第27話 新しい武器を選ぶぞ!
「新しい装備が出てるわよ!」
「ほんとだ! 早速変えようよ」
境界の宿の武器屋の品揃えを見て、沙生那と夕璃乃が嬉しそうに言った。
この時点で新しい装備を整えられるのはありがたい。
この後に対決するダークトロールの強さがどの程度なのかは分からない。
とはいえ、当然のことながらこれまでで最強の敵であることは間違いない。
ところで、武器屋を覗く前に皆で冒険の書を確認したところ、新しい【技】が発現していた。
沙生那 Lv31【さんれんげき】
夕璃乃 Lv30【かぜのやいば】
明日海 Lv28【防御ダウン】
空央 Lv27 ……
そうなのだ。俺だけは新しい技が発現しなかった。レベルも明日海に追い越されたままである。
まあ、俺はパーティのサポート役、裏方と言ってもいい。
派手な技など不要! 地味でこそ本領が発揮できるというものだ。
「あれ、陰キャ君は新しい【技】出てないんだぁ、かわいそうーー」
かわいそうって言わないで、夕璃乃さん!
「あらあら」
「嶺渡君……」
沙生那さんも明日海さんも、そんな憐れむような目で俺を見ないでぇーー!
「まあ、いいじゃないか。危ない時はあたしが守ってやるからさ」
と、シュヴィーネが励ましてくれた。俺の肩に腕を回しながら。
励ましてもらえるのは素直に嬉しい。だが、シュヴィーネはオーク国のお姫様だ。
お姫様に守ってもらう男というのは、なんとも情けない。
「私だって回復魔法でそらお様をお守りしますわ」
と、フォンも俺の腕に縋ってきた。
そう言ってもらえるのは勿論嬉しい。だがフォンもお姫様だ。俺の頼りなさがどんどん増していってるような気がする。
「ミローネも一緒にそらおを守ろうぜ」
シュヴィーネがミローネにも声をかけた。
いやいや、このうえミローネまでなんて、情けないにも程がある。
だがミローネは違った。
「私はあすみを守りたいから……ごめんなさい、そらおさん」
いえいえ、とんでもないです、ミローネさん! 是非とも明日海さんを守ってあげてください!
ミローネは側にいた明日海の肩をそっと引き寄せている。
照れくさそうにしながらも、明日海も嬉しそうにミローネを見あげている。
この二人、出会って間もないとは思えない親密さだ。
「はぁ……そろそろ、装備を見てみない?」
俺とシュヴィーネ達を見ながら沙生那が言った。明らかに苛立った様子で。
「そうだよぉ、陰キャ君はリーダーなんだからさぁ、シャキッとしなよ、シャキッと」
夕璃乃も半ば呆れたような顔をしている。
そうだ、そのとおりだ。
俺はこのパーティ最弱になってしまった。お姫様たちから、守ってあげなければと思われる程に。
情けないことこの上ないが、それはそれとして、パーティを引っ張っていかなければならないことに変わりはない。
「はい、皆さんの役に立てるよう頑張ります!」
俺は、つい鼻息を荒くして言った。
「その意気だよ、そらお! やっぱあたしが選んだ男だけあるね」
「シュヴィーネさん、そらお様を先に選んだのは私ですからね」
勢い込んで言った俺のせいでもあるが、どうもシュヴィーネとフォンは俺に過剰な期待をしているようだ。
確かに現実世界から来た最初の冒険者は俺だ。
ゲーム的な世界観からすれば、俺がアルスガルドの危機を救う勇者、という設定もあり得る。というより、それが自然な流れだ。
所謂『選ばれし者』というわけだ。
だが、今の俺はパーティ最弱だ。パーティ最強は沙生那である。
そう考えればアルスガルドを救う勇者は沙生那であるべきだ。
「石蕗さん、俺、しっかりサポートしますから」
俺は拳を握りしめながら沙生那に言った。
「え、何言ってるのよ?」
眉をしかめる沙生那。
「まぁた、斜め上なこと言ってるねぇ、陰キャ君はぁ。ローキックしちゃうぞぉ?」
不穏な空気を醸し出す夕璃乃。
いやいや、それはやめて夕璃乃さん!ローキックはマジで痛いから!!
