第6話 オークのお姫様
「お前達、ここが踏ん張りどころだよっ!」
オークの戦士達の中心にいる女性が仲間の戦士を鼓舞している。
オークは、俺が想像していた通り身体は人間、頭は豚だった。
だが、中心で戦士を鼓舞している女性は、身体も頭も人間の女性だ。勇ましい声に相応しく体格も立派だ。
戦闘の様子を見ていると、個々の強さはダークオークよりもオーク戦士のほうが勝っていそうだ。
だが、オーク戦士が五人のところにダークオークは十二体以上はいる。戦況としてはオーク戦士が押されている。
そんな戦闘のさなかに沙生那は飛び込んでいったのだ。
一人のオーク戦士が二体のダークオークに攻められているところに沙生那は斬りかかった。
ザンッ!
沙生那が一方のダークオークを一撃で倒した。
仲間を倒されてもう一方のダークオークに隙ができた。
その隙を逃がさずにオーク戦士がもう一方を倒す。
「あんた達は……?」
いきなり戦闘に加わってきた俺達に、オーク戦士の中心の女性が驚いている。
「クエストよ!」
そう言って沙生那は次の敵に向かっていった。
できればもう少し状況を見てから突っ込んでほしいものだ。
奥に控えているダークオークは色が濃い。ということはより強いということだ。
ここは連携が必要だ。そう思って俺はフォンにオーク戦士達の回復を頼んだ。
「お任せください、そらお様!」
そして俺は、沙生那の後に付いてダークオークの群れに突っ込んだ。
「!」
沙生那が俺の動きを横目で見た。その時には俺は既に沙生那の先に出ていた。
「俺が先に攻撃します!」
俺は群れているダークオークの間をすり抜けながら沙生那に言った。
そして、【とうぞくのたんけん】でダークオークを斬りつけていった。
俺の攻撃では沙生那ほどのダメージは与えられない。
だが、俺が先に一撃を加えておけば、続く沙生那の攻撃でトドメを刺すことができるはずだ。
沙生那は俺の意図を汲んだようだ。俺のすぐ後ろで斬撃音が聞こえる。
「あたし達も続くよ!」
オーク戦士の女性の声も聞こえ、複数の斬撃音と怒号が森に響き渡る。
沙生那と俺の加勢で一気に形勢が逆転した。
最終的には二十体近くになったであろう、ダークオークの群れは殲滅された。
「何とかなったみたいね」
周辺を見渡しながら沙生那が言った。
「ありがとう、助かったよ」
オーク戦士の女性が疲れた表情に笑みを見せて言った。
「よかったわ、力になれて」
沙生那も笑顔でオーク戦士の女性に言った。
「「「「姫様!」」」
オーク戦士達が集まってきた。
「姫様? あなたオーク国のお姫様なの?」
沙生那が姫様と呼ばれた女性に歩み寄った。
「ああ、そうだ。あたしはオーク国の王女、シュヴィーネだよ」
そう笑顔で言うと、シュヴィーネは沙生那の手をとって握手した。
「私はさきなよ」
今回は沙生那の活躍がちゃんと評価されているようだ。とりあえずはホッとした。
これでクエスト達成なのか? と思い、俺は冒険の書を開いた。すると、新しい行動目標が現れていた。
『オーク国の王に会って話を聞きましょう』
どうやらまだクエストは続いているようだ。
「それにしても、さっきの連携は見事だったねぇ。始めから決めてたのかい?」
オーク国の城に向かいながらシュヴィーネが感心したように言った。
「ううん、決めていたわけではないわ」
そう言って沙生那が俺を見た。そこで俺はシュヴィーネに説明した。
ダークオークの強さからして、一撃では倒せそうもないと判断したこと。
速さでやや勝る俺が先行してダメージを与えることで、沙生那が一撃で決められる可能性が高まると考えたこと。
「そこまで考えてるとはね。ウチの戦士達も回復してもらえたし。ホント助かったよ」
シュヴィーネはそう言いながら、俺の肩に腕を回した。
シュヴィーネはオーク国の王女だ。だが見た目は人間の若い女性だ。
そのシュヴィーネが俺の肩に腕を回して身体を密着させている。
「あ、ありがとうございます、王女様……」
そう言って俺はシュヴィーネの腕から逃れようとした。
「そんな堅苦しい呼び方はやめてくれ。シュヴィーネでいいよ」
そう言ってシュヴィーネは、外れかけた腕を再度俺の肩に回した。そして、より一層俺を強く抱き寄せた。
「あ、あの、おうじ……シュヴィーネさん、そんなにギュッとするのは……」
何とかして逃れようとしたが、シュヴィーネの腕の力は想像以上に強かった。
ちょっとやそっとでは逃れられそうにない。
「いいじゃないか。あたし達を助けてくれた英雄への感謝の気持ちさ」
そう言ってシュヴィーネは豪快に笑った。
(ヤバい、これはヤバい!)
せっかく沙生那とフォンに活躍してもらったのに。これではまた俺が手柄を独り占めしたと思われてしまう。
すると、
「そんな感謝の表し方はおかしいです!」
フォンが面と向かってシュヴィーネに抗議した。
「そうよ! いくら感謝してるからって、初対面でそういう態度は変だと思うわ」
沙生那もフォンの横に進み出て声を荒げた。
「そうかい? あたし達オーク族はこれが普通なんだけどねぇ」
そう言ってシュヴィーネは俺の顔をのぞき込んだ。
「あんたもそう思うだろ?ええと……そういえば名前を聞いてなかったね」
「そらおです」
「そらお、いい名前だねぇ」
「ありがとうございます、シュヴィーネさん」
「シュヴィーネでいいよ」
「……はい、シュヴィーネ」
「ところで、何の話をしてたんだっけ、そらお?」
会話がシュヴィーネのペースになってきたところで、フォンが介入してきた。
「だったら私のこともフォンとお呼びください、そらお様!」
「ええ? でもフォンさんはスライム国のお姫様だし……」
「あたしもオーク国のお姫様だよ」
シュヴィーネが顔をグイッと近づけてきた。
「シュヴィーネさん、近すぎます!」
そう言いながらフォンも俺に顔を近づけてきた。
窮地に立たされた俺は沙生那に助けを求めた。
「どうしたらいいんでしょう、石蕗さん?」
「そんなこと私に聞かないでよ!」
そう言って、沙生那は俺の脚にローキックを炸裂させた。
「痛っ!」
ダークモンスターの攻撃は痛くないのに、なぜか沙生那のローキックは痛い。
ダークモンスター以外からの攻撃は痛みを感じるのか?
フォンやシュヴィーネに蹴られても痛いのだろうか?
そんな馬鹿なことを考えていたからか、
「さきなさんの攻撃は痛いんですね?」
とフォンが好奇心いっぱいの顔で俺を見た。
「機会があったら私も試してみますね」
「そうだな、あたしも今度何か技を試してみるよ」
いやいや、フォンさん、シュヴィーネさん、そんなこと試さなくていいですから!
こうして、仲間の攻撃は痛みを伴うという発見をした俺たちは、シュヴィーネの案内でオーク国の城へと向かったのだった。




