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冒険の書から始まる異世界探索〜最弱サポート役なのに、なぜか姫と美少女に溺愛されます  作者: 舞波風季


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第34話 ライバル

 ゴブリン達は、中央にランタンが吊るされただけの、薄暗い尋問部屋の隅に固まって座っていた。


 皆怯えた目でこちらを見ている。


 その中に一人、大きな目でこちらをじっと見ているゴブリンがいた。俺に礼を言いにきた少女だ。


 このゴブリン達はどうなるのだろう?


 尋問部屋まで付いてきてくれたミローネに俺は訊いてみた。


「まだ、決まってはいないですけど……トロール国内に住まわせることになると思います」


 ゴブリン達をもの思わしげに見ながらミローネが答えた。


「うまくいくといいけど、ゴブリンのこと……」

「うん、そうだね……」


 心配そうな明日海に答えるミローネは、心なしか自信なさげだ。


 俺達が部屋から出る段になると、件(くだん)のゴブリンの少女が明日海に近寄ってきた。


「あなた達は後で住むところに連れて行ってもらえるよ」


 明日海がゴブリン少女に優しく語りかけた。


「そう言えば名前はなんていうの?」

「なまえ……リンナ……」

「リンナ……可愛い名前だね」


 明日海が微笑みかけると、リンナは恥ずかしそうにもじもじしている。


 そして、リンナはチラリと俺の方に視線を向けた。


 俺が軽く手を上げると、リンナは驚いたように目を大きく開き、サッと明日海の影に身を隠した。


 どうやら、俺のことはまだ警戒しているようだ。


「今日のところはここまでにする?」


 沙生那に訊かれて、冒険の書を開いてみたが、まだ新しいクエストは発生していない。


 日が変わらないと出ないのか、或いはまた別に新しい出来事が起こる必要があるのか。


「はい、とりあえずはここまでにしましょう」

「そうだねぇ、ちょっと疲れたかもぉ」

「うん、私も……」


 皆の意見も一致したので、俺達は尋問部屋を後にしようと出口に向かった。


 すると、出口近くで俺の袖が引っ張られた。


 どこかに引っ掛かったか? と思って見てみるとリンナが俺の袖を摘んでいた。


「なんだい?」


 リンナを怯えさせないように、俺は意識して静かに聞いた。


「……」


 リンナは何か言いたそうに上目遣いで俺を見ている。


 こういう時はどうすればいいのだ。何か言ってくれないと分からない。


 俺は助けを求めるように明日海を見た。


「私達また来るから、勿論この人も」


 明日海がリンナの肩にそっと手を添えて言った。


「……なまえ……」


 俺を見たままでリンナがぽそりと言った。


 なるほど俺の名を知りたかったのか。


「俺はそらおだよ」


 俺はこの世界での通り名になっている名をリンナに伝えた。


「そらお……」


 俺の名をゆっくりと復唱したリンナの表情が心持ち綻(ほころ)んだ。


 そういえばリンナが近付く足音が聞こえなかったな、と城の出口に向かいながら、俺はふと思った。


 あの時、俺とリンナとの距離は4〜5mはあったように思う。


 その距離を音もなく俺の背後に近付くとは、中々の隠密力をリンナは持っているのではないか?


 もし可能ならウチのパーティーに加えるのもありかもしれない。


 そんなふうに、俺がこれからのパーティー戦略を考えていると、


「なに、ニヤニヤしてるのよ」


 と、沙生那が訊いてきた。その声は冷たく静かだった。


 ニヤニヤしてたつもりはないのだが……


「もしかして陰キャ君、リンナちゃんが気に入っちゃったぁ?」


 ここのところ通例になっている目が笑ってない笑顔で、夕璃乃が俺の顔を覗き込んできた。


 ここは、真剣に答えないとだめなパターンだ。


「そうですね、リンナは……」

「そうなのね」


 俺が言いかけると沙生那が被せてきた。


「そっかぁ、陰キャ君てロリコンだったんだぁ」


 もう夕璃乃は完全に笑ってない。


「え、ろ、ロリ、コン……?」


 なんでそうなるの?


