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冒険の書から始まる異世界探索〜最弱サポート役なのに、なぜか姫と美少女に溺愛されます  作者: 舞波風季


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第41話 陰謀の匂い

 アニタ姫? この少年、いや、少女が?


「お前は……」


 シュヴィーネにアニタ姫と呼ばれた少女は明らかに動揺している。


「ああ、シュヴィーネだよ、オーク国の」


 シュヴィーネは親しげな様子でアニタ姫に歩み寄ろうとした。


「来るな!」


 アニタ姫は短剣を突きだしてシュヴィーネを制した。


「何しにきた」

「あんたを探してたんだよ、宰相に頼まれたんだ」

「宰相にだと……!」


 シュヴィーネの宰相という言葉に反応して、アニタ姫の形相が一層険しくなった。


「そうです、アニタ様」

「あなたが行方不明だから探し出してほしいと」


 フォンとミローネも進み出て、アニタ姫に訴えかけた。


「来るなと言っただろ!」


 フォンとミローネにもナイフを突きだすアニタ姫。


 どうにもおかしい。


 シュヴィーネ達モンスター姫はアニタ姫を見知っているようだ。


 アニタ姫もシュヴィーネ達を見知っているように見える。


 なのにアニタ姫はモンスター姫達への警戒を解こうとしない。


「あの……」


 俺が事情を聞こうとしたところ、アニタ姫の後ろにいた男が素早く前に出てきた。


「気安く話しかけるな、賊(ぞく)め」


 また賊呼ばわりか。


「そらおは賊なんかじゃないよ」

「そうですよ、そらお様は立派な冒険者です」

「私達の国を助けてくれたんだよ」


 シュヴィーネ達が俺を援護してくれた。


「デタラメを言うな。きっと宰相に誑(たぶら)かされて姫様を……!」


 アニタ姫の側近らしき男は、短剣を手に今にも攻撃してこようという構えだ。後ろにいる連中も呼応して配置についた。


 一度は収まるかに見えたが、またしても一触(いっしょく)即発(そくはつ)の事態になってしまった。


 どうにも俺達は敵だと思われているようだ。とにかくアニタ姫に俺達のことを知ってもらうのが先決だ。


 俺は持っていた【とうぞくのたんけん】を目の前の地面に放り投げた。


 そして、両手を上げてアニタ姫に言った。


「今からポケットに手を入れるけど、本を出すだけですから。武器は取り出しません」


 そう言って俺はポケットに手を入れた。そこで一旦動きを止めてアニタ姫たちの様子を見た。


 そしてポケットから冒険の書を取り出した。


「俺達はこの冒険の書でアルスガルドに来ました。俺達は違う世界の住人なんです」


 俺は冒険の書の表紙をアニタ姫に向けて見せた。


「違う世界……?」


 アニタ姫がボソリと呟いた。


「はい。それで、今はクエストを進めているところです。クエストは『行方不明の王女を探そう!』です」


 俺は冒険の書のクエストのページを開いて見せながら、ゆっくりとアニタ姫に近づいた。


 制止されるどころか、斬りつけられることも覚悟の上だ。


「お前……!」


 案の定、側近男が俺を止めようと一歩出た。


「待て」


 それをアニタ姫は静かな声で制した。


「ですが……!」

「そいつが怪しい動きをしたら、その時に斬ればいい」


 エグいことをサラッと言いなさる。


「これを見てください」


 アニタ姫が日本語で書かれた冒険の書が読めるか疑問だったが、アニタ姫は冒険の書をじっと見つめた。


「異界の冒険者、か……」


 日本語が読めるのか、はたまた見る人によって違う言語で見えるのか。


 判然とはしないが、アニタ姫の表情に理解の色が表れたように見えた。


「まだお前達を信じたわけではない。だが、話は聞いてやろう」

「姫様……!」


 反発する側近男をアニタ姫は手で制した。


 アニタ姫の表情には警戒の色が残っているが、この場は譲歩してくれた。


「それでは……」


 と、俺が話し始めようとしたその時、


 キィイイーーーーン!


