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冒険の書から始まる異世界探索〜最弱サポート役なのに、なぜか姫と美少女に溺愛されます  作者: 舞波風季


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第32話 ゴブリンの少女

 ダークトロールとの戦いでHP切れを起こした俺は、宿屋のベッドで目を覚ました。


 すると、廊下をドタバタと走る音が聞こえてきた。みんなが来てくれたようだ。


 ダークトロールを無事倒せたのだろう。これで一安心……


 いや待て! もしかしたらシュヴィーネ達モンスター姫が怒り狂って押しかけてきたのか!


 HP切れを起こした俺はダークトロールを倒した経験値を得られなかった。


 ということは俺同様、モンスター姫達もレベルアップが遠のいた、ということになる。


 つまり、俺にはもうこのアルスガルドで冒険をする資格がないと、モンスター姫達がとうとう暗殺決行を決意したのかもしれない。


 どうしよう、逃げるか?


 いやいや、逃げてどうする。


 そもそも俺はこの世界での冒険が大好きだ。これからもずっと続けていきたいと心から思っている。


 それを逃げるなど、モンスター姫に暗殺される以上に嫌だ。


 ならどうする?


 俺が渦巻く思考に溺れそうになっていると、バタン! と大きな音を立てて部屋の扉が開いた。


 と同時に、俺は反射的に扉の前に正座をした。


「本当にすみま……」


 俺が両手を床について土下座をしかけたところ、


「そらおぉおおおおーーーー!」


 シュヴィーネが呼ぶ声が、下を向いている俺の頭の上から聞こえた。


「せんで……え?」


 俺が顔を上げようとしたら、


「大丈夫か? 床に座ったりしてまだ回復してないのか?」


 目の前にしゃがんだシュヴィーネが俺の肩を掴んで、顔を覗き込んできた。


「あ、あの……」

「ごめんよぉおおーー守ってやれなくてぇーーーー!」


 そう叫ぶように言って、シュヴィーネは俺をガバっと抱きしめた。


 これはどういうことだ?


 俺はてっきり、怒り心頭に達したシュヴィーネに暗殺されるものだと思っていた。


 だからこそ、土下座をしてひたすら許しを請い暗殺を回避する、という判断に至ったのだ。


 だが、今のシュヴィーネは心から俺のことを心配してくれている。とても暗殺を企てているとは思えない。


「嶺渡君っっ!」


 そこに沙生那が飛び込んできた。


「もう、無茶しすぎだよっっ!」


 そう言って沙生那もシュヴィーネの横にしゃがみ込むと、キッとシュヴィーネを睨んだ。


「そんなにきつく抱きしめたら、また嶺渡君がHP切れになっちゃうでしょ!」

「大丈夫だって。ちゃんと手加減してるからさ」


 手加減? てことはいずれ本気になるってことですか、シュヴィーネさん!?


