第6話 師匠として、兄として
【前書き】
【あらすじ・ご案内】
第6話をお読みいただきありがとうございます!
今回は次男・直影視点で描かれる、束の間の日常と鍛錬の日々です。
天才である長男・道離に追いつくため泥臭い努力を重ねてきた直影と、七技の隣に立つため弱音を吐かず食らいつく小夜。二人の絆と「師弟」としての信頼を描きます。
七技たちが暮らす実家の道場に、爽やかな朝の陽光が差し込んでいた。
「本日もよろしくお願いします!!」
「小夜さん、今日は少しハードな特訓ですよ!」
道場では、俺と七技のフィアンセである小夜が稽古着に着替え、向かい合っていた。
「はい! 行きます!!」
小夜はこの家に同居し、七技のフィアンセとして迎えられるにあたって、この家の「くノ一」として認められるよう、日々血の滲むような特訓を重ねている。
「はっ!! いやぁっ!!」
「少し力を抜く! まだ隙があります!」
鋭い踏み込みで打ち込んでくる小夜の攻撃を、俺は冷静に見極めて受け止める。
(俺は……道離兄さんのような、圧倒的な天才じゃない)
激しい打ち合いの最中、俺は少しだけ自分が歩んできた道を思い出していた。
(だからこそ、誰よりも早く起き、血の滲むような鍛錬を毎日泥臭く重ねてきたんだ)
基礎中の基礎である忍術をすべて身につけ、先祖代々受け継ぐ一つの忍術だけを極限まで研ぎ澄ます。そして体術を鍛え上げる。
それだけが、弟の手本となり、忍びとして大きすぎる長兄の背中に追いつく唯一の方法だったからだ。
「そこまで!」
「はぁ……はぁ……ふぅ……ありがとうございます!」
「まだ少し隙がありますが、以前より動きの切れが良くなっていますよ。日々の努力がしっかり身についています」
俺は手にした手ぬぐいを小夜に手渡しながら、懐かしそうに目を細めた。
「小夜さん。あなたが事故でご家族を失い、七技に連れられてこの家に来たときは……本当に消えてしまいそうな顔をしていましたね」
「え……?」
突然の言葉に、汗を拭っていた小夜の手が止まる。
「身寄りをなくして傷つき、自分の無力さに俯いてばかりで……正直、俺たちも心配したんです。『本当にこの子が、厳しい忍びの家でやっていけるのだろうか』とね」
「……はい。あの頃の私は、家族を失った悲しみに囚われて……ただ七技様に助けていただいたばかりの、何も持たない存在でした」
小夜は胸にそっと手を当て、静かに当時を振り返る。
「だけど、あなたは泣くのをやめて言ったんだ。『もう二度と大切な人を失いたくない。七技様の隣に胸を張って立ち、この家を守れる強さが欲しい』って」
俺は温かい笑みを浮かべ、小夜の頭に軽く手を置いた。
「あの真っ直ぐな瞳と強い決意を見たからこそ、俺も道離兄さんも、あなたをただ守られるだけの存在じゃなく、七技のフィアンセ……そしてこの家の誇り高き弟子として鍛え上げようと決めたんですよ」
「直影お兄様……!」
「今や立派なものだ。弱音ひとつ吐かずに厳しい修業についてきてくれた。七技があなたを生涯の伴侶に選んだ理由も、家族全員があなたを認めた理由も、今のその立ち姿を見れば誰もが納得しますよ」
「直影師匠……! 今日の組手も、本当にありがとうございました!」
感極まったように真っ直ぐな瞳で、深々と一礼する小夜。
小夜は俺のことを七技の兄——つまり『義理の兄』として慕い、同時に『師匠』として心から尊敬してくれていた。
「しっかり休んでくださいね。この後、お仕事ですよね?」
「はい、少しだけ時間があるので、しっかり休んでから職場に向かいます」
俺が陰でどれほど努力を重ねているかを誰よりも知っているからこそ、小夜さんもまた、厳しい修業に食らいついてきてくれたのだ。
「二人とも、お疲れ様」
「あ、お母様! おはようございます」
「母さん、おはよう」
冷たい飲み物の乗ったお盆を手に入ってきたのは、俺たちの母親だった。
「少し見ていたけれど、小夜さん。本当に、よくここまで頑張ってきましたね」
「はい! でも、まだまだです。お兄様たちや七技様と共に、忍びとして生きるには……」
「そう思えるだけでも、十分立派ですよ」
「母さん、どうしてここに?」
「朝食を済ませてすぐに道場へ行ったから、そろそろ一段落すると思ってね。飲み物を持ってきたのよ」
「さすが母さん、気が利くなぁ」
喉を潤す二人を温かい眼差しで見つめていた母親が、ふっと表情を引き締めた。
「さて……今日は大事な会議があるから、そろそろ出かけますね」
「いってらっしゃい、母さん。父さんによろしくな」
今日は各国の王や妃が一堂に会し、それぞれの国の情勢や変化を報告し合う重要な会議の日なのだ。
「家のことは、私達に任せてください!」
「ふふ、頼もしいわ、小夜さん。それじゃあ行ってきますね、直影」
母親が道場を後にすると、小夜もまた出かける準備へと動き出す。
「それじゃ、道場の掃除を始めますね」
「あ、軽くでいいですよ。あとは自分がやっておきますから」
俺は汗を拭うと笑顔で箒を手に取り、静まり返った道場の掃除を始めるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
天才ではないからこそ努力を重ねてきた次男・直影と、大切な人のために強くなろうと誓った小夜。二人の「師弟」としての深い信頼関係が感じられる回でした。
一方で、両親が向かった「各国の重要会議」……この裏でも何かが動き出しそうな予感がします。
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