第4話 破れし理想と狂える世界
【あらすじ・ご案内】
第4話をお読みいただきありがとうございます!
今回は長男・道離が世界の「醜い真実」を突きつけられ、抱いていた理想がガラガラと音を立てて崩れ去る、物語の大きな分岐点となるエピソードです。
数日後。兄弟三人がそれぞれ持ち寄った情報は、新たな局面を示していた。
「彼らが動くとなると、表立って俺たちが割り込むわけにはいかないな」
国の治安を担う警備隊(警察)が、例の闇組織の隠れ家を特定し、一網打尽にするガサ入れを計画しているという。
「ああ。だが、あの組織の背後にある異世界の手がかりを警察が抑えてしまえば、うやむやに処理される恐れがある。正体を隠して警察の捜査を裏から手助けし、必要な情報だけを先に回収するぞ」
迎えた作戦当日の夜。
「突入の準備、確実に進んでいる」
次男の直影は警察の制服に見事な変装を施して現場の警察隊に紛れ込み、無線で突入のタイミングや動きを俺たちへ逐一伝達してくる。
「こっちは潜入成功したよ」
通信を受けた三男の七技は、フィアンセの小夜と共に裏口の闇から潜入を果たしていた。
「資料室に着きました」
「情報を手に入れたら、俺たちは先に脱出するよ」
小夜のサポートを得ながら、七技は植物の術で警備を鮮やかに欺き、奥の保管庫から別の極秘資料を手際よく回収していく。
「了解……兄さんは?」
「今、核心部だ……」
混戦に乗じ、俺は単身で隠れ家の最深部へと足を踏み入れていた。
そこで目撃したのは――あまりにも恐ろしい密議だった。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
「かたい挨拶はいい。さっさと最終確認を始めろ」
密室に集まっていたのは、我が国、そして周辺の六つの国々に君臨する権力者たちだった。
「こちらは、我が国で開発中の戦闘兵器です……」
「我が国では、数年前に使用していた違法植物の栽培が進んでいます……」
「その二つがあれば、大金が手に入るのは確実だな……」
「一応、予備も考えて、私たちの国にある裏金も準備している……」
「ここまで準備を進めていたんだ、失敗は許せんな……」
「なに、一度戦争を始めてしまえば、あとは権力をうまく使えばどうにでもなる」
「あとは、どこの国に行くかだが……」
「遠い国で、信頼を得ている国は、今いくつある?」
「待て、その前に……異世界というのは見つけたのか……?」
胸の奥が冷たく冷えていくのが分かった。
彼らはあえて遠い国との間に意図的に戦争を引き起こし、兵器や違法物資を密売して巨額の私腹を肥やすという、醜悪な裏商売を企てていたのだ。
「戦争だと……!?」
絶句する俺の耳元で、イヤホンから直影の低い声が響いた。
「彼らが突入する……!」
「——突入ッ!」
次の瞬間、警報音と共に警察隊が一斉に雪崩れ込んできた。
悲鳴と怒号が飛び交い、建物内にいた犯罪者や反社会勢力は一網打尽に捕らえられていく。
「おい、お前、大丈夫か!」
「はい……ご苦労様です」
警察官に変装していた俺は、混乱に乗じて突入隊に紛れ込んだ。
「手伝ってくれ、奴らを連行する!」
「はい……!」
任務自体は、完璧な成功を収めたはずだった。
「おい、離せ!!」
だが――連行されていく人間たちの醜悪な実態を目の当たりにし、俺の心は氷のように冷たく凍りついていった。
「俺は、娘の入院費が必要なんだ!! 最後に、娘に金を渡させてくれ!!」
自国の役人は、涙を流しながら叫んでいた。「愛する娘の病を治す薬代のためだ」と。そして、そのために長年の友人を警察に売り渡したのだという。
「なんで止める! 俺たちは、争うことが生きがいだろう!!」
巻き込まれた市民は、連行される群衆を冷ややかに見つめ、あざ笑っていた。「昔からこうだし、人間なんてどうせ争う生き物でしょ」と。
「金、金が欲しい!! 俺は幸せになって、大金持ちになりたい!!」
捕まった異国の男は、開き直って狂ったように叫ぶ。「他人がどうなろうと知るか! 俺は俺だけの命を守るために大金が欲しかったんだ!」と。
(なんだ……これは……)
視界が歪むほどの胸くそ悪さの中で、俺は連行されていく者たちの中に、一人の男の姿を見つけた。
「おい……お前……」
息が止まる。
「道離……?」
そこにいたのは、かつて忍びとして捕らえたかつての友――過去の罪で人をあやめた『じゅん』だった。
「……誰のことだ?」
正体を知られるわけにはいかない。俺は一言だけ淡々と告げ、背を向けた。
「どうしてだ……! どんなに改心しても、罪を償おうとしても……結局、こうなるんだよ!!」
背後から追ってくるのは、親友の涙ながらの悲痛な叫び。
誰かのために善意で傷つけ合い、最初から変わりっこないと諦め、己の欲望と命のために戦争すら引き起こす。
政治家として理想を追い求め、忍びとして命を懸けて国を守ってきた。
そのすべてが、嘲笑われているかのように虚しい。
俺の中で長年積み重なっていたストレスと、人間という種族への絶望が限界を超え、ガラガラと音を立てて完全に崩壊した。
(――ダメだ。法も、政治も、優しさすらも……この狂った世界を救う術にはならない)
瞳から光が消え、暗い闇が心を満たしていくのを、俺は止めることができなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
世界の醜い現実と人間の欲望の深さを突きつけられ、ついに心が折れてしまった長男・道離。
正義と理想を追い求めてきた彼が選ぶ、次の一手とは――。
ここから物語は一気にダークで緊張感のある展開へと加速していきます!
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