「すみませんすみません、変なこと言ってしまいました!」
どこがどう変だったのか、俺自身理解できていないかもしれない。だがこういう時は謝っておくに限る。
「ふう……まあいいわ」
「うん、そのうち話すこともあると思うけどぉ」
と、沙生那と夕璃乃。とりあえず危機は回避できたようだ。よかった……
とまあ、そんなこんなあって、俺達は装備を見に行った。
まずは新しい武器だ。
【はがねのつるぎ】
【はがねのたいけん】
【はがねのやり】
【まどうしのつえ】
【いやしのステッキ】
【とうしのグローブ】
【しのびがたな】
「私は【はがねのつるぎ】よね。【たいけん】てどういうのかしら?」
「【はがねのたいけん】は両手剣です」
沙生那の問いに武器屋さんが答えてくれた。
「ということは、結構重いのよね?」
「はい、攻撃力は高いですが、片手剣に比べて重いので、連続攻撃には向きません」
「じゃあ、私は【はがねのつるぎ】にするわ」
沙生那の新しい技は【さんれんげき】だ。単体の敵に対して素早く三連続攻撃をする技だ。
相手次第ではあるが、ここは速さを重視するのが正解だろう。
「私と明日海ちゃんは【まどうしのつえ】だねぇ」
「うん……」
【まどうしのつえ】は【まほうつかいのつえ】の上位互換武器だ。夕璃乃と明日海は迷う必要はない。
「あたし達もここの武器や防具を装備できるのかい?」
「はい、ここから先は装備できますよ」
シュヴィーネが訊くと店員さんが教えてくれた。
「でも、私達は『ぽいんと』というものを持ってませんけど……」
フォンが心配そうに言った。
「そう言えばそうだった」
「そうですね……」
シュヴィーネとミローネも表情を曇らせた。
「心配ありません。お姫様たちの分はそらおさんのポイントから自動的に差し引かれますから」
店員さんがとってもいい笑顔で伝えた。
ふむふむ、それなら心配ない……て、なんだってぇーーーー!?
そんな悪魔的な恐ろしいシステムを笑顔で言わないでえぇ!
「それでもいいかい、そらお……?」
さすがにシュヴィーネも申し訳なさそうな表情をしている。
「そらお様に負担をかけるわけには……」
「そうですね……」
フォンとミローネも同様だ。
「私達で分担はできないの?」
「はい、申し訳ありません。アルスガルドの人たちの分は全て筆頭者の負担と決まっているのです」
沙生那に店員さんが説明した。
まあ、姫様たちの装備が充実して強くなってくれれば、この後のクエストも有利に進められるのだ。先行投資と考えよう。
「ですけど、筆頭者だけに与えられる特典があるんです!」
店員さんがにっこりスマイルで俺に言った。
特典? 次回のお買い物は一割引っていうクーポンとかか?
あの手のクーポンて、一見お得なようで結局は余計なものを買うことになるから気をつけろって、母親がよく言ってるんだよなぁ……
「なんと、筆頭者にはポイント2倍デーがあるんです!」
わざとらしい明るさ全開の店員さん。
ここで俺が「ポイントが2倍になっちゃうんですかぁ!? めちゃくちゃお得じゃないですか!」と驚いて見せたら、もろに通販番組のノリだ。
「「「ポイント2倍デー!?」」」
だが、店員さんの言葉に反応したのは、沙生那と夕璃乃、明日海だった。
「はい。予約が必要ですけど、その日のポイントが2倍になります」
「すごいじゃない、嶺渡君!」
「そうだよぉ、絶対に申し込まなきゃだよ!」
「いいなぁ、ポイント2倍デー……」
どうやら、ポイント2倍デーは女子の琴線に触れたらしい。
「ですが、その代わりに経験値は半分になります」
ニコニコ笑顔のままで店員さんが付け加えた。
「「「「え……?」」」」
今度は女子三人に俺も加わった。
半分……てことは、通常経験値100の敵を倒した場合、ポイントが200で経験値が50ってことか?
