↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

第9話 揺らぐことなき信頼

【あらすじ・ご案内】

第9話をお読みいただきありがとうございます!


夕食後の和やかな団らんの中、末っ子の七技から明かされるおめでたい報せ。

それは、小夜と共に臨む国家会議と、その後に控える二人の『結婚』の報告でした。


祝福の歓声に包まれる一家の陰で、長男・道離が静かに呟いた『仕事』の二文字。

そして出発の朝、道離の冷たい異変を心配する小夜に対し、直影と七技が見せたのはどこまでも真っ直ぐな「兄への信頼」でした――。


温かな未来への一歩と、忍び寄る影。ぜひ最後までお楽しみください!

 その日の日暮れ。


「ごちそうさまでした」


 夕食が終わり、温かいお茶をすすりながら家族で一息つく団らんの時間。


「うむ、今日もいい味だった。ありがとう」


 父さんが満足そうに目を細める中、七技がすっと姿勢を正し、向かいに座る両親に向かって切り出した。


「父さん、母さん。今後のことなんだけど……」


「ん? なんだい、七技」


 両親が温かい眼差しを向けると、七技はこれからの予定を一つひとつ丁寧に説明し始めた。


「まもなく行われる、各国のプリンスとプリンセスが集まる国家会議ですが……今年は僕が小夜と共に参加することになりました」


「ほう。道離と直影は、今年は出ないのか」


「はい。直影兄さんは入院のための準備を進めながら、出発までの間、家の警備に回ってもらいます。何もしないというのも体に悪いと思って、4人で話し合って決めました」


「わかったわ。無理はしないでね、直影」


 母さんの気遣う視線に、俺は「ああ、分かってるよ」と笑顔で頷く。


「そして、道離兄さんはいつも通り仕事をして国の安全を守る……そういう手はずになっています」


「その通りだぞ、七技」


「うむ、分かった。しっかり話し合ったのだな」


 父さんも深く頷いた。


「国家会議か。七技も小夜さんも、大役を任されたな」


「はい。それで……」


 七技は隣に座る小夜と照れくさそうに視線を交わすと、意を決したように言葉を続けた。


「その国家会議が終わった後……自分、じゃなくて……僕、小夜と正式に夫婦になることにします」


「まあ……!」


 母さんが嬉しそうに両手を合わせ、父さんも目尻を下げて感極まったように声を張り上げた。


「おぉっ! 本当か、七技! 小夜さん!」


「そして、その数日後に直影兄さんが入院する予定です」


「はい。せっかくの弟の晴れ舞台ですからね。いい思い出を作ってから、俺も治療に専念したいと思います」


 俺が自分のことのように喜びながら言うと、父さんは力強く頷いた。


「めでたい! 小夜さんも立派になりましたな」


「お父様、ありがとうございます」


「おめでとう、七技、小夜さん! ……ふふ、お母様って呼ばれるのは、まだ少し早いかしら?」


「お母様、まだ早いです……っ」


 顔を赤らめる小夜の姿に、部屋全体が温かい笑いに包まれる。


「……それで、君たちも残っていたということかな?」


 父さんが縁側に視線を向けると、そこにいたガルクたちが気まずそうに、けれど心からの笑顔で顔を出した。


「はい、大殿様、大奥様。お食事、大変おいしゅうございました」


「どうしても友として、このめでたい祝福を共に分かち合いたくてな!」


「ありがとう、みんな」


 照れながら微笑む七技の横顔を、道離兄さんはいつも通りの穏やかな笑みで見つめていた。


「おめでとう、七技、小夜さん。本当に素晴らしい報せだね」


「はい、ありがとうございます、兄上様!」


 七技の明るい声に応えながら、兄さんは杯を置き、誰にも聞こえないほどの小声で静かに呟いた。


「……私も、二人の門出とこの国の未来のために……しっかりと『仕事』を果たさなければな……」


 その言葉の奥に込められた、あまりにも重く、冷ややかな意味に気づく者は……誰一人としていなかった。



  *



『次の日』


 国家会議へと出発する直前。

 小夜は荷物の最終確認をする振りをしながら、一人で佇む俺の元へと歩み寄ってきた。


