとなった我は、奴に最大出力で闇属性の質量弾を放った。
命中すれば軽く体が200個程の肉塊になって弾けるほどの威力だ。
それを奴はスラリと躱し、挙げ句の果てには笑っていた。
魔力暴走を起こさせようとヤツの動きを目で追っても、魔力を1つの空間に集中させるどころか、姿を捉えるという初歩的なところから不可能だった。
こいつのすばしっこさはネズミよりも厄介だ。
「あなたがアタシに勝てると確信したらね」
「本当に今この場で殺してみせるぞ」
「あら怖い」
我が右手を前に突き出し、照準をエシルに向ける。
すると奴は、我の右手の小指をそっと握りこんだ。
こいつは何故か恍惚とした表情で我の手のひらを眺めている。
気色悪ッッッ!
「小さいわねぇ」
「折るか? 潰すか?」
我は冷静にそう言いながらも、腕に魔力を貯める。
もういっそ折ってほしいものだ。そしたら大義名分ができる。
「潰すなんて怪力、アタシは持ってません」
エシルは我の小指から手を離し、身を翻した。
どこへ行こうというのか。
まあ別に聞かなくてもいいだろう。
「面白そうなおもちゃ見つけちゃったの」
どうせこいつが勝手にペラペラと喋り始めるだろうからなぁッ!
本当にどうでもいい話をしてくる奴だこいつは。
「背丈はあなたよりちょっとちっちゃいけど、反応はあなたに似てとてもかわいい」
「拷問でか?」
「そうよ」
本当に殺してしまおうか。
今なら我の隣にいるこの魔術師も黙ってくれそうなものだ。
「じゃ行ってくるわね! 待ってて愛しのフーリアちゃーん!」
エシルはそう名前を叫びながら、どこか遠くへと走り去ってしまった。そのまま消えてしまえ。
クソ、殺し損ねたか。
しかしそのフーリアという人間も最難だ。
奴から逃げれるような人間ではないだろうし、切に安らかに眠れることを願う。
「嵐のような人でしたね……」
「全くだ」
本当に……。
あんな奴と話していて、我も疲れてしまった。
「我も休むことにしよう」
「お疲れ様です……」
隣で若い魔術師がそう言って、我を可哀想なものを見る目で見てきた。
突っ込む気も起きず、我はその場にへたり込む。
我の視線の先から、我の直属の配下が走ってくるのが見えた。