損にはならない。100+100が50+200になるのだ。
損にはならないが、他のメンバーとのレベル差がますます開くことになるのは間違いない。
だが、いいではないか。その分皆が強くなればパーティ自体の戦闘力は上がるのだから。
「皆さんの装備も揃えましょう」
俺は三人の姫様に言った。
「ありがとう、そらお!」
「ありがとうございます、そらお様……!」
「どうもありがとう、そらおさん……!」
三人が口々に言いながら俺を取り囲んだ。
「この礼は、ちゃんと払うからな、身体で」
「そうですね、身体で返します」
「ええ、しっかりお礼します、身体で」
シュヴィーネとフォン、ミローネは真剣そのものといった顔をしている。
え……? 皆さん、今なんて……?
「あ、あの……その……えっと……」
俺はなんと返せばいいのか分からず、しどろもどろになってしまった。
「嶺渡君、あなたもしかして……」
「すっごく、やらしいこと考えてるでしょ?」
沙生那と夕璃乃は明らかに引いている。
「嶺渡君て、そういう人だったのね……」
明日海などは、両手で口を覆ってしまう始末だ。
姫様たちとは打って変わって、JK3人組は極寒の雪原のような冷たい目で俺を見ている。
いや、そんなこと言っても、身体でとか言われたら、そりゃあなた……
「なんだい、そらお、やらしいこと考えてたのかい?」
シュヴィーネが特段気にする様子もなく言った。
「そ、そそそんなこと、ななないでしゅ……!」
なぜ、噛む!
「身体を張ってそらお様をお守りするということですよ」
「そうです、私達がそらおさんの盾になります」
フォンとミローネが言った。
そうですよね! ほんのちょっと、本当にごくごく僅かでも桃色なことを考えてしまった自分が恥ずかしい!
「まあ、少しくらいなら考えてもいいけどさ、そういうことも」
シュヴィーネの意味深な発言が飛び出した。
「「「「え?」」」」
俺とJK三人組が揃って驚いた。
「シュヴィーネさん、抜け駆けはいけませんわ」
「そうですよ」
「なんのことかなぁ」
フォンとミローネの言葉に、とぼけた反応をするシュヴィーネ。
なんだか、きわめて想定外の方向に話が進んでしまいそうな気配に俺は怖気を振るった。
「そ、それじゃあ、武器を決めましょうか、ね?」
俺は不自然なくらい明るく言った。
こうして決まったのは以下の通りだ。
沙生那【はがねのつるぎ】
夕璃乃【まどうしのつえ】
明日海【まどうしのつえ】
フォン【いやしのステッキ】
シュヴィーネ【とうしのグローブ】
ミローネ【はがねのたいけん】
空央【しのびがたな】
やはりゲーム好きにとっては、新しい武器というのは心が躍るものだ。この先の冒険が楽しみになってくる。
とはいえ、武器を選ぶだけでも結構疲れてしまった。
「とりあえず、続きはまたにしましょうか」
「そうだねぇ、ちょっと頭を整理したい気もするしぃ」
「うん、そうだね……」
沙生那と夕璃乃、明日海が言った。
俺も賛成だ。そう思って沙生那達を見ると、俺に何か言いたげな様子が垣間見える。
俺、何もやらかしてないよね?
「さあ。帰るわよ」
沙生那がそう言って俺の腕を掴んだ。
俺の脳裏に「連行」という言葉が浮かんだ。