「直影師匠」


「ん? どうした小夜さん。忘れ物かい?」


 縁側で体を休めていた俺が振り向くと、小夜は少し言葉を詰まらせた後、意を決したように声を落として切り出した。


「……師匠。実は……兄上様のことで、少し気になることがありまして」


「兄さんのことで……?」


「はい。昨日の稽古の時、ほんの一瞬ですが……まるで刃のような、冷たい気配を感じたのです。昔の優しい兄上様とは、どこか違うような……」


 師匠である俺への申し訳なさと不安を抱えた小夜の言葉を、俺は優しく受け止めた。


「そっか……気遣ってくれてありがとう、小夜さん」


 俺は立ち上がり、小夜と目線を合わせた。


「兄さんは俺たちのために、昔からずっと一人で重荷を背負ってきたからさ。少し疲れが出ているのかもしれない。俺が入院したら、また余計に負担をかけちゃうしな」


「……直影お兄様……」


「……でも、大丈夫だよ。何かあれば、俺からも兄さんに声をかけてみるから」


「……師匠……はい、ありがとうございます。では、行って参ります!」


「行ってらっしゃい。七技のことを頼むよ」


 俺の言葉に少し安堵した様子で見送りの列へ戻っていく小夜。だが、その胸の奥にある小さなざわめきは、完全には消えていないようだった。



  *



 道中、各国の要人が集まる会場へと向かう馬車の中。


「自動車もいいが、こういう時は馬車のほうが気合が入るな」


「……うん」


 窓の外の景色を静かに眺めていた小夜に、隣に座る七技が優しく声をかけた。


「どうかしたかい、小夜?」


「えっ? あぁ……」


「さっき、直影兄さんと何か話していたね?」


「……ええ。七技様にも、お伝えしておきたくて」


「まだ、ここでは呼び捨てで大丈夫だよ」


「あ、うん……実はね……」


 小夜は直影に打ち明けたのと同じように、稽古の時に感じた道離の不自然な冷たさについて話した。


「そうだったのか……」


 七技は嫌な顔ひとつせず、小夜の言葉にじっくりと耳を傾けていた。やがて柔らかな笑みを浮かべると、小夜の手をそっと自分の手で包み込んだ。


「小夜、ありがとう。そうやって僕の兄さんたちのことを心配してくれて」


「七技……」


「……けど、大丈夫だよ。道離兄さんは昔から少し不器用なところがあるけれど、本当に辛いことや悩みがあれば、僕や直影兄さん、それに蒼竜さんたち信頼している人にちゃんと話してくれるから」


 兄をどこまでも深く信じている七技の瞳には、一点の曇りもなかった。

 その純粋で揺らぐことのない信頼の深さに、小夜はふっと表情を緩めた。


「ふふ……本当に兄上様を信頼しているのですね。さすが七技様」


「いや、だからまだ会場に着いていないんだから……」


「……でも、私、もうすぐ七技様の妻になって、正式に義理の妹になるのですから。もう少しだけ、兄上様のことを見守ってみますね」


「小夜……うん、よろしく頼むよ。小夜が家族になってくれたら、兄さんもきっと喜ぶから」


 二人が柔らかく笑い合っていると、やがて馬車がゆっくりと速度を落とした。


「お二人とも、到着いたしました」


 御者の声に促されて外へ出ると、そこには各国の紋章が誇り高く掲げられた、荘厳で巨大な国家会議の会場がそびえ立っていた。


「すごい……これが国家会議の会場……」


「よし、行こう、小夜。僕たちの未来のためにも、しっかり大役を果たしてこよう」


「はいっ、七技様!」


 七技と小夜は深く頷き合い、期待と緊張を胸に抱きながら、豪華な会議場の扉へと一歩を踏み出した。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


結婚の報告に喜ぶ家族の温かい空気と、直影・七技が抱く道離への「揺らぐことなき信頼」がとても眩しい回でした。

しかし、その信頼を注がれる道離自身は、静かに悲壮な『仕事』へと向かおうとしています。


国家会議の場で何が起きるのか、そして道離の決意とは――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。