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冒険の書から始まる異世界探索〜最弱サポート役なのに、なぜか姫と美少女に溺愛されます  作者: 舞波風季


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第43話 陰謀を暴け

 暗殺。


 アニタ姫の口から出たその言葉に、場の空気が一気に凍りついた。


「それ、本当なのかい……?」


 沈黙を破ったのはシュヴィーネだった。


「本当です。お城の庭を歩いている姫様が何者かに矢を射られたのです」


 レックが答えた。彼はいつの間にかアニタ姫の席の後ろに侍(はべ)っていた。


「他にもあったんだよ。誰かが私の部屋に侵入した痕跡があったり。それに……」


 アニタ姫はそこで言葉を止めて皆の顔を見た。


「部屋の飲水(のみみず)用の水差しに、毒が入れられてたんだ」


「「「「毒……!」」」」


 俺を始め何人かの声がシンクロした。


「メイドが気づいてくれたんだ。ベテランのメイドでね、臭いで分かったらしい」


 状況は俺が思っていたよりもはるかに深刻だ。


 そんなことがあったので、アニタ姫は王城を出ることを決意したらしい。


 アニタ姫の命が狙われれば、彼女に仕(つか)えるメイドや従僕にも危険が及ぶ。


 なので、信頼のおけるメイドや従僕も一緒に王城を出たそうだ。


「つまりゴブロスはあんた達に私を捕らえさせて、私を人知れず亡き者にしようという魂胆なのさ」


 なぜか達観したような様子のアニタ姫。


「王様にはお話ししてないのですか?」

「勿論話したさ。でも……」


 ん、何か事情があるのか?


「陛下は病を患(わずら)っておられるのです」


 レックが代わりに答えた。


 そういえば俺達が謁見した時も体調がすぐれないからと、すぐに退席したことを思い出した。


「あの宰相、ゴブロスが王宮に来てからなんです、陛下のお体の具合が悪くなったのは」


 それって、まさか……!


 皆が息を呑んでアニタ姫の顔を見た。アニタ姫は目を伏せて唇を噛んでいる。


「そのゴブロスが王宮に来た経緯《いきさつ》は?」

「前任の宰相が体調不良を理由に辞職を希望したのです。その前任の宰相の紹介で来たのがゴブロスです」


 ますます持って怪しい。


「恐らくは前任の宰相も、ということなのね」


 沙生那が嫌悪感もあらわに呟いた。


「なので、姫様は数人の者と共に下町に潜伏して機を窺(うかが)っているのです」

「機を窺っている……?」


 機を窺っているということは、何かを画策しているということか?


「このままだと王国はゴブロスに乗っ取られてしまう。だから、私の手でゴブロスの化けの皮を剥いでやるんだ」


 決意のこもった目でアニタ姫は俺に視線を返してきた。


 ここはどうするべきか? 今のところクエストでは「行方不明の王女を探し出す」のが目的だ。


 依頼主は名目上は国王だが、実質的には宰相ゴブロスだ。


 そして、今現在のクエストの行動目標は「アニタ姫を宰相の下に送り届けよう!」となっている。


「それで?」

「それで……?」


 アニタ姫の問いの意味が分からずに、俺は問い返してしまった。


「あんた達はどうするの? てこと」


 どうするか。正直なところ俺の気持ちのうえでは答えは出ている。


 アニタ姫と協力して宰相ゴブロスを捕らえ王国を危機から救うことだ。


 だが、クエストを達成するうえで、それが正しいのか判断ができない。


「何を悩んでるの?」 


 と、沙生那が声をかけてくれた。


「石蕗(つわぶき)さん……」


 俺は救いを求めるような気持ちで沙生那を見た。


「もしかしてクエストのことが気になってるの?」

「はい……」


 俺は、アニタ姫に協力することと、クエストを達成することが相反(そうはん)しているのでは、と沙生那に話した。


「なんで相反してるのよ」

「え?」

「宰相のところにアニタ姫を連れていけば、クエスト達成になるんでしょ?」

「はい、ですが、それではアニタ姫が危険に……」

「アニタ姫を連れて行ってすぐにクエスト達成を確認すればいいじゃない。その後で宰相を捕まえて懲らしめればいいのよ」

「あ……」


 なんと、そういう考え方があったとは! さすが沙生那さん!


