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冒険の書から始まる異世界探索〜最弱サポート役なのに、なぜか姫と美少女に溺愛されます  作者: 舞波風季


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第33話 思わぬ申し出

「よくぞ、我がトロール国の争い事を解決してくれた」


 トロール王の地響きのような声を聞くと、反射的にひれ伏してしまいそうになる。


 俺達はクエストを達成した。


 だが、今回の実行犯のゴブリンの扱いはどうなるのだろう?


 案内役と人質だったゴブリンは今、尋問室に待機させられている。


 心情的には、あまり厳しい罰にならないでほしいと思ってしまう。


「それでだ、冒険者そらおよ」


 物思いにふけっているところにトロール王から名を呼ばれて、俺はびくっと肩を震わせてしまった。


「は、はい、王様!」


 そう答えて俺は、一歩前に出た。そして片膝をついて頭(こうべ)を垂れた。


「勇敢なそなたを見込んで、ひとつ頼みがあるのだが」


 トロール王が俺に頼み事? というか、俺は勇敢でもなんでもない、ただのパーティーのサポート役なのだが。


「自分がお役に立てるのであれば」


 と言っても、俺が役に立てる事がどれほどあるのか怪しいところではあるが。


「うむ、頼みとは他でもない。わが娘ミローネの婿になってはくれぬか」

「はい、ミローネさんの……て、ええっ!?」


 俺の聞き間違いか?


 トロール王の横にミローネが侍(はべ)っている。彼女は俯(うつむ)いていて表情は分からない。


「あの王様……今何と……?」

「そなたをミローネの婿にと申したのだ」


 やはり聞き間違いではなかった。

 俺が? ミローネの婿? 


「あの、婿にということは、その……結婚ということ、ですか……?」

「そう申しておる」

「ミローネさんのお気持ちは……」

「勿論、ミローネも承知しておる」


 俺は再びミローネを見た。相変わらず俯いてはいるが、やや上目遣いでこちらを見ている。


 ミローネは本当に承知しているのだろうか。


「ですが、自分はまだ17歳でして……」

「なに、今すぐという事ではない」

「そもそも自分はこの世界の者では……」

「通い婚というのもあるぞ」


 ヤバい、このままだとなし崩し的に話が纏(まと)まってしまう!


 その時、


「ちょっと待ったぁああーーーー!」


 と、シュヴィーネが勢いよく割って入ってきた。


 シュヴィーネさん、あなたは救いの女神です!


「なんだ、オークの姫よ」


 トロール王は特に驚いた様子もなくシュヴィーネを見て答えた。


「いきなりこの場でそのような話をするのは、あまりにも理不尽ではないですか!」

「そのとおりです! 私も異議を申し立てます!」


 シュヴィーネに続いてフォンも立ち上がってくれた。


「私の父、オーク国の王にも話を通してください!」

「勿論、私のお父様、スライム国の王にも!」


 うんうん、まずはそうだよね。オークの王とスライムの王の意向というものもしっかり確認を……


 て、待て待て!


 それってまさか、シュヴィーネとフォンも同じ事を……?


「あ、あの、シュヴィーネさん、フォンさん……」


 シュヴィーネとフォンに向かって差し出した俺の手は目に見えて震えていた。


「心配ないよ、そらお。私に任せておきな!」

「私に任せてください、そらお様!」


 シュヴィーネとフォンが同時に言って俺を挟むように両側に立った。


 任せるって、何を?


「待ってください、私だってそらおさんを……!」


 ずっと黙っていたミローネが、パッと顔を上げてやり取りに入ってきた。


「もしそらおさんが私と、その……結婚してくだされば、そらおさんも危険な冒険をしなくてよくなります」


 ミローネは俺を真正面から見て言った。


 冒険をしなくていい? それはどういうことだ?


「それはあたしと結婚しても同じことだよ」

「そうです、私でも同じです」

「あ、あの、シュヴィーネさん、俺が冒険をしなくてもいい、とは……?」

「決まってるだろ。結婚したらあたしとのんびり暮らせばいいってことさ」


 そう言ってシュヴィーネはいつもどおり俺の肩に腕を回してきた。


「それは私も同じです。だからシュヴィーネさん、ふしだらなことはやめてください」


 フォンが反対側の腕に縋ってきた。


「二人ともずるいです! トロール国なら美味しいお肉でそらおさんをもてなします」

「そしたらオーク国は美味い芋や野菜でもてなすぞ」

「スライム国にはおいしいお水があります、お水は命の源ですから」


 これは、どう受け止めたらいいのだ。


 何と言っても俺はこの世界の住人ではない。なんでそんな俺に婿になってくれなどという話を持ちかけるのだ。


 ん、待てよ?


 冒険をしないでのんびり過ごせばいいというのは、所謂(いわゆる)飼い殺しということではないか?


 つまりそれは、冒険者としての死!


