第4話 新しい仲間
「助けていただいて、ありがとうございます」
スライムのお姫様、フォンが改めて俺と沙生那に礼を言った。
その間もフォンは俺にピッタリとくっついていた。
「姫様、そんなにくっつかれなくても大丈夫かと……もうダークスライムの親玉は倒しましたので」
俺は失礼にならないように気をつけて言った。なんと言っても相手はお姫様なのだ。
「そんな畏まった呼び方ではなく、私のことはフォンとお呼びください」
青紫色の瞳をキラキラさせながらフォンが言った。
「わ、分かりました、フォンさん」
フォンに感謝してもらえるのは嬉しいが、俺一人の力で助けたわけではない。
案の定、沙生那が冷めた目でこちらを見ている。
「よかったわね、感謝されて」
沙生那は平坦な声でそう言って視線を外した。
明らかに沙生那は怒っている。当然だろう。ダークスライムの親玉は沙生那と俺の二人で倒したのだ。
なのにフォンは俺にばかり感謝の眼差しを向けている。
そんなフォンに沙生那はちらちらと視線を送っている。
「あの、フォンさんを救えたのは石蕗さんのおかげも……」
「ええ、勿論わかっていますわ」
俺に最後まで言わさずにフォンは明るく答えた。そして輝く瞳で俺をじっと見つた。
そんな俺達を沙生那は冷たい流し目で見ていた。
◇ ◇ ◇
「冒険者よ、感謝する。よくぞ姫を助けてくれた」
スライム国にフォンを送り届けるとスライム王に大いに感謝された。
経験値も大幅に増えた。俺はレベル17、沙生那はレベル16になった。
そしてスライム王からの褒美として【スライムのローブ】が俺と沙生那に授けられた。
「このローブは炎攻撃のダメージを軽減します。勿論物理防御力も上がります」
と、フォンが教えてくれた。
「して、冒険者よ、ひとつ頼みがあるのだが」
スライム王が厳しかった表情を緩めて言った。
「わが娘、フォンをそなた達の仲間に加えてもらえんか?」
「是非お願いします!」
スライム王の言葉にフォンが続けて懇願した。
「はい、大丈夫だと思いますが……」
そう言いながら俺は隣の沙生那を見た。
「そうね」
口ではそう言ったが、明らかに沙生那はフォンの同行を快く思っていないのが表情に出ていた。
やはり俺が手柄を独り占めしたような形になったのが気に食わないのだろう。
「ありがとうございます!」
フォンが駆け寄ってきて、嬉しそうに俺の腕を取った。
「あ、いえ、そんなに喜んでいただくと、却って恐縮です」
俺はチラチラと沙生那の顔色を伺いながらフォンをとりなした。
沙生那は冷めた目でこちらを見ていたが、俺と目が合うとプイッと目をそらした。
(うう、これは何とかしないと……)
こうして小さな不安を残しながらも、俺達はスライム姫救出クエストを無事終えることができた。
次はどんなクエストなのかと俺は冒険の書を開いた。
タイトルは『オーク国の危機を救え!』とあった。
「オーク国ってオークの国っていうことよね?」
沙生那も冒険の書を見ながら言った。
「多分そうですね」
「オークってどういう人達なのかしら? スライムとは違うのよね?」
沙生那はオークというものを知らないようだ。
「えぇと、オークというのはファンタジーやゲームに出てくるモンスターで、豚のような見た目の……」
「要は豚のモンスターってことね」
「まあ、そういうことになります、はい」
恐らく沙生那は、化け物じみて大きく凶暴な豚を思い浮かべているのだろう。
そう思いつつも、俺は敢えてそのままスルーした。
「そういえば、私も新しい技を覚えたわ!」
冒険の書を見て沙生那が嬉しそうに言った。
「おお、やりましたね。どんな技ですか?」
「【こんしんげき】だって」
渾身撃とは強そうな技だ。渾身の一撃を撃てる技なのだろう。
だが効果やデメリットも気をつけなければいけない。
「【技 : こんしんげき】『一度の攻撃で通常の二〜三倍のダメージを与えられます』だって」
沙生那が説明を読み上げた。二〜三倍とは凄い。そこだけ見ればかなり使える技だ。
「ただし書きはありますか?」
大事なのはそこだ。
