第3話 迫る違和感
【あらすじ・ご案内】
第3話をお読みいただきありがとうございます!
今回は長男・道離視点で描かれる、物語の重要な転換点です。
政治家として国政に立ちながら、裏で動く「異世界」の影と不穏な存在。そして、弟・七技とそのフィアンセ・小夜への温かな想いと覚悟が描かれます。
昼の顔を持つ俺――長男の道離は、政治家として国政の場に立ちながら、裏で前回の任務で得た極秘資料の解析を進めていた。
「おはようございます、道離さん」
「おはよう、蒼竜」
声をかけてきたのは、龍神国・筆頭龍騎士の出身であり、俺の親友でもある蒼竜だ。現在はスケジュール管理を担う私設秘書を務めてくれている。
「おはようございます、道離さん」
「おはよう、アミナ」
続いて挨拶を返したのは、機巧国出身の公設秘書・アミナだ。
二人とも俺が忍びであることを知っており、国を守るための裏の情報機関――例えるなら、この世界のFBIのような極秘組織の役割も兼ねていた。
「あの、道離さん。少しお話が」
「なんだ、アミナ?」
アミナが周囲を気にしながら、声を潜めて問いかけてくる。
「……昨日の月はどうでしたか?」
「あぁ、兄弟三人で見に行ってきたが……あの日は半月だったかな」
『昨日の月』は直近の潜入任務を指し、『半月』は予定していた第一段階の資料回収が完了したことを示す暗号だ。
「半月でしたか……」
「君たちはどうだった? 何かスケジュールの変更や、異常はあったか?」
「はい……表向きの国政には大きな異常はありません。ですが、気になることが」
そう言って蒼竜が静かに頷き、一枚の書類を俺のデスクへと滑らせた。
「我が国の龍騎士団と、機巧国の観測班から届いた報告です。最近、闇市で出回っている異質な技術や物資……それらの出処を追ったところ、この世界のどの国にも当てはまらない『歪み』が観測されました」
俺は二人の秘書から受け取った報告書と、昨夜奪取した資料の暗号コードを、即座に脳内で照合していく。
「アミナ、機巧国で検出されたこのエネルギー波形……既存の技術や他国の秘密兵器で説明がつくものなのか?」
「いいえ、不可能です。持ち込まれた物資の分子構造そのものが、この世界のどの物質とも一致しません。まるで……物理法則そのものが異なる場所で生み出されたかのように」
「物理法則が違う、か。……蒼竜、お前のところはどうだ?」
「我が龍騎士団の古文書にも、これと全く同じ反応の記録がありました。数百年前に空の歪みから現れたとされる『外の世界の鉱石』……おとぎ話の類だと思っていましたが、今回押収された物資の成分と完全に合致しています」
「物理法則も異なる、外の世界……」
資料を見つめたまま、俺は静かに言葉を溢した。
もし本当に存在するのだとすれば、一体どんな場所なのだろうか。
空を機械が飛び交う世界か、あるいは目に見えぬ精霊や魔法のような力が満ちている世界か――。
「想像もつきませんね……」
アミナが不安そうに軽く身震いをする。
「ですが、もしそんな異世界から悪意ある存在や技術が持ち込まれているのだとしたら……私たちの常識は一切通用しないかもしれません」
二人の真剣な言葉を聞きながら、俺は昨夜手に入れた裏帳簿のデータに再び視線を落とした。
資金の流出先、物資の最終目的地。
どれほど高度な暗号を解読しても、その到達地点は地図上のどこにも存在しない「空白の領域」を指し示している。
「単なる隠密組織の偽装口座であってほしかったが……これだけの整合性を見せつけられては、否定する方が難しいな」
俺は深く椅子にもたれかかり、重い息を吐き出した。
科学的分析と古くからの伝承、そして目の前にある現実のデータ。
すべてが重なった瞬間、脳裏の霧が晴れ、瞳から迷いが消え去る。
「……本当に存在するんだな。俺たちの生きる場所とは違う、『異世界』が」
重苦しい沈眠が室内を包み込む。
秘書として、そして親友として俺の葛藤を察した蒼竜が、雰囲気を和らげるようにふっと肩の力を抜いた。
「……道離。もしこの『異世界』の影が本格的に動き出せば、お前の家族や……七技たちも無関係ではいられなくなるぞ」
「ああ。だからこそ、俺がここで喰い止めなければならない」
「そういえば……前々から気になっていたのだが」
蒼竜が少し表情を緩め、尋ねてきた。
「七技のフィアンセとなった小夜殿のことだ。忍びの家系として誇り高いお前たちの家に、彼女が迎えられたのは……どういった理由からだったんだ?」
「それ、私も気になります」
アミナも興味深そうに耳を傾ける。
俺はどこか懐かしむような、穏やかな笑みを浮かべた。
「……小夜さんはな、ただ守られるだけの存在じゃないんだ。どんな困難があっても七技の隣に立ち、彼の心を一番近くで支えられる強さと優しさを持っている」
窓の外に広がる穏やかな街並みを見つめながら、言葉を続ける。
「あいつが……七技が『この人を守りたい、共に歩みたい』と心から願った相手だ。忍びとしての厳しい生き方を受け入れ、互いを思いやる二人の姿を見て、父上も母上も……俺たち兄弟も、満場一致で認めない理由がなかったのさ」
「なるほどな……七技の決意と、彼女との絆というわけか」
蒼竜が深く頷くのを見届け、俺は再び表情を引き締めた。
「ああ。だからこそ、あのふたりの穏やかな日常を……絶対に壊させるわけにはいかない」
この世界の闇取引のさらに奥に潜む「異世界」の存在。
そして、今回の事件の糸を引く「もう一つの謎の組織」の影。
迫り来る巨大な違和感を前に、俺は固い決意を胸に秘めるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
長男・道離の裏の顔と頼れる仲間たち、そしてついに確信に変わった「異世界」の存在。
七技と小夜の絆を語る道離兄さんの優しさと覚悟が描かれた回でした。
この陰謀が今後どのように三兄弟を飲み込んでいくのか――。




