第28話 どっちも心配?
「嶺渡君、聞きたいことがあるんだけど」
武器屋を出て隣の宿屋へと俺を引っ張っていきながら、沙生那が俺に言った。
「……はい、なんでしょう?」
沙生那に腕を引っ張られているので、彼女の表情は見えない。
だが声の感じからすると、真剣な話のようだ。
「うん、私もちょっと聞きたいかなぁ、陰キャ君に」
「私も……」
俺のすぐ後ろを歩いている夕璃乃と、明日海まで。
三人して俺に聞きたいこととはなんなのだろう?
沙生那は、今日転移してきた宿屋の部屋に俺を押し込むと、
「あなた達も入って」
と、夕璃乃と明日海に言った。
二人が入ると沙生那自身も部屋に入り、部屋の外に顔を出してキョロキョロと廊下を見回した。そして素早く扉を閉めてこちらを向いた。
「できればフォンさん達には聞かれないほうがいいから」
と言う沙生那に、
「やっぱ沙生那も同じこと考えてるんだねぇ」
「そうみたいだね……」
夕璃乃と明日海も訳知り顔で言った。
フォン達に聞かれないほうがいいこととはどういうことなのだ?
女子同士の秘密の話なのか?
「あの……そうしたら俺も外にいたほうが……」
そう言って俺は、沙生那が背にしている扉に近づいていった。
「何言ってるのよ。嶺渡君に聞きたいことがあるって言ったでしょ!」
「そうだよぉ、逃げようったってそうはいかないよ」
「私もちゃんと聞きたいな、嶺渡君に……」
沙生那、夕璃乃、明日海の三人は横に並んでじっと俺を見ている。
進退窮まったとはこのことか……
いやいや、俺は何も悪いことはしていないし!
別に逃げようとしているわけでもない。女子の話し合いの場なら、男の俺は席を外したほうがいいだろうと考えただけだ。
「この世界ってゲームみたいな異世界、なのよね?」
しばしの沈黙の後、沙生那が俺に訊いた。
「それは……そんな気もします……けど、俺にもよく分かりません」
沙生那の質問の意図が分からない。
「でも、モンスターを倒すとかって、もろゲームじゃん」
と、夕璃乃。
確かにここは、レトロなRPG風の異世界だなと俺も思う。
モンスターを倒して経験値を稼ぎレベルを上げる。
クエストが発生して、それに伴って新たな仲間が増える。
アルスガルドという地名も、いかにもRPG風だ。
たが、すべてがゲーム的なのかと聞かれると答えに困る。
「ファンタジーの世界、って言ってもいいかもだよね……」
と、明日海。確かにそうとも言える。
そもそもRPG自体、ファンタジーの世界を舞台にしているものが圧倒的に多い。
沙生那達はそういう話をしようというのか?
それならそれで大歓迎だ。ゲームや異世界ファンタジーの話は俺の大好物なのだから。
たが、三人の様子からすると、そんな楽しい話をしよう的な雰囲気ではない。
「もしゲームの世界だったとしたら、何か目標があるんじゃないかと思うの」
「そうそう、例えばさぁ、敵のボスを倒して囚われのお姫様を助けるとか、よくある設定っぽいじゃん」
「物語でもあるよね、そういうの」
確かに、よくある設定だ。
「私達、ダークスライムに囚われてたフォンさんを助けてあげたわよね」
「え、そうなの?」
「そうだったんだ……」
そう、俺と沙生那はダークスライムボスからフォンを助けた。
たが、夕璃乃と明日海が始めた時は既にフォンは救出された後だった。
なので、ダークスライムボスを倒すのがクエストの達成条件だった。
「オーク国でも、シュヴィーネさんを助けてダークオーク討伐をしたし」
「そうだねぇ」
「うんうん」
「今度のクエストもトロール同士の争いで困っていたミローネさんの手助けをしたものね」
「そうそう」
「困ってたもんね、ミローネ……」
これまでのクエストを振り返る沙生那達。次のクエストに向けてこれまでの出来事を整理しておこうというとしているのか?
情報の共有は大切だ。この先の対策を練るうえでもやっておいたほうがいい。
ということは、沙生那達には今後の対策についての提案があるのかもしれない。
「分かりました。このアルスガルドがゲーム的な世界だという前提で、この先の対策をしっかり練っていこうということですね」
うん、我ながらしっかりと言うことができた。
女子三人の視線を真正面から受けながら、ここまでできた自分を褒めてやりたい気分だ。
「そうなるの、かしら……」
「そうなの、かなぁ……」
「でも、ちょっと違うような……」
あれ、どういうことだ? 沙生那達の顔が曇っている。
俺は間違ったことを言ってしまったのか?