「嶺渡君て、そういう人だったんだ……」


 明日海さん、それやめてぇーー!


 両手で口を覆いながらそう言われると、本当に自分が最底辺クズ男に思えてきちゃうから!


 いや、最底辺は否定できないけど、クズ男にはなりたくないから!


「えっと、俺が考えてたのは……」

「やっぱりリンナちゃんの事考えてたのね」

「小さい女の子のことで頭がいっぱいってさぁ」

「嶺渡君……」


 うわぁーー説明をさせてぇーーー!


 結局、最早《もはや》恒例の流れとして、俺はローキックの刑に処される事となってしまった。


 しかも、夕璃乃に促されて、心優しい明日海まで執行人に加わってしまうとは……


 こうして俺は宿屋の部屋で、痛む脚を擦(さす)りながら自室へと転移したのだった。



 ◇  ◇  ◇



 トロール国のクエストを終えてからしばらくの間、俺達はアルスガルドに行かない日が続いた。


 勿論、冒険に飽きたということではない。


 中間テストが間近(まぢか)に迫ってきたからだ。


 テスト一週間前になると、沙生那と夕璃乃から「ちゃんと勉強してる?」と何度も訊かれた。


「嶺渡君の成績が上がらないと、私達があなたのお母さんに申し訳ないんだから!」

「そうだよぉ、もし成績悪かったらローキックの刑だからね!」


 相変わらず厳しい沙生那と夕璃乃である。


「嶺渡君、大丈夫? ノート写させてあげようか……?」


 俺が沙生那と夕璃乃にやり込められてるのを見て、明日海が言ってくれた。


 なんて優しいの、明日海さん!


 明日海も学年で30位以内に入る成績上位者だ。


「甘やかしちゃだめよ、蕗さん」

「そうそう、自分で勉強する癖をつけさせないとだよ」


 やっぱり厳しい二人であった。


 と、そんなこんなあったが、中間テストも無事終了した。


 俺の成績はというと、


「まあまあ、といったところかしら」

「そうだねぇ、とりあえずローキックの刑は無しにしてあげる」

「よかったね、嶺渡君……」


 と、三女史に及第点をいただくことができた。


 我が校では各学年の上位100位以内が発表される。学年全体で200人超なのでおよそ半分だ。


 で、俺はというと100位以内には入れなかった。まあ当然だ。


 だが、100位の成績まで、あと3点というところまで迫った。つまり推定100位台ということだ。


 今までは100点以上の差があったことを考えれば大躍進である。


 正直なところ、俺は胸を張ってふんすっ! と鼻息荒くドヤ顔をしたくて仕方なかった。


 だが、三女史が思いの外冷めていたので、ドヤ顔は引っ込めておくことにした。


 因(ちな)みに三女史はというと、


 石蕗(つわぶき)沙生那(さきな) 第1位

 紅藤(べにふじ)夕璃乃(ゆりの) 第10位

 蕗(ふき)明日海(あすみ)  第28位


 という予想通りの素晴らしい成績だった。


「今回はちょっと危なかったねぇ、沙生那」


 試験結果が出た日の放課後、4人で帰る道すがら夕璃乃が言った。


 最近はこの4人で帰ることが多くなった。


 俺が下校時に例の古本屋の存在確認をしていると話したら、それじゃあというノリでこうなったのだ。


 勿論、陰キャの俺としては女子三人と下校できるなんて夢のようなシチュエーションだ。


 とはいえ、周囲の視線が痛いのも事実。沙生那と夕璃乃がいるおかげで、以前のように絡まれるということはなくなったが。


「別に気にしないわ、順位とか」


 夕璃乃に答える沙生那。


 さすが王者の貫禄!


