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第2話 平穏の裏に潜む予兆

第2話をお読みいただきありがとうございます!


今回は、激しい潜入任務を終えた三兄弟の温かな家族の日常と、作戦会議の裏で密かに覗く「不穏な予兆」が描かれます。


少しでも楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークやページ下部の評価(★)で応援していただけると励みになります!

 無事に隠れ家へと戻り、着替えを済ませた俺たちを待っていたのは、湯気と温かな香りが立ち込める食卓だった。


「無事に終わったようだな」


 食卓の頭に座る父さんが、満足そうに目を細める。


「ああ。直影が引きつけ、七技が道を拓き、俺が鍵を手に入れた。申し分のない成果だ」


 道離兄さんが淡々と答えると、直影兄さんが肉料理に箸を伸ばしながら口を開いた。


「まあ、俺の完璧な変装があってこそだけどね」


「あはは、確かにそうだね」


 軽口をたたく直影兄さんに、俺は思わずくすりと笑う。


 そんな和やかな歓談の最中、父さんがふと箸を置き、俺たち三人を見渡して重厚な声で言った。


「お前たち三人なら、誰がこの家を継いでも申し分ない。……そろそろ、跡目について考えておきなさい」


 食卓の空気が一瞬だけ引き締まる。

 だが、直影兄さんが肩をすくめて苦笑いを浮かべた。


「父さん、またその話? 心配しなくても大丈夫だって」


「そうだよ、父さん。自分たち三人でしっかり話し合って、一番相応しい形で決めるからさ」


 俺も柔らかい笑みを浮かべて頷き、道離兄さんもまた静かに首肯する。

 互いを尊重し合う俺たち兄弟の間に、陰湿な跡目争いなんて存在しなかった。


「ほら、あなた。美味しいお料理が冷めてしまいますよ」


 母さんが朗らかに口を挟み、隣に座る若い女性——俺のフィアンセである小夜(さよ)へと温かい視線を送る。


「今日の夕食は、小夜さんが中心になって作ってくれたのよ。七技の好きな煮物もね」


「七技様、お口に合えば嬉しく思うのですが……」


「小夜、いつも通りでいいから」


 照れくさそうに微笑む彼女に心が和み、俺は顔をほころばせた。


「すごく美味しいよ、小夜。ありがとう」


「それと小夜さん、食事が終わったら俺の部屋に来てくれ」


 家族の温もりと穏やかな愛に満ちた時間が流れる中、道離兄さんが静かに声をかける。


「え? あ、わかりました」



 にぎやかな夕食が終わり、一同がそれぞれ自室へと戻っていった後――。


 小夜は少し緊張した面持ちで、道離兄さんの部屋の扉を叩いた。


「どうぞ、入って」


 中から落ち着いた声が響く。


「失礼します……わぁ……すごい……」


 扉を開けて足を踏み入れた小夜が、思わず息をのんだ。


 そこにいたのは、いつもの温和な家族の顔ではなく、忍びとしての真剣な表情を浮かべる俺たち三人だった。

 机の上には、今夜手に入れた裏帳簿のデータと、地下資料室から持ち出した最高機密文書が広げられている。


「小夜、これから自分たちが話すことは覚えてもいい……けど、前にも話した通り——」


「わかっているわ。このことは絶対に口外しないこと。話していいのは、七技たちの両親にだけ。でしょ?」


「お、ちゃんと覚えているようですね、小夜さん」


 直影兄さんが軽く微笑み、道離兄さんが書類へと視線を落とした。


「それじゃ、このまま始めるぞ」


 先ほどまでの柔らかな空気から一転、三人の気が引き締まる。


「このデータ……闇組織の手伸ばし先は、思っていた以上に深いな」


 道離兄さんが資料を指で辿りながら、冷静に分析を進める。

 持ち帰った機密文書の端を追っていた俺は、ふとある記述に目を留めて呟いた。


「おっ? これは……。なぁ、ここに書かれている『時空の歪み』とか『異世界』の存在って、本当なのかな」


 隣でデータをチェックしていた直影兄さんが、軽やかに肩をすくめる。


「ふん、異世界だか何だか知らんが、俺たちの世界に害がねぇなら気にする必要もねぇよ。そんなおとぎ話みたいな記述より、目の前の仕事を片付けるのが先だ」


「でも、直影お兄様……」


 小夜が少し心配そうに眉をひそめ、俺の隣へと寄り添った。


「もしその異世界とやらから、良からぬものが流れ込んできたら……私たちの平穏な暮らしにも影響が出てしまわないでしょうか」


「ああ、俺も小夜と同意見だな。俺たちの日常にどんな影響を与えるのか……万が一に備えて、少しは知っておきたい」


 俺が頷くと、資料から目を離さずにいた長男・道離兄さんが、ゆっくりと顔を上げた。


「……日常への影響、か」


 感情の読めない冷ややかな瞳で、一瞬だけ俺たち三人を見つめる。

 そして、静かに呟いた。


「お前たちは浅いな。重要なのは影響などではない。その境界の向こうに、一体『何が存在するのか』だ……」


 その一言に、部屋の空気がわずかに緊張で張り詰めた。

 だが道離兄さんはすぐにいつもの冷静な表情に戻り、指先で地図の一点を叩く。


「……まあいい。次の標的はここだ。この拠点を叩けば、彼らの資金源を完全に断てる」


 直影兄さんと俺も真剣な眼差しで頷き、収集した情報を繋ぎ合わせながら、次に実行すべき任務の手順を緻密に固めていった。


 これから俺たちが背負っていく家系の重みを感じているのか、小夜も最後まで静かに俺たちの話に耳を傾けてくれていた。



 密密な作戦会議が終わりを迎える頃には、窓の外の夜はすっかり深まっていた。


「よし、今夜はここまでだ。しっかり体を休めよう」


 道離兄さんの言葉に、俺と直影兄さんが立ち上がる。


「おやすみ、兄さん」


「ああ、おやすみ」


「おやすみなさいませ、道離兄上様、直影お兄様」


 小夜が丁寧に頭を下げると、二人は穏やかに頷いて部屋をあとにした。


「どうだった、小夜?」


「ふぅ……すごく緊張した……。七技って、本当にすごいんだね」


「うん?」


「だって七技は表でも裏でも国を守る人でしょ? 直影お兄様はいろんな仕事をこなせるし、道離兄上様は政治家として動いていて……」


「あはは。そうやって三人で役割を分担して、この街や国の変化を確かめているんだよ」


「やっぱり、かっこいいな」


 静まり返った廊下の窓からは、冷たい夜風がそっと吹き込んできていた。


「それじゃ、おやすみ、小夜」


「うん。おやすみなさい、七技」


 小夜を部屋まで送り届けると、俺も自分の部屋へと戻った。


 同居を始めてどれくらい経つだろう。彼女がこの家に馴染み、笑顔を見せてくれることがたまらなく愛おしい。

 自室の時計を見上げると、針はもう夜深い時間を指していた。


 パジャマに着替え、ベッドに入って静かに目を閉じる。


 明日もまた、変わらない家族の温もりと、大切な小夜の笑顔がある未来が続いていく――。

 そんな当たり前の幸せを少しも疑うことなく、俺は深い眠りへと落ちていった。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


仲の良い三兄弟と温かい家族の風景……ですが、作戦会議で見せた道離兄さんの冷ややかな一言が、少し不穏な影を落としていますね。


次回、物語はさらに大きく動き出します!

もし「続きが気になる!」「頑張れ!」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や★評価をよろしくお願いいたします!

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