第47話 みんなの力で
なんなのだ、今の声は?
俺が発した光に怯んだのか、リンナは動けないでいる。
俺はその隙を逃すまいと、リンナの両肩を掴んだ。
「うぅーー……!」
唸り声を上げながら、体を揺さぶって抵抗するリンナ。
見ていると可哀想で胸が締め付けられる。
「ごめん、リンナ。ちょっとだけ我慢してくれ」
それにしても【ゼンノウ】ってどんな技なんだ?
『【ゼンノウ】はパーティー全員の【技】を使え、ステータス値もメンバーの最高値が適用されます」
またあの声が聞こえてきた。冒険の書を読み上げてくれてるのか?
そんな便利な機能があるならもっと早くからやってほしかったものだ。
まあ愚痴は愚痴として、とりあえずは凄そうな技だ。もしかしたら字は「全能」を当てるのか? とりあえずは使ってみよう。
「全能!」
俺は唱えた。だが、特に肉体的変化は感じない。
「なにやら小賢しい真似をするつもりのようだが、その小娘を殺さないことにはどうにもならんぞ」
ゴブロスが何かゴタゴタ抜かしてるが、スルーだスルー。
さて、『パーティーメンバーの全ての技が使える』ということは……!
「睡魔!」
俺はリンナに向かって明日海の技を使った。
俺の手から逃れようともがいていたリンナは動き止めた。
そして、一度じっと俺を見つめると、ゆっくりと目を閉じて俺に体を預けた。
「よかった……」
本当によかった。これでリンナを傷つけるようなことはしなくて済むはずだ。
「一体何をしたのだ! その娘をどうするつもりだ!」
喚くゴブロスをよそに、俺は部屋を見回して、部屋の隅に王と王妃が肩を寄せ合って座っているのを見つけた。見たところ麻痺状態ではなさそうだ。
俺はリンナを抱き上げると、王と王妃の下に小走りで駆け寄った。
そう、小走りのつもりだった、のだが……
俺の感覚だと瞬間移動でもしたかのように感じた。
これも【全能】の効果か。パーティー最速のリンナの敏捷性を引き継いだ結果だろう。
「すみません、この子をそばに置いてやってもらえませんでしょうか?」
そう言って、俺は眠るリンナを王妃のそばにそっと降ろした。
リンナを眠らせることはできた。だが、ゴブロスの支配から解放されたかは分からない。
リンナが目覚めたら王と王妃に襲いかかるかもしれないのだ。
それを承知の上で俺はリンナを王妃に見ていてもらいたいと思った。
リンナをひとりポツンと置いておくことなど我慢がならなかったのだ。
「分かりました。この子は私が見ていましょう」
王妃が決然とした表情で言ってくれた。さすが王妃だ、肝が据わっている。
「ありがとうございます。わがままを言って申し訳ありません」
俺は王妃に深々と頭を下げた。頭を上げると、王妃は穏やかに微笑みかけてくれた。
その時、
「どうするつもりだと訊いている!」
と、ゴブロスの怒鳴る声が聞こえた。
俺が振り返ると、ちょうど、ゴブロスの開いて突き出した掌から黒い塊が飛び出してくるところだった。
俺は咄嗟に王と王妃、そしてリンナを庇える場所に位置取って、両腕を交差させてガードの姿勢を取った。
その直後、ガードした腕に衝撃を感じた。痛みはなかったが、多少疲労を感じた。
腕を下ろしてゴブロスを見ると、意外そうな表情をしている。
どうやら、奴なりに自信を持って放った魔力弾か何かだったのだろう。
これも【全能】のおかげが。ミローネの防御力と夕璃乃と明日海の魔法耐性が効いているようだ。
「大丈夫ですか……?」
王妃が心配して訊いてくれた。
「はい、驚かせてしまってすみません」
ここは一気に決めないと、王と王妃や仲間たちが危険だ。
「ふっ、どうやらその小娘を眠らせたようだが、眠りなど一次的なものだ。すぐに私の言うがままに操ってやる」
ゴブロスは悔し紛れでそう言っているのかと思った。だが、その表情からは、案外本気でそう思っていることが伺われた。
「そうなる前にお前を倒せばいい」
俺はそう言いながら、膝をついている沙生那の下に歩み寄った。
「ね、嶺渡、君……」
まだ、麻痺が解けていない沙生那は、話すのも途切れ途切れだ。
「すみません、麻痺を解く【技】がなくて、もう少し我慢していてください。それと石蕗さんの剣を借りてもいいですか?」
「うん……使って」
「ありがとうございます。それと、技もお借りします」
「うん……さっき蕗さんの技も、使ってたもんね……」
「はい」
俺は床に落ちている沙生那のミスリルの剣を拾った。
そして俺は、改めてゴブロスを見て言った。
「これから、お前を倒すことにする」
「ふっ、随分と強気ではないか」
うん、俺も我ながら随分と強気なセリフだと思う。
本当に俺の意思で発した言葉なのか? この陰キャボッチ最底辺男の俺の口から?
