第23話 ウチの女子メンは頼りになる
「今日は部族長は来てないのね」
次の日、境界の宿屋から出て周囲を見回した沙生那が言った。
「また、喧嘩を始めてしまうかもしれませんので……」
と、困ったような笑みを浮かべるミローネ。
件の部族の縄張りの境界には、等間隔に杭が立てられていた。
「以前はこれでよかったのですけど……」
境界杭を見ながらミローネが言った。
俺達は、とりあえず境界線に沿って見廻りをすることにした。
ミローネの話では、このあたりにもダークモンスターが出るようだ。
「黒銀オークと黒銀スライムが出るのです」
と、ミローネ。今のところダークトロールの目撃例はないらしい。
ところで、ミローネは戦闘に参加できるのだろうか? 体格を見ればかなりの戦力になりそうだが。
訊いてみると、
「私、攻撃は苦手ですけど、防御なら少しは……」
ということだ。
「【防御アップ】という技が使えます」
なんと、それは頼もしい!
俺たちのパーティには、沙生那、夕璃乃、シュヴィーネという、攻撃が得意なキャラが揃っている。
裏を返せば、攻撃に偏っていて防御が甘い、とも言える。
なので、どうしても治癒系のフォンに負担がかかってしまう。
かく言う俺が一番負担をかけているのだが……
そこに、ミローネという防御系のキャラが加わってくれれば心強いことこの上ない。さしずめタンクといったところか。
そんなことを思いながら俺はミローネを見た。
身長は190cm位、筋肉質で文句なしの立派な体格でいかにも強そうだ。
たが顔立ちは穏やかで話し方も静か。今も明日海と楽しそうに話をしている。
体格はともかく、こんな優しくて大人しい女性をタンクと呼ぶのは忍びない。
防御が強くて女性にも相応しい職業とはなんだろう?
しばらく考えて、
「聖騎士、かな」
思わず俺は声に出して言った。
「聖騎士? そらおさんは聖騎士なんですか?」
つい俺が口に出してしまった言葉にミローネが反応した。
「すごいです、聖騎士なんて……!」
どうやら聖騎士というのはミローネの憧れの職業のようだ。
「いえ、俺ではなくて……」
「なになに、陰キャ君、今度はミローネちゃんをたらしこもうとしてるわけぇ?」
「しかも聖騎士? 身分を偽るなんて詐欺師のやることよ」
俺に訂正する間も与えず夕璃乃と沙生那が畳み掛けてきた。
「嶺渡君て、そういう人だったの……?」
「そらお様……」
「油断も隙もないねぇ」
明日海とフォンの目が猜疑心でいっぱいになっている。シュヴィーネなどは指をポキポキ鳴らす始末だ。
ヤバい、この流れはお仕置きと回復の地獄のループだ。
「違います違います! 俺ではなくて防御が得意なミローネさんは聖騎士が相応しいと思ったんですっ!!」
俺は必死で言い訳をした。フォンに回復してもらえるとはいえ、沙生那達のお仕置きは、まじ痛いのだ。
「私が……? 聖騎士……?」
ミローネにとっては全くの想定外だったようだ。
虚を突かれたようだったミローネの顔が、ほんのりと赤らんできた。
そしてミローネは照れなが両頬に手を当てた。
「もう、そらおさんたらぁ、私が聖騎士なんて、恥ずかしいですっ……!」
そう言うと、ミローネは俺の背中を軽く引っ叩いた。そう軽くだ。ミローネ基準で。
「……!!」
声を上げる間もなく、俺は背中に激しい衝撃を感じた。
恐らくは5メートルはふっ飛ばされたであろう。
俺は頭から地面に突っ込んで、何回も転がって地面に突っ伏した。
「きゃぁああああーーーーそらおさん、ごめんなさいぃいーーーー」
攻撃は苦手とか、絶対嘘ですよね、ミローネさん……
俺は危うく気を失うところを、フォンの回復魔法で助けられた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
ミローネは回復した俺を軽々と抱き上げて、謝りながらハグした。
ただのハグではない。俺の背骨がミシミシ音を立てているように締め上げられている。
まさにベアハグだ。
「ぐぁああーーギブギブ!」
「もう許してあげて、ミローネさん」
「そうそう、もう十分反省してるみたいだしぃ」
許して? 反省? 俺何も悪いことしてないですよね!