 と、背後から剣戟(けんげき)の音が響いてきた。


「貴様、何をする!」


 暁音が叫ぶ声と鞘走る音が聞こえた。振り向いて見ると、暁音と沙生那が武器を構えている。


 相手は恐らく俺達を追尾してきた連中だ。俺はアニタ姫に視線を飛ばした。


「違う、やつらは私達とは関係ない!」


 否定するアニタ姫。俺の推測は間違っていたようだ。


 再び後ろを見て俺は【ていさつ】を使った。だが何も表れてこなかった。


 少なくとも奴らはダークモンスターではないということだ。


「そいつらは人間です、傷つけないようにしてください!」

「そんなこと言われてもねぇ!」

「まったくだわ!」


 沙生那と暁音が敵の攻撃を捌きながら文句を言ってきた。


「蕗さん、ミローネさん、魔法を!」


 俺が呼びかけた時には二人とも発動態勢に入っていた。


「【攻撃ダウン】!【速度ダウン】!」

「【防御アップ】」


 あとは敵を無力化すればいい。


 俺は【しのびのたんとう】を装備した。奴らを麻痺させるのが目的だ。


 多少傷つけてしまうが、回復ポーションかフォンに回復してもらうかすればいい。


「リンナ、【しのびのたんとう】で敵を少しだけ斬ってくれ」

「わかった……」


 麻痺確率はそれぞれ50%だ。二人合わせて100%とはならないが、とにかく二人でやれば確率は上がる。


「いくぞ!」


 俺はリンナに合図して後方の敵に向かっていった。


 沙生那と暁音にシュヴィーネも加わって謎の追跡者を相手にしていた。


「こいつら、強いぞ! 傷つけずに倒すなんて無理だ!」


 シュヴィーネは敵の剣の攻撃をグローブをはめた手で弾き返している。


 俺とリンナが敵の集団に突っ込んだ時には、敵の動きが鈍くなり出した。【速度ダウン】は単体魔法なのが難点だ。


 俺よりも敏捷性が高いリンナは既に敵を斬りつけ始めていた。


 自然、俺はリンナの取りこぼしを片付ける役目になっている。


 すぐに麻痺が効かない相手もいて苦労はしたが、なんとか路地にいた追跡者を皆麻痺させることができた。


 俺が人数を数えていると、アニタ姫が引き連れていた男達が縄を手に駆け寄ってきて、手際よく追跡者達を縛り上げた。


「ありがとうございます」

「いや、それはこっちもだよ」


 俺が礼をいうとアニタ姫は表情を和(やわ)らげた。


 やっと俺たちに対する警戒を解いてくれたようだ。


「この連中は何者なんでしょう?」

「ゴブロスの手下だよ」


 俺が訊くとアニタ姫が教えてくれた。


「ゴブロス?」

「宰相のことさ。奴は王国の調査局を仕切っているんだ。で、こいつらは調査局員てこと」


 なるほど、調査局とは諜報(ちょうほう)的な役割を担う部局のようだ。 


 それにしても、ゴブロスという名前、とある種族をイメージしてしまう。


 だが、予断は控えよう。


「とすると、何故俺達を攻撃してきたのでしょう? 俺達は宰相の依頼であなたを探していたのに」

「多分……いや、それは別の場所で話すよ」


 アニタ姫は周囲を注意深く見ている。他にも宰相の手下がいないか警戒しているのだろう。


 すると、俺の袖が引っ張られた。いつもどおりリンナだ。


「そらお……」


 リンナは調査局員達がいた後方を指差している。


 見ると、路地に黒い人影が立っている。調査局員の残党か?


 俺は念のため【ていさつ】を使ってみた。出てきたのは。


「ダークゴブリン……!」


 ある程度予想はしていたものの、俺は思わず声に出して言ってしまった。


「ダークゴブリン? そんなのがいるの、リンナちゃん?」

「しらない……」


 夕璃乃に訊かれたリンナは首を振った。


「とにかく、ダークモンスターには違いないのよね」

「私の【おにきり】の錆(さび)にしてあげるわ!」


 そう言うと、沙生那と暁音がダークゴブリンを攻撃すべく突っ込んでいった。


「あたし達も行くよ!」


 シュヴィーネの掛け声に、夕璃乃と明日海、ミローネ、フォンも追随した。


「そらお、あたしもいく……」


 と、リンナがシュヴィーネ達を追おうとした。


「リンナは俺と一緒にいてくれ」


 今日リンナがいなくなったことが、まだ俺の中でわだかまりになってしまっているのだ。


「むぅーー……」


 不機嫌そうに頬を膨らますリンナ。


 俺はリンナの手を引きながら沙生那達の後を追った。


 俺とリンナが皆に追いついた時には、既にダークゴブリンは居なくなっていた。


「どこに行ったのかしら?」

「暗いところにダークモンスターだから見つけにくいわ」


 先頭にいる沙生那と暁音が苦々しげに言いながら、周囲に目を配っている。


 再度【ていさつ】を使ってみたが、ダークゴブリンの存在を捉えることはできなかった。


「やっぱりダークモンスターが絡んでたのか」


 あとから追いついてきたアニタ姫が言った。


 やっぱり? ということはアニタ姫はこの事態を予測していたということなのか?


「お互いの認識をすり合わせたほうが良いと思うのですが、アニタ姫」

「そうだね。あなた達に敵意は無さそうだし」


 よかった。とりあえずは信じてもらえたようだ。


「まあ、完全に信用しているわけではないけどね」


 そう言ってアニタ姫はニヤリと笑った。


 そのニヤリはどういう意味なのですか? と訊きたいところだったが、なぜかローキックが飛んできそうな予感がして止(や)めた。


「ところで、こいつらはどうするんだい? 

 アニタ」


 シュヴィーネが縛り上げた調査局員達を指差しながら言った。


 て、お姫様を呼び捨て! と、一瞬背筋が凍ったが、考えてみればシュヴィーネもお姫様だ。


 アニタ姫も気にしている様子はない。


「そのままにしておけばいいさ。朝になれば警ら隊が見つけてくれるよ」


 と言うと、アニタ姫は背後に呼びかけた。


「レック」


 先ほどの側近男が駆けてきた。


「この人達を案内してやってくれ」

「はい、姫様」


 レックと呼ばれた男は、胸に右手を当ててお辞儀をして答えた。


「ところでどこに行くのですか?」

「決まっているだろう、私達のアジトさ」


 俺が訊くと、アニタ姫は不敵な笑みを浮かべて言った。


 こうして俺達は、アニタ姫のアジトに案内してもらえることになった。



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