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冒険の書から始まる異世界探索〜最弱サポート役なのに、なぜか姫と美少女に溺愛されます  作者: 舞波風季


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第45話 宰相ゴブロス

 重い金属製の扉を開けると、正面に狭い通路が真っすぐ続いていた。


 先に進むと、通路は30mほど先で広い部屋に繋がっていた。


 部屋の壁には等間隔に灯りがともされている。


 先ほどまでの通路とは違い、ここは広い部屋だ。見たところ、幅も奥行きも30〜40mはありそうだ。


 部屋に踏み込む前に、俺は【ていさつ】を使った。


 すると、予想していた通り部屋の中に敵を感知することができた。


「奥にダークゴブリンが8体います。通路にいたものより上位の個体です」


 俺は【ていさつ】の結果をメンバーに伝えた。部屋の奥に黒くうごめく姿が見える。


「ようし、いくわよぉーー!」


 そう叫んで、暁音が腰を落として抜刀の構えをとると、


「思いっきりいきましょう!」

「殴りまくってやろうじゃないか!」

「私の魔法でぶっ飛ばしちゃうよぉ!」


 と、沙生那とシュヴィーネ、夕璃乃も前に出てきた。


「思う存分戦って!」


 ミローネが【防御アップ】を皆にかけると、


「援護は任せて!」


 明日海がデバフ魔法をかけるべく前に出た。


「よっしゃ、いくよ!」


 シュヴィーネが掛け声とともに先陣をきり、間髪を入れずに他のメンバーもダークゴブリンに向かっていった。


「ここは皆に任せるんだよ」


 俺はそう言って、前に出ようとしていたリンナの肩に手を載せた。


「むぅーー……!」


 リンナは振り返って俺を見ると、不満そうに頬を膨らませた。


 広い場所なら暁音や沙生那達が存分に実力を発揮して戦える。


 できることなら、リンナには無理をしてほしくない。


 今度の敵は上位の個体だけあって、すんなりとは勝てなかった。


 だが、明日海とミローネの援護が功を奏し、沙生那達攻撃陣の息が合った連携も冴え渡った。


 リンナはともかくとして、俺もいなくていいんじゃないか、なんて思ってしまうほどの頼もしさだ。


「ふっ、どんなものかしら!」


 8体のダークゴブリンを片付けてドヤる暁音。


「あなたひとりで勝ったような顔しないでよ」

「そうだよぉ、皆で倒したんだからぁ」


 すかさずツッコミを入れる沙生那と夕璃乃。


 部屋の奥に進むと右の端に扉があった。


「この扉の先は昇りの階段よ。王族の私室に繋がってるの」


 そう言ってアニタが鍵を差し込んでドアを開けた。


「この通路を知っているのは王族の人だけですか?」

「そのはずよ。でも、もしかしたらゴブロスが嗅ぎつけているかも……」


 その可能性は高そうだ。先ほどの地下室にダークゴブリンがいたのがいい証拠だ。


 階段を登った先はまっすぐ伸びる通路だった。


 こんな狭いところでダークゴブリンに遭遇したら面倒なことになりそうだ。


 俺は【ていさつ】を使った。


「どう、敵はいる?」


 沙生那が俺の横に来て訊いてきた。


「……いえ、いないようです」


 少なくともダークモンスターはいないようだ。


 だが、この前のようにゴブロスの手下の人間がいないとも限らない。


「気をつけていきましょう。先頭は俺が……」

「私に前を行かせて」


 俺の言葉を遮(さえぎ)ってミローネが進み出た。


「私なら不意打ちにも耐えられる、聖騎士だから」


 ミローネは聖騎士の装備を纏(まと)っている。防御力もパーティーで一番だ。


 とはいえ、こういう状況では斥候役が先に立つのが妥当な策だとは思う。


 これまでは俺がリーダーだからと、つい自分ができることは自分でと考えがちだった。


 だが、当然のことながら、何でもかんでも一人でできるわけはない。


 無理をすれば必ずどこかでほころびが出てくる。


 ゲームのようにソロでプレイしているのとは訳が違う。


 頼れる時は仲間を頼る、それがパーティーというものなのだ。


「分かりました。お願いします、ミローネさん」

「うん、任せて」


 ミローネは柔らかく微笑んで答えると、王族の私室へと続く通路を進み始めた。


 ミローネを先頭にして、俺達は慎重に進んだ。時折【ていさつ】も使った。


 だが、左側にドアがある突き当たりに達するまで、敵との遭遇はなかった。


「ここが王族の私室の裏の扉よ」


 そう言ってアニタが鍵を開けドアノブに手をかけた。身構えたミローネが頷いてみせる。


 アニタが扉を開く。部屋は灯りがともされていないのか、通路と同じように暗かった。


 ミローネが190cmとは思えない素早さで室内に飛び込んだ。俺もミローネに続いた。


「誰もいない、ね……」