「いいから、離れなさいよっ……!」

「まだ、いいだろっ……!」


 沙生那とシュヴィーネが俺を間に揉み合っていると、他のメンバーも部屋に入ってきた。


「陰キャ君、大丈夫ぅ?」

「もう回復したのですか?」

「すごい倒れ方でしたけど……」


 夕璃乃とフォン、ミローネが心配して訊いてくれた。


「は、はい、大丈夫です、すみません」


 俺はシュヴィーネと沙生那の腕を解きながら答えた。


「ほんと、気をつけてよねぇ、陰キャ君は私たちより弱いんだからぁ。はい、沙生那、交代ね」


 そう言って夕璃乃は、沙生那がいた場所に素早く体を滑り込ませた。


「無理やり入ってこないでよ、夕璃乃」

「シュヴィーネさん、もういいのでは……?」


 今度はミローネがシュヴィーネを俺から引き離そうとした。


「なんだよ、ミローネまで」

「念のため回復魔法をかけますね」


 フォンか小さな体をシュヴィーネの脇から滑り込ませて、回復魔法をかけてくれた。


 ホッと一息入れていると、入り口に明日海の姿が見えた。だが、部屋に入ってくる様子はない。


 どうしたのだろうと思って見ていると、どうやら誰かと手を繋(つな)いでいるようだ。


「こっちだよ……」


 明日海が横を向いて誰かを呼び寄せた。


 戸口に姿を見せたのは、緑色の肌に尖った耳のモンスター、ゴブリンだった。


 だが、俺達を案内したゴブリンとは違った。


 案内役のゴブリンは目が細く吊り上がっており、鼻は長く垂れ下がっていた。


 だが、今明日海の横にいるゴブリンは、多少釣り上がってはいるが大きめな目をしている。鼻の形もほとんど人間と同じだ。


「蕗(ふき)さん、その、ゴブリンは……」


 俺が明日海に訊くと、シュヴィーネや沙生那達も振り返って戸口の方を見た。


「うん、人質だった子の1人なの……」


 人質の、ということは女性のゴブリンなのだろう。どうりで案内役のゴブリンとは見た目が違うはずだ。小柄なせいかほとんど少女に見える。


「人質は皆無事でしたか?」

「うん、今は外で待機させてる」

「それはよかった」


 クエストを達成したことが確認できて俺も安心した。


「それで、この子が嶺渡君にお礼をって……」


 そう言って明日海がゴブリンを俺の方にそっと押し出した。


 ゴブリンは部屋の中をキョロキョロと見ている。俺の目から見ても明らかに震えている。


 明日海には馴染んでいるようだが、他の者に対してはまだまだ怯えが強いようだ。


「大丈夫よ……」


 明日海が屈んでゴブリンの耳元に囁いた。


 明日海の言葉に励まされて、震えながらもゴブリンは一歩、俺の方に歩みを進めた。


「あ……ありが、とう……」


 小さな、それこそ耳をそばだたせないと聞こえないような小さな声で、ゴブリンの少女が礼を言った。


 きっと彼女は、このひと言のためにとてつもない勇気を振り絞ったのだろう。


「うん、無事でよかったね」


 俺はゴブリンの少女を怯えさせないように、精一杯の笑顔で答えた。


 まあ、陰キャの俺の笑顔などにどれほどの価値があるのか分からないが。


 俺の言葉に、ゴブリンの少女は一瞬ビクン! と震えた。 


 そして、素早く明日海の後ろに隠れると、顔を半分出してこちらを見た。


 俺は再度笑顔を送った。


 怯えていたゴブリンの少女の表情がほんの少しだけ明るくなった、ように見えた。


 ゴブリン族については、色々と非難されるべきところもあるのだろう。


 たが、少なくともこの少女を始めとする人質になったゴブリンたちに罪はない。そう考えたい。


 明日海の陰に隠れたゴブリン少女を見ながら、沙生那が冒険の書を取り出した。


「この後は報告ね。『トロールの王様にクエスト達成の報告をしましょう!』って冒険の書に出てるわ」


「このまま、すぐに行く? それとも一旦終わりにする?」


 今は俺の腕を掴んでいる夕璃乃が俺に訊いてきた。


 他のメンバーを見ると、皆俺の顔を見ている。


 そうか、オレはHP切れを起こしたのだ。なので皆が俺の身体のことを心配してくれているようだ。


 だが、HP切れを起こすと全回復するので、身体的には全く問題ない。


 それよりも、まずはクエストをしっかりと終わらせたい。


 そうすれば、新たなクエストが発生するはずだ。


 それに、クエスト達成により新しい装備や道具が店に並ぶ可能性もある。


「すぐに報告に行きましょう」


 そう、クエスト達成による経験値も入るはず……


「ああぁああーーーーーー!」


 俺は大事なことを思い出して、思わず大声で叫んでしまった。


「うわっ、なになに、どうしたの陰キャ君!?」

「どうかしましたか!?」


 俺の直ぐ側にいた夕璃乃とフォンも驚いている。


 クエスト達成の経験値で思い出した!


「フォンさん、シュヴィーネさん、ミローネさん、ごめんなさい!」

「ええ!? 一体どうしたのですか!?」

「そうだよ! なんでそらおが謝るんだよ!」

「そうですよ! 私達こそそらおさんを守れなかったのですから!」

「いえ、俺がHP切れを起こしてしまったので、また皆さんのレベルアップが遅れてしまうことに! 本当にすみません!!」


 頼りないことこの上ない俺だが、まだまだこのアルスガルドでの冒険を楽しみたい。


 どうか、俺を暗殺して新しい仲間を迎えようなどとは考えないでほしい。


「どうか、俺を見捨てないでください!」


 平(ひら)にご容赦をぉおおーー!


「他の人はともかく、私がそらお様を見捨てるなど決してあり得ません!」

「他の人はともかくってなんだよ! あたしだって絶対にそらおを離さないぞ!」 

「それを言うなら私もです! 全身全霊をかけてそらおさんの盾となります!」


 危なかったぁああーーーー謝るのを忘れてたらどうなっていたことか!


 取りあえず、すぐに暗殺されるということはなさそうだ。


 たが、油断してはいけない。


 俺がモンスター姫にとって有用な男だということを、アピールし続けなければならない。


 そうしないと、いつ息の根を止められてしまうか分からないのだ。


 そうだ、なんとかなる。いや、なんとかするのだ!


 俺は決意も新たに立ち上がった。


「陰キャ君、なんだか気合い入れてるみたいだけど……」

「そうね、でも何か猛烈に勘違いしてそう……」

「うん、そうかも……」


 少し離れたところで夕璃乃達が何か話していたが、俺にはあまり良く聞き取れなかった。



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