これも新たな技【全能】の効力なのかもしれない。多分暁音の影響だ。
というか、能力だけじゃなくてキャラまで乗り移るのか?
後で皆にいじられそうだが、それはそれでネタとして面白い、ということにしておこう。
さて、ゴブロスとの間合いは7、8mといったところか。
リンナの素早さを活かして一気に間合いを詰めるのもありだが……
「つらぬけ!」
俺は夕璃乃の風魔法を放った。続けて、
「かげいどう!」
と、唱えた
狙いは一気に間合いを詰めてのワン・ツー攻撃だ。
あと2歩というところで、風魔法がゴブロスに当たった。
よし! ここで【こんしんげき】を……
「ぐあぁああーーーーーー!」
風魔法をまともに食らったゴブロスは、玉座を倒して後方に吹っ飛んだ。
そして壁に激突すると、ずずーーっと床にずり落ちた。
「え……?」
【こんしんげき】を打ち込もうと剣を振り上げた俺は、倒れた玉座の前で棒立ちすることになった。
「あ……動けるぅ!」
「やっと……!」
夕璃乃と沙生那がそう言って立ち上がった。ほかの皆も次々と麻痺から解放されて立ち上がった。
リンナを見ると、まだ王妃に体を預けて眠っている。
俺がゴブロスに注意を戻すと、
「おのれぇ、よくも、やってくれたなぁああっ!」
と、ゴブロスは既に立ち上がって、玉座の残骸を蹴飛ばしている。
風魔法をまともに食らって吹っ飛んだ割に、ゴブロスはまだ元気なようだ。
俺は再度【こんしんげき】を食らわせてやろうと詠唱に入ろうとした。
すると、
「よくもやってくれたとは、こっちのセリフだあっ!」
そう叫びながらシュヴィーネは俺の脇をすり抜けて、あっという間にゴブロスの間合いに飛び込んだ。
ゴブロスは反撃も防御も間に合わず、シュヴィーネの拳をもろに横っ面に食らった。
「ぶほぉおおおおーー……!」
ゴブロスは錐揉み状に回転しながら床を転がった。
そこに、シュヴィーネのすぐ後に突っ込んできたミローネが、
「何が魔物を統べるものだあぁああーー!」
と、叫んで飛び上がったかと思うと、仰向けから起き上がろうとしているゴブロスの胸に、ニードロップを撃ち込んだ。
「ぐぼぉおおおおーー……!」
あれは効く。あばら骨が何本か折れただろう。ダークモンスターにあばら骨があればの話だが。
「さあ、潔く降伏しなさい、ゴブロス!」
ミローネに胸ぐらをつかんで起こされたゴブロスにアニタが通告した。
「何を……ふざけたことを……!」
と言うゴブロスの手が赤黒く光った。
「まずい! ミローネさん、そいつを離して!」
そう言って俺はミローネに駆け寄ろうとした。
だが既に、ミローネと側にいたアニタに魔法がかけられてしまった。麻痺の魔法だ。
「「うっ……!」」
ミローネとアニタが膝をついてしまった。
「ゴブリン=デビル様を甘く見るなぁ!」
ミローネから解放されたゴブロスは次の魔法を放つ体勢に入った。
ゴブロスの両手に炎が現れた。真っ赤ではない、赤黒い炎だ。
「貴様らを紅蓮の炎で焼き尽くしてやる!」
炎攻撃か! 炎の魔法弾のようなものなら俺も耐えられそうだ。
だが、範囲攻撃魔法的なものだと防ぎきれない。下手をすると王と王妃にまで被害が及んでしまう……!
