第10話 三男・七技の旅立ち
【あらすじ・ご案内】
第10話をお読みいただきありがとうございます!
各国の要人が集う国家会議の裏で、ついに『最悪の歯車』が動き出します。
兄・道離の違和感を確かめるため書斎へ向かった直影が目撃した、あまりにも残酷な真相。
そして、会議場を襲う実家からの悲痛な悲鳴と、世界全土へ響き渡る『終焉』の宣告――。
豪華絢爛な国家会議の控え室には、各国の王子や王女、そしてその側近として集まった者たちが一堂に会していた。
「小夜、大丈夫かい?」
「う、うん……す、すごい……すごく緊張しているの……」
「落ち着いて、まだ時間はあるから……」
そこには、古代術式学者として異能国の王子の側近を務めるエルヴァンや、霊峰国の王女に付き従うフィナの姿もあった。
「あら、小夜。素敵ね」
「あ、こ、これは……フィナ様……! ほ、本日はよろしくお願いします……」
「ふふっ、緊張しちゃって可愛いわね」
「あっ……その、初めての経験だから……」
「少しお話ししましょう。そうすれば、少しは緊張もほぐれるわ」
「そうだな。小夜、少し話そうか」
「なら、僕も話に入れてくれるかい?」
声の主はエルヴァンだった。七技と小夜の方へ歩み寄ると、眼鏡の奥の目を光らせ、周囲に聞こえないよう声をひそめた。
「七技、小夜。今回の会議、かなり穏やかじゃない議題になりそうなんだ」
「それは、どういうことだ?」
「どうやら、近年観測されている『異世界の発見』と、それに伴って発生している歪みや危機の回避についてが中心になるらしい」
「異世界とのつながり……国を揺るがす大問題ですわ」
フィナも緊張した面持ちで深く頷く。
だが、その報告を受けた七技と小夜の表情は、どこか冷静だった。
「なるほどね……。でも、そこまで驚きはないかな」
七技が静かに言うと、小夜も深く頷いた。
「ええ。これまでの事件の件もありますし、何より道離兄上様や直影師匠から、異世界に関するお話は伺っていましたから」
「……頼もしいね。さすがはあの家の二人だ」
エルヴァンが安堵の息を漏らしたその時、開会を告げる重厚な鐘の音が響き渡った。一行は息を整え、メイン会場へと足を進める。
「小夜、気分はどうかな?」
「うん、みんなと話したら少し落ち着いたわ」
「そうか、良かった」
*
時を同じくして――央和ノ国、七技たちの実家。
「兄さん、俺だ」
入院の準備を進めていた直影は、今朝の小夜の言葉がどうしても頭から離れず、道離の部屋を訪れていた。
「兄さん、いないのか……入るよ」
静まり返った部屋の扉を開ける。やはり兄の姿はない。
「兄さん……?」
ふと見回した書斎の机の上に、不自然に散らばる資料が目に入った。それは、先日決着がついたはずの闇組織のアジトに関する記録だった。
「ん? これは……?」
直影は引き寄せられるように、一枚の現場写真に目を止める。
「……えっ……こ、この痕跡……! ま、まさか……!?」
そこに残されていたのは、言葉を失うほど凄惨な光景だった。
道離だけが扱えるはずの最高位秘術――『時空忍法』によって、空間ごと組織のボスが削り取られ、消去された異常な現場の記録。
(な……なんだこれは……!? 兄さんが……『時空忍法』で……ボスを葬り去って、乗っ取った……!?)
直影の脳裏に激震が走る。
あのアジトに残されていた冷たく重い空気も、空間を抉り取ったような歪な痕跡も。
そのすべては、道離が裏で『時空忍法』を振るい、ボスの存在を消去して冷酷に組織を乗っ取った揺るぎない証拠だったのだ。
俺を救ったんじゃない。道離兄さん自身が、裏社会の新たな黒幕として君臨していた――。
「そんな……! 兄さんが……!?」
あまりの恐怖と事実にガタガタと身を震わせる直影。
その背後から、温度の完全に消えた声が響いた。
「――気づいてしまったか、直影」
「兄……さん……!?」
振り向いた直影の目に映ったのは、いつもの穏やかな兄ではなかった。光の消えた瞳、感情の削ぎ落とされた異様な面持ち。
「……ザ、ン……ネ、ン……ダ」
壊れた機械のように引きつった音声を漏らす兄に、直影は血の気が引くのを覚えた。
「いや……お前は……誰だ……!?」
直影の悲痛な絶叫が木霊し、温かかった実家で恐ろしい惨劇の幕が切って落とされた。
*
一方、国家会議がまさに始まろうとしていたその瞬間。
「さて、皆様。今回、最初の課題ですが――」
議長が声を張り上げた矢先、甲高い警報音が会場中に響き渡った。
「な、なんだ!?」
「緊急告知……!?」
七技の手元にある通信端末が、実家からの異常事態を知らせる異質なアラートを吐き出す。
画面に表示されたのは、途中で途切れた恐怖のメッセージだった。
『央和ノ国にて大殿様と大奥様、重傷。道離様、直影様にも――』
「な……なに!? 家で……直影兄さんに何かが起こった……!?」
「七技様……!?」
七技と小夜が青ざめ、息を呑んだその瞬間――世界が止まった。
「央和ノ国の砦で、一体何が起きたのですか!?」
「七技様、教えてください!!」
激化する会場の混乱をあざ笑うかのように、突如として天窓から見える空が不気味な漆黒に染まり、豪華な会議場全体がグラグラと激しく揺れ動き始めた。
「皆さん、落ち着いてください!!」
「私たちが冷静にならなければ……!」
『……聞こえるか……』
その声は、会場にいる者たちだけではなく――この国の、外の国の、この星に生きるすべての生命の脳内に直接、地獄の深淵から響くように届いた。
「な、何だ、この声は……!?」
『我が名は「終焉」――』
絶望そのものを孕んだ声が、星全体を恐ろしい覇気で激震させる。
『われは、この国……外の国……この星に住む生命をすべて消滅させ、この世界を終焉に導く……!』
圧倒的な殺意と威圧感に、会場は一瞬で阿鼻叫喚のパニックへと陥った。
「と、ともかく……鎮めないと……!」
かろうじて冷静さを保とうとする各国のプリンスとプリンセスが、必死に場を抑えようと声を張り上げる。
「何が……何が起きているんだ……!!」
実家で起きた惨劇の予感と、世界全体を覆う圧倒的な破滅の恐怖。
「な、七技……何なの、これ……!」
「そんなの、俺が知りたいよ……!!」
突きつけられたあまりにも巨大で容赦のない絶望の前に、七技と小夜はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ついに壊れてしまった長兄・道離と、惨劇に見舞われた実家。そして世界を滅ぼさんと宣言する恐怖の存在『終焉』の出現――。
あまりにも過酷な現実を一度に突きつけられた七技と小夜は、この絶望をどう乗り越えていくのか。
物語はここから怒涛の第二部・反撃と真実の編へと突入していきます!
「続きが気になる!」「七技たち負けないで……!」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や★評価をよろしくお願いいたします!




