第38話 王都へ
「王様との謁見ね! 楽しみでドキドキするわね!」
早くも気分アゲアゲの暁音。
最初の行動目標は『王都に行って王様に会おう!』とある。
今までも王様には会ったが、王都に行くとなると気持ちも上がる。
受付さんに教わったとおり、今までは閉じられていた南の出口を出ると、よく整備された並木道が延びていた。
「いかにも王都に向かう街道って感じね」
沙生那が周囲を見ながら言った。
「ダークモンスターなんか出なそうだよねぇ」
沙生那と並んで歩く夕璃乃も左右の並木を見ながら言った。
「そんなこと言ってるそばから、お出ましだよ!」
シュヴィーネが鋭く言って身構えた。
その直後、両側の並木の影からダークモンスターが現れた。
ダークトロールに黒銀オークと黒銀スライムが混在している。
「現れたな、ダークモンスターども!」
暁音は、特撮ヒーローのようなセリフと共に【おにきり】の束に手をかけた。
そして前傾姿勢になり、ダークトロールとの間合いを一気に詰めた。
ダークトロールが手にした棍棒を暁音に振り下ろそうと振り被る。
だがその時既に暁音はダークトロールの懐に飛び込んでいた。
ザンッ!
暁音の逆袈裟が見事にダークトロールの腹に決まり、ダークトロールは黒い粒子となって消えた。
「ふっ、他愛もない」
芝居っ気たっぷりで暁音はくるくると刀を回し、スチャッと鞘に納めた。
「敵は一匹だけじゃないわよ!」
沙生那が警告しながら駆け寄り、接近してきたダークトロールに上段から斬りつけた。
「もうぉーー油断しすぎだよぉ、暁音ちゃんはぁ」
そう言うと夕璃乃は、すぐ後から迫ってくる黒銀オークに「貫け!」と魔法を放った。
残りの黒銀モンスターもシュヴィーネが手際よく片付けた。
「私達の出番はないね……」
「そうだね……」
そう言いながらミローネと明日海が笑みを交わしている。
元々攻撃力が高いパーティーだったが、暁音の加入で、また一つレベルが上がっている。
手強い敵と遭遇しても、盾役のミローネとデバフ魔法役の明日海がいる。
この調子ならラスボス級の奴が来ても余裕なのでは? などという楽観的な考えが浮かんできた。
横にいたリンナが俺の袖を引っ張った。見ると何か言いたげに俺を見あげている。
「どうした、リンナ?」
「……」
俺は訊いてみたが、リンナは何も言わずに俺を見あげるだけだった。
もしかしたら……
「リンナも戦いたいのか?」
「……」
リンナは無言で頷いた。
リンナも装備は整えたし、そもそもレベルも俺と同じだ。戦おうと思えば戦えるのだ。
だが、見た目は子供だ。どうしても心配が先にくる。
「東の草原に行ってみるか?」
東の草原は最初に冒険を始める場所だ。レベル1のダークスライムから始めれば、戦闘にもすぐ慣れるだろう。
だがリンナは、俺の言葉が気に入らなかったようだ。
「むぅーー……!」
と不機嫌そうに頬を膨らませている。リンナなりに、プライドみたいなものがあるのかもしれない。
ならば仕方ない。
「それじゃ、次にダークモンスターが出たら俺と一緒に戦うか?」
「うん……」
リンナの表情が緩んだ。
「私が守るから大丈夫」
「うん、私も魔法で援護するよ」
ミローネと明日海の励ましに、リンナも嬉しそうな顔をしている。
次のダークモンスターとの遭遇ではミローネが盾役として正面に出て、明日海がデバフ魔法で援護した。
俺とリンナは速さを活かして横から回り込んだ。
リンナが敏捷に優れているだろうことは俺も予想していた。
だが実際に見てみると、その速さは俺の予想以上だった。
早速【かげいどう】使っているのか、まさに残像が見えるほどの速さだ。
リンナは影のように敵の間を駆け抜け、【くない】で斬りつけていった。
