第29話 運命を巡る攻防戦
昨日、沙生那達に言われたことが頭から離れない。
フォン、シュヴィーネ、ミローネが俺の命を狙っている。
一体何の目的で彼女達は俺の命を狙うのだ?
もう俺なんて用済みってことなのか?
「何してるの、陰キャ君?」
「うわぁーーーー!」
耳元で囁かれた声に驚き、俺はとんでもない声を上げてしまった。
「きゃはは! 陰キャ君、驚きすぎぃーー」
宿屋のベッドに腰かけている夕璃乃が、驚いて立ち上がった俺を見上げながら大笑いしている。
アルスガルドに転移したことも忘れ、宿屋の部屋で自分の世界に入り込んでしまっていたのだ。
「いきなり声をかけたら驚くに決まってるでしょ」
沙生那も部屋に入ってきていた。すぐ後ろには明日海もいる。
「だってさぁ、昨日のこともあるしぃ、心配じゃん」
そう言って夕璃乃は立ち上がって俺の腕を掴んだ。
「でもぉ、私たちがガードしてあげるから大丈夫だよ」
そう言って夕璃乃は俺に寄り添ってきた。
夕璃乃の顔が俺の顔のすぐ横にある。
ち、近い……!
「ね、沙生那も明日海ちゃんも、だよね?」
「そうね、状況次第では私も加勢するわ」
「うん」
そこまで俺の身を案じてくれているのかと思うと、胸が熱くなってくる。
だが、考えてみると危険をはらんでいるのではなかろうか?
フォン達三人のモンスター姫が俺の命を狙っている。
そうはさせじと、沙生那達三人が俺をガードしてくれる。
となれば、必然的に衝突が起こり、モンスター姫とJKの血で血を洗う戦闘……想像するのも恐ろしい。
争いの原因は俺だ。ここは、なんとしてでもモンスター姫達からの俺に対する評価を上げなければならない。
それなら、レベル最強を目指すか?
いや、それよりも俺は、パーティーを支えるサポート役としてより一層励むべきだ。
そうすればモンスター姫達からの評価も上がり、俺の命を狙おうなどという気持ちも無くなるはずだ。
「まぁた、何か深刻になってるねぇ、陰キャ君」
またしても自分の世界にはまり込んでいた俺の顔を、夕璃乃が覗き込んできた。
「あ、その、す、すみません……!」
また、近いです、夕璃乃さん!
「そんなにくっつかなくてもいいでしょ、夕璃乃」
そう言いながら沙生那が夕璃乃の腕を引っ張った。
「ええーー? いいじゃん。これも身辺警護だよ、陰キャ君の」
尚も俺の腕を離さない夕璃乃。
「そっか……身辺警護、だね」
そう呟いて明日海も夕璃乃と一緒に俺の腕を掴んだ。
「まだフォンさん達はいないんだから、いいでしょっ!」
語尾に力を入れて俺を引っ張る沙生那。
「予行演習だよ、予行演習ぅ」
「そうだね、練習は大事……」
などとやっていると、部屋の扉をドンドンと叩く音がした。
「そらおぉーーいるかぁーーい?」
外からシュヴィーネの呼ぶ声が聞こえた。
「ほらぁ、早速来たよ、敵が」
ニヤリとしながら夕璃乃が言った。
「敵」とい言葉に、思わず俺はビクッとしてしまった。情けない……
俺は夕璃乃の手を解くと、扉を開いてシュヴィーネを部屋に入れた。
「なんだい、あんた達も同じ部屋にいたのかい」
部屋の中を見てシュヴィーネが言った。なにやら不敵な笑みを浮かべている。
「当然じゃん、私たち仲間だしぃ」
夕璃乃がサッと俺の側に寄ってくっついた。
「ふうん、ただの仲間にしちゃあ、随分と密着してるじゃないか」
「そうですね」
シュヴィーネと、後から入ってきたフォンが、俺と夕璃乃をジロジロと見ながら言った。
「シュヴィーネだって、すぐ抱きつくじゃん、陰キャ君に」
だ、抱きつく!?