 そういうことだったのか。シュヴィーネ達に命を狙われていると聞かされて、オレは直接的な暗殺を警戒していた。


 だが、ミローネを始めシュヴィーネもフォンも、狙っていたのは俺の冒険者としての死。


 つまり俺を冒険者の座から引きずり下ろし、新たに頼りになる冒険者を迎えようという計画なのだろう。


 彼女達との結婚と穏やかな生活という美味しい話と引き換えに。


 だが、そもそも俺は結婚なんてことは一度も考えたことはない。


 それどころか、女子と話ができるようになったことさえつい最近なのだ。


「さっきから聞いてれば皆で勝手なこと言ってるけど、ひどいんじゃない?」


 今まで後ろで黙っていた沙生那が前に進み出た。


「そうだよぉ、陰キャ君の気持ちとか都合とか考えて上げてよねぇ」

「うん、嶺渡君がかわいそう……」


 夕璃乃と明日海も前に出て言ってくれた。


 なんと頼りになる女子メンだ! さすが俺の護衛役を買って出てくれるだけのことはある。


 などと、呑気に情けない事を考えてる場合ではない。


 今や俺を挟んで、モンスター姫連合とJK連合の間に不穏な空気が漂い始めている。


 ヤバい、一触即発の事態とはこのことか?


 この危険な空気、何とかしないと……


 そうだ!


「あの王様、その事とは別に聞いていただきたいお話しがあるのですが」


 俺は必死さを装って、というか実際かなり必死だったが、トロールの王に申し立てた。


「なんだ、冒険者そらおよ。おぬしの婿入りの話以上に大事なことなのか?」

「はい、そう思います」

「ふむ。してどのような話だ」

「ゴブリンの処遇についてです」


 俺はゴブリンについて考えている事をトロール王に話した。


 俺がモンスター姫達から聞いた話によれば、これまでもゴブリンには非難されるべきところが多々(たた)あったこと。


 それ故(ゆえ)、スライム、オーク、トロールの各種族がゴブリンに強い嫌悪感を抱いていること。


 そして今回の争乱の件だ。実行犯は間違いなくゴブリンである。


 だがそれは、ダークトロールに脅されてやったことだ。しかも人質まで取られていた。


「なので、ゴブリンを重い罪に問わないようにできませんでしょうか?」


 俺は跪(ひざまず)いてトロール王に頭を下げた。


「だが、これまでのように奴らを放っておくわけにもいかんぞ」


 相変わらず地響のような声だが、幾分トーンは和らいだように聞こえる。


「はい、その点も考えました」

「ふむ」

「まずはゴブリンの居住地を決めます。そして仕事を与えるのです」

「仕事をだと?」

「はい」


 今のゴブリンの状態は流浪(るろう)の民といった表現が相応しく思える。


 なので決まった生産活動をしていないから、モンスターの国々の生産物を盗むことが常態化してしまっているのだ。


「罠の設置や獲物の回収、耕作や収穫の手伝い、水源地の清掃などをゴブリンにやらせたらどうでしょう。そして、獲物や収穫物、水を報酬として与えるのてす」


 いきなり上手くはいかないだろう。たが時間をかけてやれば実現できるはずだ。


 ゴブリンにしても、痛い目を覚悟のうえで盗みをするよりも、遥かにありがたいはずだ。


「ふむ、考えたこともなかったが……やってみる価値はありそうだ。のう、ミローネ」

「はい、お父様」


 トロール王にミローネが答えた。


「あたしも賛成です。早速帰ったら父に話してみます」

「私もお父様に伝えます」


 シュヴィーネとフォンも同意してくれた。


 よし、これで当面の窮地は脱した。婿入りの話が蒸し返されないうちにこの場から早々に退散しなくては。


「今のうちに帰りましょう」


 沙生那が俺の耳元に囁いた。考えてることは俺と同じようだ。


「そだね、帰ろ帰ろ」


 夕璃乃にも聞こえたようだ。


「では、これで失礼します、王様」


 俺はサッと立ち上がって礼をした。沙生那達も続いてお辞儀をした。


 そして、シュヴィーネ達に軽く手を挙げて挨拶した。


「またな、そらお!」

「お待ちしてますね!」


 シュヴィーネとフォンの声を受けながら、俺達は足早に出口に向かった。


「もう少しミローネとお話ししたかったな……」


 歩きながら明日海がポツリと言った。


 そうだった。明日海はミローネと親密になったのだ。


「すみません、俺のせいで……」

「ううん、そんなことない。ごめんね、私こそ……」


 慌てて否定する明日海。


「でもさ、嶺渡君はどう思ってるの、ミローネのこと?」

「えっ……?」


 いきなりの明日海からの質問に、俺は言葉を返せなかった。


「ああ、動揺してるなぁ、陰キャ君」


 茶化すように言って夕璃乃が俺の顔を覗き込んできた。


 笑っているようで、微妙に目が笑ってない。


「ほらほら、嶺渡君が困ってるからやめてあげて」


 沙生那がとりなすように言ってくれた。


 沙生那さん、ありがとうございます!


 そして、沙生那も俺の顔を覗き込んで言った。


「当然何とも思ってないわよね、ミローネさんのことも、シュヴィーネさんやフォンさんのことも、ねぇ?」


 満面の笑みと優しい声だ。こんな沙生那は今まで一度も見たことも聞いたこともない。


 なのに、いやだからこそか。めちゃくちゃ恐い。


「は、はははい、もも勿論(もちろん)ですっ!」


 俺は背筋をピンと伸ばして答えた。


「なら、よろしい」


 そう言った時には、沙生那はいつもの委員長顔に戻っていた。


 とにかく、色々とあった一日だった。


 とりあえず、ゴブリンの処遇のことが、よい方向に進みそうで安心した。


 ふと、あのゴブリンの少女のことが頭に浮かんだ。


 そういえば彼女の名前を訊いていなかった事を思い出した。


 帰る前に訊いてみよう、と思いながら俺達はゴブリンが集められている尋問部屋に向かった。



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