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冒険の書から始まる異世界探索〜最弱サポート役なのに、なぜか姫と美少女に溺愛されます  作者: 舞波風季


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第46話 発現

「やれやれ、やはりそうきますか」


 ゴブロスがわざとらしい困惑顔を作って言った。


「当然でしょ!」


 アニタは俺が貸した【とうぞくのたんけん】を構えて、ゴブロスが座る玉座に撃ちかかろうとした。


「待って、アニタさん!」


 ミローネが警告を告げながら、全員に【防御アップ】をかけた。


「私も……」


 そう言って明日海もゴブロスに向かってデバフ魔法をかけようと構えた。


 その時、玉座の前に黒い影が数体現れた。黒銀のゴブリンだ


「蕗さん、デバフは黒銀ゴブリンに!」

「う、うん……!」


 突然現れた黒銀ゴブリンに虚を突かれた明日海だったが、俺の声で我に返った。


「まずは、あなた方の実力というものを見させていただきましょうかねぇ」


 ゴブロスの、ニヤケ面とねっとりとした猫撫(ねこな)で声が癇(かん)に触る。


「まじ、あいつムカつくんだけどぉ!」

「まったくだ、あたしがボコボコにしてやる!」


 夕璃乃とシュヴィーネは完全に頭に血が昇っているようだ。


「落ち着いて! まずは目の前の敵よ!」

「一気に片を付けてやりましょう!」


 沙生那が剣を抜き、暁音も抜刀の構えになった。


 黒銀ゴブリンは10体。我がパーティーも10人だ。


 だが、治癒系のフォンと補助魔法系の明日海は基本的に攻撃には参加しない。


 そう考えるとうちは8人。と言っても俺とリンナの攻撃力は大したことない。いわゆる牽制(けんせい)役だ。


 そう考えると純粋な戦力は6人。黒銀モンスター相手にこの戦力差は厳しいかもしれない。


 ここは明日海のデバフに併せて、俺とリンナが撹乱(かくらん)する戦法が最善かも……


「ふう、まあ、こんなところかしら」


 しれない……って、え?