 部屋を見回してミローネが言った。


 罠の一つも仕掛けてあるかと思って警戒していたが、杞憂だったようだ。 


 とはいえ、安心している場合ではない。


「ここにいないとしたら、どこにいるんだい、王様達は?」


 と、シュヴィーネ。


「玉座の間、かな……」


 答えるアニタは、歩き回ってキョロキョロとしながら、部屋中を調べている。


「大丈夫です、きっと王様も王妃様もご無事ですよ」


 フォンがそっとアニタに寄り添って言った。


「そう、だよね……」


 隣の部屋への扉を閉めながら、呟くようにアニタが言った。


「それでは、玉座の間にいきましょう」


 俺はアニタを見て、了承を求めるように言った。


「うん……」


 力なく答えるアニタ。


 そんなアニタを見て、何としても王と王妃を助け出すぞ! そんな言葉が俺の心に浮かんだ。


「気合い入れていこうね、陰キャ君」


 夕璃乃がポンと俺の肩を叩いた。


 どうやら力(りき)んでいるのがバレバレだったようだ。


 王族の私室を出ると広い廊下がまっすぐ延びている。


 それにしても衛兵がいて当然だと思うのだが、扉の脇にも廊下にもそれらしき人員は配置されていない。


「衛兵が一人もいないなんて……!」


 ミローネが憤懣やる方ない様子で、唸るように言った。


「ゴブロスの差し金だと思う」


 悔しそうに唇を噛むアニタ。


「あの、右側の大きな扉が玉座の間よ」


 アニタが指を指して言った。


 俺達がこの前来た時は正面から入ったので、何やら勝手が違う。


 玉座の間の扉にも衛兵はいない。入りたければ勝手に入れということなのか?


 アニタが扉に手をかけて俺を見た。


「開けるね」

「はい」


 俺はそう答えた後、皆の顔を見た。


 皆一様に緊張しながらも、真剣な面持ちで頷いて返してくれた。


 今やお馴染みの、俺の袖を引くリンナの手に俺はそっと手を添えた。


「無茶をしちゃだめだぞ」

「うん……」


 答えるリンナも、いつになく真剣な面持(おもも)ちだ。


 アニタがゆっくりと扉を開け、玉座の間に入っていった。


 俺達もアニタに続いた。すると、


「くっ、あいつ……!」


 と、アニタが悔しげに呟いた。


 アニタは奥の玉座を真っすぐ睨んでいる。


 玉座に座っているのは、国王ではなかった。


「「アニタ……!」」


 アニタを呼ぶ声が聞こえた。


 玉座の右奥に、国王と女性が寄り添って立っていた。


「お父様! お母様!」


 アニタが駆け寄ろうとしたが、そばにいたシュヴィーネに止められた。


 アニタは怒りに燃える目をして、悔しそうに唇を噛んでいる。


 俺は改めて玉座を見た。そこに座っていたのは、宰相ゴブロスだった。


「お待ちしていましたよ、アニタ姫」


 ゴブロスは脚を組んで片肘をついて、いやらしいニヤケ面でこちらを見ている。


「どきなさい! そこはお前が座ってよい場所ではない!」


 怒りのこもったアニタの声が玉座の間に響く。


「おやおや、なんとも威勢がよい。さすがはお姫様ですねぇ」


 これぞ悪役のテンプレといったニヤケ顔といやらしい猫撫(ねこな)で声のゴブロス。


「まあ、ここもいずれは私のものになるのですから。言ってみれば、予行演習のようなものですよ、ほほほ」


 アニタの怒りなどどこ吹く風、といった様子のゴブロス。


「このっ……!」


 シュヴィーネに抑えられながらも、今にもゴブロスに飛びかかりそうなアニタ。


「ところでさ、嶺渡君?」


 沙生那が落ち着いた声で俺を呼んだ。


「はい?」

「私達、アニタさんをあのゴブロスって奴の前に連れてきたよね?」

「そう、ですね……」

「つまりそれって、クエストを達成したってことにならない?」

「あ……!」


 その通りだ! 場の緊張感に飲まれて、基本的なことを失念していた。


 俺は冒険の書を取り出した。


 クエストの新たな目標が表れていた。


『宰相ゴブロスの陰謀を打ち砕き玉座を取り戻そう!』


 俺は皆に聞こえるようにクエスト目標を読み上げた。


「分かったわ! あのいやらしい悪党を討伐してやりましょう!」

「そうだな、あたし達で思いっきりぶっ飛ばしてやろうじゃないか!」


 早くも暁音とシュヴィーネが戦闘態勢で前に出た。他のメンバーを見てもやる気満々だ。


「アニタさん?」


 俺はアニタに呼びかけた。ここはやはりアニタの意思を最優先したい。


「うん、あいつを……ゴブロスを倒そう……!」


 そう言って、アニタは拳を握りしめた。


 皆の心が一つになった。


 きっと勝てる。


 アニタのためにも、俺たちのためにも勝たなければならないのだ。


 こうして、俺達とゴブロスとの戦いの火蓋が切って落とされた。


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