どうする……と、その時俺は思い出した。あれがあったじゃないか!
だが、今はまず麻痺にあるミローネとアニタを助けないと。
すると、フォンがミローネとアニタに駆け寄って魔法をかけた。
「私、状態異常回復魔法を覚えました!」
そうか、ゴブロスに麻痺魔法をかけられたおかげで、状態異常回復を覚えたということか。
「ミローネさん、アニタさん、フォンさん、下がって!」
俺はそう言いながら、【ぼうけんしゃのカバン】から【スライムのローブ】を取り出した。
【スライムのローブ】。スライム姫のフォンを助けた時に、報酬としてスライム王から授かったアイテムで、炎攻撃のダメージを軽減してくれる防具だ。
俺は【スライムのローブ】を広げて、ゴブロスに向かって行った。
「くそっ、忌々しいやつめ! まずはお前から焼き尽くしてやるっ!」
ゴブロスが俺に炎魔法を放った。炎の魔法弾ではなく、火炎放射のような攻撃だ。
俺は広げた【スライムのローブ】を盾のようにしてゴブロスの前に立ち、炎攻撃を【スライムのローブ】で受けた。
熱さは感じない。だがダメージはゼロではなく、多少息が上がってきた。
このまま押し込むか、それとも……と、その時、
「ぶっとばせぇ!」
と、夕璃乃が風魔法をゴブロスに放った。
俺に注意を向けていたゴブロスはもろに夕璃乃の風魔法を喰らい、再びふっ飛ばされた。
「嶺渡君、剣は返してもらうわよ!」
沙生那が、俺が足元に置いておいた、結局は使わなかったミスリルの剣を拾うと、ゴブロスに突進した。
「おのれぇーー……!」
ゴブロスはしぶとく立ち上がろうとしている。
そこに沙生那が斬り込んだ。
「こんしんさんれんげきっ!!」
渾身三連撃? そんな合わせ技とかアリなの?
「ギァアアアアーーーーーー!」
それまで見たことがない色の光に覆われた沙生那の斬撃に、ゴブロスは断末魔の叫びを上げた。
どうやら合わせ技もアリのようだ。
「ま、魔族を統べ……この世界を統べる私が……こんな……」
そこまでだった。
ゴブロスは、黒い銀色の粒子になって消えた。
「ふぅーーーー……!」
ゴブロスが完全に消えるのを確認すると、俺はどでかいため息をついて、その場に座り込んだ。
「ふう……やったね、嶺渡君」
安心したように微笑んで、沙生那が俺の横に座り込んだ。
「はい、とどめを刺してくれて、ありがとうございます、石蕗さん」
俺もなんとか笑みを浮かべて答えた。変顔になってなければいいのだが。
「ああーー! 私だって貢献してたのにぃ!」
そう言いながら、夕璃乃も俺の隣に座り込んだ。
「あたしのことも忘れるなよぉーー!」
と、シュヴィーネが後ろから俺にスリーパーホールドをかけてきた。
「ぐぁああ、ギブギブ……て、そうだ、リンナ!」
俺はスリーパーホールドされたまま立ち上がって、シュヴィーネを引っ張りながらリンナのところに駆け寄った。
「リンナ……!」
王妃の膝枕で眠っているリンナの肩に、俺はそっと手を載せて呼びかけた。
「ぐっすり眠ってるね……」
明日海がリンナの寝顔を見て言った。
すると、その声が聞こえたのが、リンナがゆっくりと目を開けた。
そして、俺と目が合うと、
「そらお……」
と、俺の名を呼んで小さく微笑みを返してくれた。




