第七話・アーティ
襲撃から一夜明け、リリー無事の報告を受けて漸く人心地ついた
リリーの守護を叔父であり今認知されている王族最高の魔力の持ち主たるアーティが施していたんだそうだ。
何がともあれリリーが無事で何よりだ。あんな幼い子が爺の嫁に行くなんざ自由恋愛推奨派としては嫌過ぎる・・・まぁ自由恋愛推奨派を語るだけで本当にそれが今の身分で出来るとは思ってないのだけれど。
「何故爺と思うのです」
小首を傾げる炎樹に昨日を思い出して口を開く
「だって昨日の侵入者、千年に一度のって言ってたじゃない」
「そういえば・・・」
「リリーにはイルギスの第三王子が良いと思うのよね。三つしか変わらないし、良い子だし」
「リリー様の相手を考えるのも良いですが、今は目先に迫ってしまった貴女の相手探しをせねばなりませんね」
「憂鬱ね」
そう、フレイヤ姉上が攫われて未だ余り経っていないのに、次の皇女である私に(今まで見向きもしなかったくせに)続々と現代で言えばお見合い写真が届けられているのである
気が早いと言うか何と言うか
まぁ狙っていた姉上は魔族に攫われてしまった以上、見込みはないし仕方ないだろうケド。
なんで見込みは無いかというと、魔族は己の獲物に所有印をつけるからだ。人によっては呪いとも言えるそれを、この世界の多くのものは穢された印とし、嫌悪する。
たとえ美貌の姉上といえどもそれは変わらない。
ちなみに姉上を猫っ可愛がりしてた両親たる皇帝と皇后は二人して病身に臥せっている
よほどショックだったのだろう。精霊曰く、満足に食事も喉を通らないらしい
ゆえに本来ならば皇帝と重臣で何度も会議がなされ決まる皇女の嫁ぎ先が、私に関しては私に一任されたのだ。放置プレイかよ。っと突っ込んだのは記憶に新しい。
我ながら爆笑するくらい我が両親は私に興味を持たないのだ。
「ソレイユの王子から来てるわね。フレイヤ姉上のがまぎれたのかしら
こっちはシュレインの第二后妃にって」
ソレイユは近隣の中で最も大きな国だが水精霊の加護から見離された国で、彼の国は慢性的な水不足に陥っている
シュレインはソレイユより小国だが勢いのある国だ
どちらの求婚者?も種類は違えど大変美形だった筈?
「どちらも間違いなく姫様の求婚状ですよ。」
「飛龍」
今日の護衛役の炎樹の相方である飛龍が手製の菓子を持ちながら部屋に入ってきた。後ろからは珍しい客人
「こんにちはルナ」
「あら、叔父上こんにちは」
白髪交じりの黒髪を(この国では珍しい)緩く束ね、縁なしメガネがとても理知的な噂のアーティ叔父上の登場に驚く
「昨晩、城を精霊の術が覆った。リリーを狙う魔族を退ける一因にもなったのだよ」
「あら、そうだったのですか?」
「精霊に誰が頼んだものかと問うても教えてくれなくてね。
魔力の発生元を辿ったんだ。いやぁ、中々骨が折れたよ」
叔父が確信を持って笑むので、面倒だと心の底から思った。
アーティは、割と凡庸な皇帝の弟とは思えぬほど非常に頭がいい。正直それも踏まえて一時期はフレイヤ姉上やりりーはアーティ叔父の子供ではないかと疑ったほどだ。
鳶が2匹の鷹を生むより蛙の子は蛙の方がしっくりくる
まぁ結局二人とも確かに私と血が繋がっており、割と凡庸な両親から間違いなく生まれたと分かったが。
「驚いたよ。まさかルナに魔術の能力があったなんて」
そう、能力の面だけは私とて鳶が鷹を生んだと思っている。まぁ転生とか色んな要因はあるのだろうケド
「それで、叔父上。貴方の事ですもの。自身の中で既に決着がついていることの確認に来たわけではないのでしょう?」
「そのとおり。昨日、君の所にも魔族は来たのだろう?何か言ってたかい」
「魔王が千年に一度の花嫁を探しているそうですわ」
「花嫁・・・?やはりそうなのか」
意味深な呟きをしながら自身の思考の海に沈むアーティに知られぬよう溜息を吐き傍らに控える炎樹と飛龍を見上げれば心得たように紅茶が差しだされた。
叔父も私やリリーと同じく思考の海に沈めば中々戻ってこないのだ