「そりゃそうだよ、なあ、フォン」
当然だろうという顔でシュヴィーネがフォンを見た。
「はい、そうですね」
え、フォンさんも基本賛成なの?
「でもそういうことは人が見ていない所でやるべきです」
人が見ていない所で、てことは……俺を籠絡して油断させてから、人目につかない所で暗殺するということなのか……!
「そうするわよね、普通」
フォンの言葉に沙生那が頷く。
さすが沙生那さん! モンスター姫の手の内を読んでいるのですね!
すると、ミローネが部屋の入り口から顔を覗かせた。
「そろそろ、行きませんか……?」
ミローネが、部屋の様子を見ながら、控えめな口調で言った。
そうだ、今はトロール国の争いを解決するのが先決だ。
「ミローネは大丈夫、だよね?」
明日海がミローネに歩み寄って訊いた。
「大丈夫……て?」
「嶺渡君のこと……」
「そらおさん、のこと……?」
「うん、ミローネも、狙ってるの……?」
うわっ、直球すぎませんか、明日海さん!
「うん……お父様はそう考えてるみたい……」
お父様って、トロール国の王様ですよね、ミローネさん!
まさか、三メートルを超えるトロール王の手で……
「そうなんだ……なんか、ちょっとがっかり……」
「ごめんね、あすみ。でもこればっかりは……」
明日海さん、諦めないで!もっと説得頑張ってぇーーーー!
とにかく、今はこの場の空気を変えなければ!
「あ、あの、今日は防具を整えましょう!」
俺は陰キャらしからぬ明るい声を出した。
「あ、そうだ、あたし達も防具を装備できるんだよな」
そう言って、シュヴィーネが素早く俺の肩に腕を回して、夕璃乃から引き離した。
「そらおからの贈り物、楽しみだなぁ」
贈り物なんて大袈裟な……は!
もしかしたらシュヴィーネ達の装備を充実させることで、彼女達の気持ちを変えられるのではないか!?
「そうですね、私も楽しみです」
フォンも笑顔で言ってくれた。
よし、僅かながら光明が見えてきた。
モンスター姫のレベルは俺のレベルと同じだ。
なので現状、パーティー最弱の俺のレベルにモンスター姫も付き合わされている。
だから俺を亡き者にして、頼りになる別の冒険者を転移させよう、という考えに至ったのだろう。
俺がレベルを上げて強くなり、同時にモンスター姫も強くなる、というのが最善の策であることは間違いない。
たが、俺が自身のレベル上げを優先したとしたら、その分のしわ寄せが沙生那達に及んでしまう。
それはどうしても避けたい。
沙生那も夕璃乃も明日海も、アルスガルドでの冒険を楽しんでくれている。
別に俺が創った世界ではないのだから気にすることはない、と言われればそれまでだが。
陰キャボッチの俺が沙生那達と楽しく遊べているのは、冒険の書での探索を彼女達が楽しんでくれているからこそなのだ。
俺はそれを壊したくない。
そのためには、沙生那達が楽しみ続けてくれるように、俺がしなければならない。
となれば、戦闘やクエストでのサポートに加えて、モンスター姫達の装備の充実は必須であり、急務だ。
「お、なんだかやる気が出てきたみたいだな、そらお」
超絶間近でシュヴィーネが言うのが聞こえた。
そうだった、まだシュヴィーネに肩を組まれたままだった!
「ヤバい沙生那、私達も負けてられないよ!」
「そ、そうね、うん……!」
どうやら俺のアルスガルドでの運命を巡る攻防戦は、夕璃乃とシュヴィーネが両陣営の首魁となりつつあるようだ。
次は防具選びだ。たかが防具選び、されど防具選び。
俺は「気を抜くなよ!」と自らを戒めながら、防具屋に向かった。
俺の暗殺を企てる姫様三人組と、護衛役を自ら任ずるJK三人組とに挟まれるという、何とも言えない緊張感に包まれながら。