「でも、中々の手応えだったと思わないこと?」


 中々のって……沙生那さん、暁音さんいつの間に……


 見ると、黒銀ゴブリンは1体も残っていなかった。


「まったく、二人ともズルいぞ。あたしなんか一発しか殴れなかったじゃないか」

「私なんて魔法を撃つ間もなかったよぉ」


 シュヴィーネと夕璃乃は不満タラタラである。


 どうやら、俺が戦法をどうしようこうしようなどと考えているうちに、沙生那と暁音が黒銀ゴブリンを倒してしまったようだ。


「すごいねぇーーそこまで強いとは思わなかったよ」


 アニタがびっくり笑顔で沙生那と暁音を見た。


「ふふん!」


 思いっきりドヤ顔の暁音。


 一方の沙生那はというと……なぜか微妙な顔をしている。


 本心ではドヤりたいけど、暁音のようにあからさまなのは少し恥ずかしい、でもちょっとくらいなら、なんて思っていそうな顔だ。


 俺がそんな事を考えながら見ていると、沙生那とバッチリ目が合ってしまった。


「言いたいことがあるなら言ったら?」


 眼光で敵を倒せそうな沙生那の目に、俺は思わず土下座して謝りそうになってしまった。


「まあ、思っていたよりはできるようですね。こうでなくては面白くない」


 ゴブロスの癇に触る声が聞こえた。そうだ、まだあいつが残っている。油断は禁物だ。


 玉座のゴブロスを見ると、脚を組んで余裕がありそうに見せてはいる。


 だが、顔は明らかに引きつっている。余裕の笑みを浮かべるのに苦労しているようだ。


「もう、あなたに勝ち目はないわ。潔く降伏しなさい、ゴブロス」


 アニタが王女の威厳を見せてゴブロスに宣告した。アニタのそばには王と王妃がいた。


「くっ……いつの間に」


 作り笑顔を歪めて悔しそうに言うゴブロス。


「まあ、いいでしょう。もとより、人質などという小賢しい手を使う必要などなかったのですから」


 一瞬の悔しげな顔を不敵な笑みに変えて言うゴブロス。


「悔し紛れもそのくらいにしておきな」

「ええ、降伏しなさい」

「今なら大した罪には問わないであげるよ」


 モンスター三姫がゴブロスに最後(さいご)通牒(つうちょう)を突きつけた。


「ふふ、何を言っているのやら。この程度のことで、勝った気にならないでもらいたいものですね」


 ゴブロスは余裕の表情を取り戻すと、サッと手を振った。


 すると、再び黒銀ゴブリンが湧いて出てきた。今度はさっきの倍はいそうだ。


「数が多いので気をつけて……」


 俺が皆に注意を促そうとした時、


「あたしがいく……」


 俺の横にいたリンナがそう呟いて飛び出した。


「あ、リンナ!」


 俺は手を延ばして引き留めようとしたが、勿論間に合わなかった。


「おチビさんに負けてられないね」

「うん、私達も貢献しなきゃ」


 そう言って、シュヴィーネとミローネがリンナに続き、沙生那達も飛び出していった。


「そらお様は少々過保護ですわ」

「そうだねぇ、気持ちは分かるけど……」


 フォンと明日海が俺の横に並んだ。


 俺は過保護なのか? 言われてみればそうなのかもしれない。


 だが、小さいリンナを見ると、「この子が危ない目に遭わないように気をつけなければ!」と思ってしまうのだ。


 などとやっているうちに、沙生那達は2波目の黒銀ゴブリンを倒してくれた。


「結構手強かったねぇーー」

「そうだな、中々手応えがあったよ」


 夕璃乃とシュヴィーネも存分に活躍できたようだ。


「どうする、また黒銀ゴブリンを出す? でも魔力が保たないんじゃない?」


 アニタの言葉にゴブロスは一瞬顔色を変えたが、すぐに元のニヤケ顔に戻って言った。


「なるほど、さすがは王女様といったところですかねぇ、そこまで知っているとは」

「その余裕、いつまで続くかしら?」


 ゴブロスの皮肉も、勝利を確信しているアニタには効かないようだ。


「その言葉、そのままお返ししますよ、アニタ姫」

「……?」


 何を言っているのだ、ゴブロスは?


「まさに、想定外でしたよ、まさかあなた方がゴブリンを連れてくるとはねぇ」


 そう言って、ゴブロスは右手の人差し指を立てた。指先が赤黒く光っている。


 ゴブリンを連れて……まさか!


「リンナ……!」


 リンナは皆よりもゴブロスの近くに位置取(いちど)っていた。


 俺は全力でリンナの下に疾走(はし)った。


 俺はリンナに手を延ばした。


 だが、俺の手が届くより先に、リンナは赤黒い光に包まれてしまった。


「あ、あぁああーー……!」


 両手で頭を抱えながら苦しげな声を上げるリンナ。


「リンナ!」


 俺はリンナの腕を取ろうとした。だが、リンナはそんな俺の手を激しく打ち払った。


「リンナ……!」


 リンナのあまりの変わりように、俺は動揺してしまった。


 すると、アニタの鋭い声が聞こえた。


「ゴブロスが!」


 見ると、ゴブロスはコートのフードを上げて、サングラスも外していた。


 その容貌はまさにゴブリンだった。


「あいつ、ゴブリンだったのかよ……」

「ですわね……しかもあの肌の色……黒銀ゴブリンですわ」


 シュヴィーネの言葉をフォンが引き継いだ。


「ううん、待って……何だかおかしいわ」


 ミローネがそう言った時には、ゴブロスの耳は尖って上に伸び、額には2本の角が生えてきた。


「なにあれ、キモいんだけど……!」


 夕璃乃が青い顔で後ずさった。


 そして極めつけは、「バサッ!」という音とともにゴブロスの背後に現れた一対の翼だ。


「ふふふ、待たせてしまったね。もうこうなったら誰にも止められないよ」


 ゴブロスは、声も低音と高音が混ざった様な、神経を逆なでするおぞましい声になっている。


 俺は【ていさつ】を使った。


「ゴブリン=デビル……!」


 俺はその名を口に出して言った。


「ゴブリンデビル?」

「何よそれ……!」


 すでに戦闘の構えの暁音と沙生那の顔も青ざめている。


「ほう、さすがと言うべきかな。その通り、私はゴブリン=デビル、この世界を統べようとする者さ」


 口調も、バカ丁寧な猫撫で声から威圧的な物言いに変わっている。


「何をふざけたことを……

 ぐっ……!」


 アニタはそこまで言いかけたところで、跪(ひざまず)いてしまった。


「くっ、か、身体が……!」


 そして、他の者たちも同様に跪いて、苦しげに唸っている。


「アニタさん……!」


 アニタに駆け寄ろうとした俺の前に、リンナが立ち塞がった。


 リンナの目は赤黒く光っている。


「リンナ……どうしたんだ?」


 さっきは俺の手を叩き飛ばし、今度は立ち塞がって俺を睨んでいる。


「そうか、やっぱり勇者の君には効かないんだね」


 やや残念そうにゴブロスが言った。


 勇者? 俺が? 一体何を言っているんだあの野郎は?