「それじゃ、具体的にどういう方針で進めるの、嶺渡君?」
「そうですね……まずは装備を新しくします。今日は武器を新しくしたので、明日は新しい防具を整えます。それと新しい【技】を検証して、戦術へどう反映させるかを検討して、それで……」
沙生那の問いに俺が答えていると、
「違うんだなぁ陰キャ君、ちっとも分かってないよぉ」
「そうだね、それはそれで大事だと思うけど……」
と、夕璃乃と明日海に異議を唱えられてしまった。
「私が気にしているのはフォンさん達のことよ」
沙生那はそう言って夕璃乃と明日海を見た。
二人とも沙生那に頷いて応えた。どうやら夕璃乃と明日海も沙生那と同じらしい。
「フォンさんもシュヴィーネさんも、嶺渡君にすごく感謝してるでしょう?」
「それも、普通じゃないくらいに、だよねぇ」
「私もそう思う……」
確かにそれは俺も感じていた。
クエストの達成は皆の力で成し遂げたのだ。にも関わらず、フォン達の感謝の対象が俺に偏っている。
いくら俺がパーティーの筆頭者だからといっても不自然だ。
やはり、沙生那達もそこを気にしていたということか。
「すみません、俺ばかりがフォンさん達に感謝されているようで……皆さんのほうが活躍してるのに……今度改めて話を……」
俺がそう言うと、
「はぁーーもうーー……!」
沙生那が呆れたように言うと、
「分かってないねぇ、陰キャ君はぁ」
「うんうん……」
と、夕璃乃と明日海も同じように呆れた様子だ。
「え……どういうこと、ですか……?」
俺は何か間違ったことを言ってしまったのか?
「フォンさんとシュヴィーネさんは嶺渡君を狙ってるのよ!」
「狙ってるぅ? 俺をですかぁ!?」
沙生那の指摘に思わず俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
まさか、そんなことが……
「そうそう、多分ミローネちゃんもね」
「うん、そうだね」
夕璃乃と明日海も同意見のようだ。
ミローネまでもが俺を狙っているとは……俺の背筋に冷たいものが走った。
俺は今まで、スライム国やオーク国のためにと思ってクエストを達成してきた。
トロール国のクエストもそうだ。まだ未達だが、これから作戦を練って準備万端整え、達成目指して臨もうとしていたところなのに。
まさか、俺が三人から命を狙われているとは……もしかしたら、そもそもがそれが目的だったのか?
散々楽しませておいて、佳境に入ったところでこの世界での命を奪う。
つまり、俺が二度とこのアルスガルドに来ることができないようにする。
その代わりに、また別の者を転移させる……
はっ! ということはもしや……
「あの、石蕗さんは大丈夫なんですか?」
「え、何がよ?」
「フォンさん達に狙われたりしてませんか!?」
俺は俄に心配になってきて、ほとんど叫ぶような声でに訊いてしまった。
「はぁ? 何言ってるのよっ!!」
沙生那から凄い剣幕で返されて、俺は思わず沙生那の腕を掴んでしまっていたことに気がついた。
「あ、ご、ごめんなさい、いきなり掴んじゃって!」
俺は慌てて沙生那の腕から手を離して謝った。
「そ、それは、別にいいわ」
いきなりのことで沙生那も動転してしまっているようだ。
陰キャの俺に腕を掴まれるなんてめちゃくちゃ嫌だったろう。本当に申し訳ないです!
「て、沙生那は心配ないじゃん」
「そうだよね」
夕璃乃と明日海がジト目になっている。
そうか! 沙生那はパーティー最強だ。俺よりもずっと強い。
そしてフォンやシュヴィーネは俺と同じレベルだ。確認はしてないがミローネも俺と同じだろう。
そうそう沙生那が後れを取ることはないはずだ。
ということは……
「紅藤さんも蕗さんも大丈夫、ということですね」
俺は、得心がいってスッキリした気持ちで言った。
「おかしな事言うんだねぇ、陰キャ君。てか、私のことは心配してくれないのぉ?」
夕璃乃はそう言うと、俺の肩に腕を回してきた。
「へへ、これからは私もこうしちゃおう、シュヴィーネちゃんみたいに」
「も、勿論、紅藤さんも心配です。蕗さんのことも……」
「なんか、取ってつけたようだねぇ」
夕璃乃のニヤニヤ顔がすぐ横にある。めちゃくちゃ近い!
「どさくさに紛れて何してるのよ、夕璃乃!」
沙生那が、夕璃乃の腕を掴んで引っ張っている。
「いいじゃん別にぃ。てか沙生那もすれば?」
「な、何言ってるのよ!」
俺を間にして夕璃乃と沙生那が賑やかに言い合いを始めた。
こういう時はどうすればいいのだ。誰か教えてくれぇ!
「心配してるのは私達なんだけどなぁ……」
少し離れたところで明日海が何か言っていたが、沙生那と夕璃乃の声に紛れて俺にはよく聞こえなかった。