「しっかりしなよぉ、リーダー」


 夕璃乃が俺の方をバシッと叩いた。


「皆の力で悪徳宰相を倒しましょう!」

「そうだね、うん」 


 暁音と明日海も後押ししてくれた。


 フォン達モンスター姫も頷いてくれている。


「俺達にも協力させてください、アニタ姫」

「よかった……ありがとう」


 俺の言葉に、アニタ姫は心から安心したように表情を和らげた。


 やはりアニタ姫は俺達のことを警戒していたようだ。


「そうとなれば善は急げね!」


 暁音が席を立って拳を握りしめた。


「いやいや、ここは一旦休んだほうがよくない?」

「そうだな」


 夕璃乃の提案にシュヴィーネも同意した。他のメンバーも頷いている。


 その通りだろう。


 今度の敵はまず間違いなく宰相ゴブロスだ。勿論ゴブロスの強さは未知数だ。


 だが、流れ的にボスキャラ級と考えて臨(のぞ)むべきだろう。


「どうする、嶺渡君?」


 沙生那が俺の横に来て訊いた。


「はい、ここで一旦休んで明日以降に再開しましょう」


 メンバーのレベルや新しい【技】も確認したい。


「分かったわ。少し残念ではあるけれど、パートナーの意見に従うことにするわ!」


 そう言って、なぜか俺に向かってピースをする暁音。


「この人、あんたのパートナーなの?」


 アニタ姫が困惑したような顔で訊いてきた。


「い、いえ、別にそういうわけでは……」


 どう答えればいいのか判断に困る。あからさまに否定するのもパーティーの和を乱しそうで恐いし……などと俺がオロオロしていると、


「あの子が勝手に言ってるだけよ」

「そうそう」


 と、沙生那と夕璃乃が言ってくれた。


「そう、よかった」


 困惑顔だったアニタ姫の表情が明るくなった。


 俺もつられて頬が緩んだ。これで一安心だ。


 一応のリーダーとしてはパーティーの和を保たなくてはならないのだ。暁音は若干不服そうだが。


 沙生那さん、夕璃乃さんありがとう、と思いながら二人を見ると……


 なぜかめっちゃ恐い目で俺を見ている


「随分と嬉しそうね、嶺渡君」

「だよねぇ、これは処す流れだねぇ」


 処す流れ!? それってどういう流れですか!


「ふふ、なんか面白いね。私も仲間になれて嬉しいよ」


 アニタ姫が俺のところに来て、ポンと肩を叩いた。


「よろしくね、そらおくん」


 それまで男勝りだったアニタ姫が、普通の女の子の表情で俺に微笑みかけてくれた。


 迂闊《うかつ》にも俺は無防備に微笑み返してしまった。


 すると、


 ポキポキ……! バシバシ……!


 と、背後から聞き覚えのある不気味な音が聞こえてきた。


 顔から血の気が引くのを感じながら俺は振り向いた。


 見ると、シュヴィーネが指をポキポキ鳴らし、ミローネが両手を交差させるようにバシバシと自分の体を叩いている。


「まあ、アニタ様はお姫様ですから、殿方が気になさるのは当然かもしれませんけれど」

「あたし達だってお姫様だって事を忘れないでくれよな」

「そうだね、お父様にも報告しなきゃ」


 フォン、シュヴィーネ、ミローネがずいっと迫ってくる。


 ヤバい、なんとか逃げ道を……!


「そ、そうだ、アニ……王女殿下、近くに冒険者用の宿屋は、ありますか!?」

「アニタって呼んでくれていいよ」


 と、またしても可愛らしい笑顔で答えてくれるアニタ姫。


「そらおぉーーあたしのことは王女殿下なんて呼んでくれたことないよなぁーー」

「私も呼んでもらったことないです」

「これは確定だね」


 モンスター姫達の圧が増幅した。


 墓穴を掘るとはまさにこのことだ。


 結局この日の冒険の終わりに、俺は全女子から処されてしまった……



 ◇  ◇  ◇



 下町の冒険者の宿は、アニタが「おばさま」と呼んでいたエリナがやっている宿だった。


「おばさまはね、私の乳母をしてくれてたの」


 と、アニタが教えてくれた。


「それで私が8歳の頃までそば付きのメイドをしてくれてたの。でも……」


 と、そこでアニタは口をつぐんで、悲しそうにエリナを見た。


 この様子だと、込み入った事情があるのだろう。あまり詳しくは聞かないほうが良さそうだ。


「気になさることはありませんよ、姫様」


 エリナは包み込むような笑顔でアニタを見て言った。


「陛下はとてもお優しい方で、私は大変良くしていただきました。それが私には過ぎた優しさだったというだけてすから」


 なるほど、というほど理解できたわけではない。所詮は17歳の坊主の俺には分からない大人の事情があったのかもしれない。


 元の世界に戻る前に、メンバーのレベルと【技】を確認してみた。


 沙生那 Lv36

 夕璃乃 Lv35

 明日海 Lv33

 暁音  Lv35

 空央  Lv29

 フォン Lv29

 シュヴィーネ Lv29

 ミローネ Lv29

 リンナ Lv29

 アニタ Lv29


 今回は戦闘はなかったので、獲得経験値はクエストの途中経過達成分のみだ。


 なので沙生那達はレベルは1つ上昇。俺はポイント2倍デーにしていたのでレベルはそのままだ。


 たが、明日海には新しい技の【睡魔】が発現した。その名の通り敵を眠らせる補助魔法だ。


 そして、よく分からないのが俺の技だ。新しく発現はしたのだが、名前が【?】となっている。説明書きも何もない。


 一体どういうことなのだろう……?


「どうしたの、そらおくん?」


 冒険の書をじっと読んでいた俺の手元を肩越しに覗き込みながら、アニタが訊いてきた。


「あ、いえ、ちょっと分からないことがあったので……」


 て、アニタさん、近いです!


「ふうん、【技】っていうのがあるのね。私にも何かあるのかな?」


 俺の冒険の書には、アルスガルドの姫達のステータスも表示される。筆頭者だからだろう。 


 新しく加わったアニタのステータス欄を見ると、【王女の光】という技が発現していた。


 効果は強い光で敵を撹乱する、所謂(いわゆる)目眩(めくら)ましだ。


「へえ、結構使えそうな技ね」


 嬉しそうに俺を見るアニタ。 


 だから近いですって姫様! そんなことしたらまたパーティーの空気が……


「もうちょっと離れろ、アニタ」

「そうですよ」

「また大変なことになるから、そらおさんが」


 て、ミローネさん、それどういうこと!?


「いくら王女様だからって……嶺渡君も嶺渡君よ、もう!」

「そうそう、痛い目に遭うのは陰キャ君なんだから」


 だからなんで俺がぁああーーー!


「ふふ、楽しいね、そらおくん」


 すみません、これのどこが楽しいのでしょうか、アニタさん!


 と、第一印象とはまったく違う、アニタ姫に翻弄されながら、俺達はその日の冒険を終えた。


 それにしても俺に発現した新しい【?】とは、一体どういう【技】なのだろう……



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