 だが、今回は1位が2人いた。そう、沙生那は同点首位だったのだ。


 そのもう一人は刈安(かりやす)暁音(あきね)といい、隣のクラスの委員長だと夕璃乃が教えてくれた。


「前から沙生那のことライバル視してたもんねぇ」

「向こうが勝手に言ってるだけよ」


 冷やかすように言う夕璃乃に、さして興味がないといった風情で返す沙生那。


「ライバル同士って、なんかかっこいいよね……」


 明日海は物語のヒロインに憧れるような顔になっている。


 そうなのだろうか、俺にはよく分からないが……などと思っていたところ、


「石蕗沙生那さん!」


 と、朗々(ろうろう)と芝居がかった女性の声が呼びかけてきた。


 沙生那を見ると小さくため息をついている。どうやら知っている声のようだ


 俺は振り返って声の主を見た。 


 うちの高校の制服を着た女子生徒だ。見たことがある気がするが、俺には名前は分からない。


「噂をすれば何とやら、だねぇ」


 夕璃乃は面白そうにクスクス笑いを堪(こら)えている。


 ということは……


「何か用、刈安(かりやす)さん?」


 振り返りながら沙生那が答えた。


「勿論よ! 用事とは他でもないわ、あなたと健闘を讃え合おうと思ったのよ!」


 刈安暁音は、声は勿論のこと、身振りまで芝居がかった大仰(おおぎょう)さで言った。


 今時珍しい、どころかこんな人が現実にいるとは思わなかった。


「別に讃えてもらわなくてもいいわ、それじゃ私急いでるから」 


 沙生那は素っ気なく言って、すぐに歩き出した。


「この刈安暁音の名にかけて……て、ちょっと待ってよ!」


 決めゼリフを沙生那にあっさりとあしらわれて、暁音も早々に素が出てしまっている。


 なんだかとっても愉快な女子のようだ。沙生那には鬱陶(うっとう)しがられているようだが。


「ちょっとくらい相手してあげればぁ?」

「他人事(ひとごと)だと思って、もう……」 


 夕璃乃の冷やかしに辟易(へきえき)した様子の沙生那。


 いつもシャキッとして、何事にも前向きに取り組む人だと思っていた沙生那の意外な一面を見た気がした。


「しょうがない……」


 そう言って沙生那が立ち止まった時、


「ねえ、嶺渡君、あれ……」


 明日海が斜め前方を指差しながら言った。


「え、なんです……あっ……!」


 明日海が指差したのは、例の古本屋があったところだ。


 だが、今見ると、あるではないか。


 古本屋が!


 俺は明日海に答えるよりも先に駆け出した。


 後ろから皆の声が聞こえる。


 やっと、やっとだ!


 そして、俺は古本屋の店先に、スニーカーの底を滑らせて止まった。


 だが、無かった。古本屋が。


 さっきは確かに見えていた古本屋が、今は消えて無くなってしまったのだ。


「くそっ、なんなんだよ……!」


 俺は拳を握りしめて悪態をついた。


「嶺渡君!」

「あったの、古本屋?」

「見えたよね……!」


 沙生那と夕璃乃、明日海も追いついてきた。


「はい、確かに見えました……なのに」


 俺が思わず悔しさで唇を噛んでいると、暁音も追いついてきた。


「いきなり走り出してどうしたと……あら、ここって古本屋さんがあった所じゃないかしら?」


「「「「え……?」」」」


 思わぬ人から思わぬ言葉が出てきて、俺達4人は揃って声を上げてしまった。


「ついこの間はあったのに、跡形(あとかた)も失くなっちゃうなんておかしいわね」


「刈安さん、あなた知ってるの? ここにあった古本屋さんのこと」


 さっきまでの素っ気なさが嘘のように、沙生那は暁音の両肩を掴んで、真剣に問い返した。


「え、ええ、知ってるわよ」


 沙生那に間近に迫られて驚きながらも満更《まんざら》でもなさそうな暁音。


 そして暁音は、カバンから文庫本を取り出した。


「これを買ったのよ、中間テスト前に。終わってから読もうと思っていたの」


 暁音が手にしていた文庫本の表紙には、紛《まぎ》れもなく『冒険の書』の文字が刻まれていた。



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