「『ただし、技の発動から攻撃までに時間がかかります。この間に攻撃を受けるとダメージが二倍になります』って書いてあるわ」
やはりデメリットがあるのか。これも使いどころが難しい技のようだ。
「私は毒の治療と回復の魔法が使えます」
と、フォン。それはありがたい。回復系の技は冒険には必須だ。
とはいえ、ポーション類は常に補充しておこう。どんな事態が起こるか分からないのだから。
「ところで、スライム国には俺達が使える宿屋や道具屋はありますか?」
俺が聞くと、
「はい、お城の中に宿泊施設とお店があります」
とフォンが教えてくれた。
まずは店にということで、フォンの案内で道具屋に向かった。
道具屋では【かいふくポーション】と
【どくけしポーション】を補充した。
新たに【わたりどりのつばさ】、【みちしるべのたま】、【ぼうけんしゃのカバン】が加わっていたので買っておいた。
武器屋には新しい武器と防具が加わっていた。
沙生那の新しい技は【こんしんげき】、戦士系の技だ。ならば剣がいいだろうということで【どうのつるぎ】にした。
それに合わせて防具は【かわのむねあて】と【かわのグローブ】に。
次は俺の装備だ。俺の技は【はやぶさぎり】だ。俺は【はやぶさぎり】の「素早く二度攻撃できる」という点に着目した。
そこで俺は軽さを重視して【とうぞくのたんけん】を選んだ。サポート役には機動性が重要だ。
ならばと、防具も敏捷性を考慮して【たびびとのふく】にした。それに合わせて【かわのグローブ】を装備した。
「今日のところはこんなものかしら」
装備やアイテムを確認して沙生那が言った。
これまで俺と沙生那はほぼ同じようにレベルアップしてきた。
それがレベル15で発現する技が違っていた。
技の違いは特性の違いだと考えることもできる。
いずれ何らかの職業が付与されるのかもしれない。
沙生那は戦士或いは剣士、俺は敏捷重視で盗賊、フォンは治癒士がいいだろう。
そんなことを俺が考えていると、
「そういえば、フォンさんてスライムのお姫様なのよね?」
と、沙生那がフォンに聞いた。
「はい」
沙生那の問いに明るく答えるフォン。
「なのに人間の姿なのね」
確かにそうだ。スライム姫のフォンはなぜほかのスライムと違って人間の姿なのだろう?
「私、姿を変えられるんです」
そう言ってフォンは俺と沙生那が見ている前で姿を変えた。
青みがかった金髪と真珠のような肌の美少女が、青緑色の丸っこいスライムになった。
「ええーー!すごい!!」
目をまん丸にして驚く沙生那。
俺はある程度予想はしていた。姿形を変えられるスライムという設定は珍しくない。
だが実際に目の前で見ると、鳥肌が立つような驚きがあった。
「すごいですね……スライムは皆さん変身できるんですか?」
俺が聞いた。変身ていう言葉が正しいのかよくわからないが。
「多分私だけだと思います」
とフォンは答えた。
「私は特別な運命を持っている、と占い師に言われたのです、生まれた時に」
特別な運命とは、いかにもお姫様らしいエピソードだ。
「それは、私が十四歳の時に運命の人にめぐり逢うというものでした」
ふむふむ、なるほど。
「その、運命の人は人間の男性なのです。なので私には人間の姿に変身できる能力が授けられたのです」
人間の男性ねえ。異種族間の恋愛、結婚というのはどうなっているのだろう。
ファンタジー世界ならそういうのもありなのか?
「そして、今日が私の十四歳の誕生日なのです」
それは目出度い。誕生日に悪者から救い出されるとは運命的なものが感じられる。
その時、
「ちょっと待って、それって……」
と、沙生那が何か言いかけたが、フォンは続けた。
「ですので、よろしくお願いしますね、そらお様」
「はい……て、え、俺?」
何を言っているのだろう? よろしくとはどういうこと?
俺が、乏しい知能を総動員して解析していると、
「さあ、帰るわよ!」
と言いながら、沙生那が俺の腕を取って強引に引っ張った。
「あ、はい……」
なんだか、沙生那が怒っている。
なのに、俺はオロオロしてしまうことはなかった。
そして、その時の沙生那に掴まれた腕の感触は、俺の心にずっと残った。