「その技、後であたしにも教えてよ、ミローネ」
教わってどうするの、シュヴィーネさん?
「かわいそうな嶺渡君……」
「でも、仕方ないですわね」
明日海さんは優しいなぁ。
て、フォンさん、仕方ないとは?
すったもんだあった後、俺は改めてパーティの職業を整理してみた。
沙生那 剣士
夕璃乃 魔法使い(攻撃系)
明日海 魔法使い(補助系)
フォン 治癒士
シュヴィーネ 格闘家
ミローネ 聖騎士
空央 盗賊
ウチのパーティーも大所帯になったものだ。
ミローネは聖騎士特性を持っていそうだが、今のところは聖騎士見習いだろう。いずれは聖騎士用の装備を揃えたいところだ。
俺は役割的には斥候が近い。だがRPG的には盗賊のほうがカッコいい。なので盗賊ということにしておく。
別に誰かに見せるわけではないので、どうでもいいだろうとツッコミが入りそうだが。
変なところにこだわるのが陰キャというものだ。
見廻りをしながら、俺は【ていさつ】を使った。
そのたびに、黒銀オークと黒銀スライムのパーティーを発見した。
俺たちのパーティーに合わせて7体以上ばかりだ。時に10体のパーティーに出くわす事もあった。
早速、ミローネの【防御アップ】を俺にかけてもらった。
そうして、俺が先陣を切って敵を斬りつけていった。その時に、わざと敵の攻撃を受けてみた。
すると、ダメージの軽減をはっきりと感じることができた。攻撃を受けた時の疲労の度合いが明らかに小さいのだ。
「どうですか、そらおさん……?」
ミローネが自信なさそうに訊いてきた。
「バッチリですよ! とても頼りになる技だと思います」
特にボス戦では大きな武器になるだろう。今後が楽しみだ。
「よかった、そらおさんの役に立てて」
嬉しそうにそう言うと、ミローネは俺をハグしようとした。
「あの、さっきみたいに強烈なのは……」
俺は及び腰になってしまった。
「はい、大丈夫です」
にこやかに言うミローネ。
確かに今回は加減してくれた。それでもかなり締め付けられたが。
「なんだいなんだい、ミローネばかり贔屓してさ」
と、シュヴィーネ。なんだか拗ねているような言い方だ。
「どうせ私は【技】とか持ってないしさ、きっと、そらおのお荷物なんだろうよ……」
後半は尻すぼみになって、シュヴィーネは両手で顔を覆った。
え……?まさか、シュヴィーネさん……
「あーーあ、泣かしたぁ」
「ひどいじゃない、嶺渡君」
「もっと、優しく……」
「シュヴィーネさんの気持ちも考えて上げてください」
ええ? 俺、そんなに酷いことした?
てか、これはヤバい。所謂総スカンというやつだ。
どうすればいい?
とりあえず謝ることしか思いつかない。
「あの、シュヴィーネさん……俺に至らないところがあったとしたら謝ります。どうか泣かないでください。シュヴィーネさんは頼もしい大切な仲間です!」
俺は必死で謝った。
「本当……?」
これがシュヴィーネの声か、と思うほど小さな声だ。
「はい、本当です!」
「じゃあ……かけてもいい? 新しい技……」
「ええ、勿論で……え? 新しい……うぐっ!」
俺は最後まで言うことができなかった。前屈みにされ、首と腕を固められてしまったのだ。
「わはははーー! かかったな、そらお! これがあたしの新技、卍固めだぁーーーー!」
頭の上からシュヴィーネの勝ち誇った声がして、沙生那達の歓声も聞こえる。
「ギブギブギブギブ!」
まさかシュヴィーネが涙するなんてことがと思っていたが、やはり謀られた。
てか、俺っていじられキャラなのか?
まあとにかく、我がパーティーの女子メンバーの強さと頼もしさが確認できたのは収穫だ。
なんてことを思っていると、フォンが回復魔法をかけてくれた。そして、
「さあ、犯人探しにいきましょう」
と、笑顔で言ってくれた。
うん、やっぱりウチの女子メンバーは頼りになる。