それほど大きなダメージを与えているわけではないが、敵の注意を引きつけるのには十分だ。
それに、一撃どころか、一度に二撃、三撃と与えていることもある。
これもリンナの高い敏捷性がなせる技だろう。
それまでパーティー最速は俺だったが、リンナはそれをあっさり超えてしまっている。
パーティーリーダーとしては頼もしい限りではあるが、一抹の寂しさも感じないではない。
こうして、時折現れるダークモンスターを倒しながら進むうち、俺達は王都にたどり着いた。
王都の城壁の門には衛兵が立っていたが、開放されており特に誰何もされずに通ることができた。
城門を抜けると大通りがあり、遠く先の方に王城が見える。
「お店がたくさんあるわね」
「ほんとだねぇ、ポイントで買い物できるのかなぁ?」
「後で寄ってみたいね……」
通りの左右を見ながら三女史が喋っている。
「私は早く王様に謁見したいわ!」
暁音はやる気満々、鼻息も荒い。
王城の入り口は二名の衛兵が守っていた。
「王城に何用だ」
やたら威圧的でぶっきら棒な衛兵だ。まあ衛兵というものは、これくらいでなければならないのかもしれないが。
「えっと、クエストで参りました」
この答えが正しいのか自信はなかった。普通なら許可書的な書面が必要にも思えるがそんなものは……あっ!
ハッと思いついて、俺はポケットから冒険の書を取り出して衛兵に見せた。
「ふむ、冒険者か。ならば通るがよい」
衛兵は、さっきまでとは打って変わって穏やかな態度になった。
「異種族の者はここまでだ」
もう一人の衛兵が、通ろうとするフォン達を制した。
「なんでだよ!」
シュヴィーネは今にも掴みかかりそうな勢いだ。しかも彼女の後ろにはミローネが聳えるように立っている。
「陛下のご命令だ」
だが衛兵は全く怯む様子もなく答えた。さすがだ。
「それじゃ、そらおを守ってやれないじゃないか……!」
悔しそうなシュヴィーネの言葉にミローネとフォンも頷いている。
確かに、もし城内で戦闘があって俺がHP切れになったりしたら、シュヴィーネ達のレベルアップが遅れてしまう。
「すみません、シュヴィーネさん。十分に気をつけますので」
俺は、衛兵の言葉に納得しかねるシュヴィーネにそれしか言えなかった。
「大丈夫だよぉ、私たちがいるから」
「そうよ」
「うんうん」
と、夕璃乃達が請け負ってくれた。心強い限りだ。
「選ばれし者の私がいれば万事うまくいくわ、心配無用よ!」
その自信がどこから来るのか今ひとつ分からないが、暁音も力強く請け負ってくれた。
まあ、女子に守られて心強いというのも、男としてはなんとも情けなくはあるが。
そして、城内に入ろうとする俺の横にリンナが駆け寄ってきた。
「そらお……」
俺を見あげるその大きな目は、明らかに俺を心配してくれている目だ。
こんな小さな子にも心配される俺って……
「大丈夫だよ、リンナ。すぐ戻ってくるから待っててくれ」
そう言って俺はリンナに笑って答えた。
顔を上げると、少し先に行っていた沙生那達が俺をじっと見つめて待っている。
「あ、すみません……」
小走りで追いついた俺に、
「すっかり懐かれてるわね」
と、冷めた表情の沙生那。
「まあ、分からないでもないけどねぇ」
「そうだね……」
夕璃乃と明日海も何やら意味ありげな表情だ。
ヤバい、こんな時にこんな所で不穏な空気になってはいけない。
「私は一向に構わないわよ、嶺渡君がロリコンでも!」
だから、俺はロリコンじゃないですって、暁音さん!
とりあえず、目先を変えなくては!
「さ、さあ、待ちに待った王城ですよ皆さん! 行きましょう!」
俺は、陰キャらしからぬ明るさを無理に演出して、皆の先頭に立って王城の中へと入っていった。




