第11話 悲劇と誓い
【あらすじ・ご案内】
第11話をお読みいただきありがとうございます!
世界を揺るがす異変の裏で、あまりにも残酷な惨劇に見舞われた央和ノ国。
両親を失い、長兄・道離の死という現実に打ちひしがれる七技。そして、医療カプセルの中で必死に命をつなぐ次男・直影。
深い絶望の闇に落ちる七技の手を握り締め、かつて自分を救ってくれた彼のために立ち上がることを誓う小夜。
しかし、彼女の聡明な瞳は、現場に残された「ある不自然な違和感」を捉えていました――。
愛する人を守るための誓いと、真実への疑惑。ぜひ最後までお楽しみください!
央和ノ国の医療院。
「大殿様と大奥様は手を尽くしたのですが……」
「兄は……次男は……っ」
静まり返った集中治療室のガラス越しに、青い光を放つ大きな医療カプセルが鎮座していた。
「入院のために用意していた医療カプセルが、奇跡的に命をつないでいます。……しかし、助かる確率は五分五分です……」
重酸素液に満たされ、痛々しい機械を何本も繋がれたまま静かに眠っているのは、次男の直影だった。
「そうですか……」
「私は、ここで失礼しますが……」
「あ、私たちは……しばらくここにいます」
「わかりました」
医師が静かに病室を去っていく。
カプセルの横で、七技は力なくパイプ椅子に腰掛け、握りしめた拳を額に押し当てていた。
「七技……」
七技の隣に、小夜がそっと寄り添う。
七技の震える手の中に収まっているのは、黒ずんだ一つの勾玉のお守り――長男・道離の紋章が刻まれた家伝の品だった。
「父さんと母さんは亡くなり……道離兄さんまで……。なんで……なんで兄さんたちが……っ」
七技の掠れた声と涙が、集中治療室の無機質な機械音の中に静かに溶けていく。
「七技……」
「小夜……しばらく、手を握らせてくれ……」
あまりにも過酷で理不尽な現実が、七技の心を木っ端微塵に打ち砕いていた。
「……うん、いいよ」
小夜は差し出された七技の手を、両手でぎゅっと包み込むように握りしめた。
震える彼の背中にそっと身を寄せながら、小夜の脳裏には、数年前の光景が鮮明に蘇っていた。
(あの時の私と……同じだ……)
事故で家族を一瞬にして失い、世界のすべてが真っ暗になったあの日。
『パパ……ママ……帰ってきて……私を一人にしないで……っ』
生きる気力も未来への希望も奪われ、学校に通うことすらできず、ただただ悲しみと孤独の暗闇の中で震えていた自分。
『もう大丈夫。なぁ、俺たちの家に来いよ。俺が、俺たちが君の家族になる』
誰の手も届かない深い闇の底に沈んでいた自分を見つけ出し、力強くその手を引いてくれたのが、他ならぬ七技だった。
温かい言葉と共に、新しい居場所と『生きる理由』をくれた。
七技がいてくれたから、自分は今日まで前を向いて、笑って生きてこられたのだ。
(私からすべてを奪った絶望の闇から、七技が救い出してくれた……。新しい家族と、温かい日常をくれた……)
ボロボロと涙をこぼし、すがるように自分の手を握り返してくる七技。
その切ない温もりに、小夜は胸が押し潰されそうになりながらも、溢れ出る涙をぐっと堪えて瞳に強い光を宿した。
(だから……今度は、私が七技を支える番だ。家族を失った痛みがどれほど恐ろしくて寂しいものか、私には痛いほどわかる。だからこそ……何があっても、どんな深い暗闇の中でも、絶対にこの手を離さない)
小夜は七技の肩にそっと顎を乗せ、寄り添いながら彼の途切れ途切れな呼吸に耳を澄ませる。
だが――その時。
彼の手の中で黒く焦げついている道離の勾玉が、ふと小夜の視界に入った。
(道離兄上様の……お守り……)
深い哀しみで胸が締め付けられる一方で、小夜の頭の片隅に、どうしても拭い去れない『小さな引っかかり』が生まれた。
(……なんで、道離兄上様だけ……?)
屋敷に残されていた惨状。
両親と直影師匠の体に刻まれていたのは、明らかに何者かと凄絶な戦いを繰り広げ、襲撃されたことによる傷痕だった。
――だが、なぜ道離と思われる人物だけが、顔の判別すら不可能なほど全身黒焦げになっていたのだろうか。
(……やっぱり、不自然だわ)
焼き尽くされた肉体。
それなのに、なぜこの小さな勾玉だけが、まるで「これが道離だ」と主張するように、焦げた手の中に鮮明に残されていたのか。
(それに……あの部屋に残っていた、刺さるような冷たい気配……。あの朝、道場で道離兄上様の木刀から伝わってきた冷気と、まったく同じだった……)
思い返せば返すほど、異質な疑問が次々と頭をもたげてくる。
(まさか……兄上様は、本当に亡くなったの……? それとも……)
しかし、すぐ隣で大切な家族を一度に失い、血を吐く思いで泣いている七技の姿を見ると、確証のない疑問を軽々しく口にすることなどできなかった。
(……ダメ。今、こんなことを言ったら、七技の心が破綻してしまう……)
もし自分の思い過ごしであれば、傷ついた七技の心をさらにかき乱すことになってしまう。
(私が……確かめなきゃ。もし、この疑問の先に何か別の真実があるのなら……七技を守るために……!)
小夜は七技に悟られないよう、静かにその強い決意を胸の奥底へと秘めるのだった。
「あ、失礼します」
そこに、一人の看護婦が静かに病室へ入ってきた。
「お二人にお客様です。病室の外にある別室でお待ちになっております」
看護婦の言葉を聞き、小夜は溢れそうになる涙をそっと拭った。
「あ……ありがとうございます」
小夜は七技の背中を優しく支えて立たせると、病室を出て指示された別室へと向かう。
そして扉を開けた瞬間、七技は息を呑んだ。
「お前たち……!?」
そこには、静かに二人を待ち続けていた三人の姿があった――。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
悲しみの中で固く結ばれる七技と小夜の絆。そして、道離の「死」に対する小夜の鋭い疑問と密かな決意――。
絶望の中でも前を向こうとする二人の姿が、切なくも強く印象に残る回となりました。
そして病室の外で二人を待っていた「三人」とは一体誰なのか!?
物語はいよいよ新たな局面へと動き出します。