「まあいい。それでは、我が下僕《しもべ》よ、その者たちを抹殺するのだ」


 ゴブロスの言葉を受けて、リンナが俺に【くない】で斬りつけてきた。


「リンナ、どうしたんだ! 俺だよ、そらおだよ!」


 リンナの攻撃をギリギリでかわしながら俺は訴えかけた。


「うあぁああーーーー!」


 だが、リンナは正気を失っているかのように、奇声を上げながら続けざまに斬りつけてくる。


「ふははは! そのゴブリンの娘は既に私の支配下にあるのだよ!」


 ゴブロスが勝ち誇って言うのを聞きながら周囲を見ると、皆跪いたままだ。


 麻痺か何かの状態異常魔法をかけられているようだ。


「さあ、どうする? そのゴブリンの娘を倒さない限り君たちに勝ち目はないのだよ」


 得意満面のゴブロスに、


「くそ……卑怯な真似を……!」

「正々堂々と……戦いなさい……!」


 シュヴィーネと沙生那がそう言いながら、なんとか立ち上がろうとするが、再び床に膝をついてしまった。他の皆も同様だ。


 その間にも、リンナの攻撃は益々激しさを増していった。


 俺は既に武器を収めて、回避に専念していた。


 何かの拍子にリンナを傷つけてしまうなんて、絶対に嫌だったからだ。


 とはいえ、素早さでは俺はリンナには敵わない。


 次第に斬りつけられる回数も増えていった。


 しかも、激痛というほどではないものの、リンナから受ける攻撃からは痛みを感じた。


 ゴブロスに操られているとはいえ、リンナはダークモンスターではない。ましてや俺の敵ではないのだ。


 とはいえ、攻撃を受けるたびに疲労が増していくのを感じる。間違いなくHPが削られている。


「リンナ、俺だよ……そらおだよ……」


 なんとかしてリンナに正気を取り戻してもらおうと声をかけ続けた。


 だが、ゴブロスに操られてしまっているリンナの攻撃は止まなかった。


「ははは、その小娘を説得しようなんて無駄なことだよ。君は倒されてこの世界は私のものになるのさ。まあ、君がその小娘を殺せば話は変わってくるけどねぇ」


 殺す? 俺が? リンナを?


「それが君にできるかい? と言っても、次は私が相手だからねぇ。何と言っても私は魔物を統べる者、ゴブリン=デビルなのだから」


 ゴブロスが何か言っている。途中からは何を言っているのか、俺の頭の中には入ってこなかった。


 あのクソ野郎は、この魔物がどうとか抜かしているようだ。


 たが、そんなことはどうでもいい。


 俺がリンナを殺す? 


 そんなことがあってたまるか!


 リンナは俺の、俺達の大切な仲間なんだぞっ!!


 俺を執拗に攻撃するリンナと目が合った。


 リンナの赤黒く光る目の端に光るものが見えた。


 そして、聞こえた。


『そらお……たすけて……』


 俺の頭の中にリンナの声が。


 その声は俺の胸を激しく締め付けた。


 リンナは完全に操られているわけではない。


 身体は操られていても、心は元のリンナのままなのだ。


「さあ、殺せばいい、その小娘を!」


 高らかに言い放つゴブロスの言葉に、俺の腑(はらわた)が煮えくり返った。


 ふざけるな!


 そんなこと!! そんなこと!!!


「そんなこと、絶対にするわけないだろぉおおおおーーーー!!!」


 俺は、生まれてこの方一度もないだろうというほどの大声で絶叫した。


 その直後、俺の身体が熱くなり周囲が明るくなった、ように見えた。


 目の前のリンナも動きを止めた。


「嶺渡君……光ってる……」


 一番俺の近くにいた沙生那の声が聞こえた。


 光ってる? どういうことだ? と思っていると、今まで聞いたこともない声が聞こえてきた。


『新しい技、ゼンノウが発現しました』



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