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冒険の書から始まる異世界探索〜最弱サポート役なのに、なぜか姫と美少女に溺愛されます  作者: 舞波風季


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第2話 石蕗沙生那

 前代未聞の出来事に俺の母親は絶句した。


 当然だろう。俺は生まれてこの方女子に全く縁がなかった。


 それがいきなり女子を自宅に連れてきたのだ。そのうえ、


「突然お邪魔をして申し訳ありません。嶺渡(ねわたし)君と同じクラスの石蕗(つわぶき)と申します」


 と、折り目正しい挨拶を見せられてしまったのだ。超絶美少女笑顔付きで。母親がのぼせ上がるのも無理はない。


「しばらく宿題とかやるから、部屋には入らないで」


 俺は沙生那(さきな)に興味津々(きょうみしんしん)な母親にそう言って、とっとと自室に沙生那を連れて行った。


「さあ、詳しく教えて」


 部屋に入るなり沙生那は俺に言った。


 教えると言っても大して教えることはない。


 俺は自分の【冒険の書】の1ページ目を開いて沙生那に見せた。


「このページの【はい】に……」

 と俺が言うと、


「私のにはそんなページは……」

 沙生那はそう言って自分の【冒険の書】を開いた。


「あら、いつの間にこんな文字が……透明の基盤か何かが印刷されてるのかしら?」


 沙生那はそう言いながら、開いたページをいろんな角度から検分した。


「『冒険を始めますか?』ねぇ。で、この【はい】を指で触(さわ)れば中身が読めるのね」


「いえ、そうではなくて……」


 と俺が言った時には既に沙生那は【はい】に指を触れていた。


 沙生那は光りに包まれ姿を消した。


 ヤバいと思って、俺は慌てて自分のページの【はい】に触れた。


 俺がアルスガルドの宿の部屋に着くと、


「なんなのよーーーー!」


 と、壁越しに沙生那の声が聞こえた。


「ここはどこ? 嶺渡くん、どこにいるの?」


 沙生那の声を聞きながら、俺は急いで部屋を出て、声が聞こえた方の部屋の扉を開けた。


「大丈夫ですか?」


 俺が声をかけると沙生那は駆け寄ってきた。


「ねえ、これってどういうこと? ここはどこ? なんで私こんな服着てるの」


 と、パニックを起こしたように俺に畳み掛けてきた。


「あ、あの、こ、これから説明します、ので……」


 沙生那の動転ぶりに、俺も釣られてしどろもどろになってしまった。


 そんな俺を見て、沙生那は逆に少し落ち着いたのかもしれない。


 ハッとした顔になり、


「いきなり、ドアを開けないでよね!」


 と、俺を突き放して言った。


「あ、ご、ごめんなさい!」


 俺は慌てて扉を閉めた。


 数秒すると、


「いいわよ、入っても」


 と沙生那の声が聞こえた。


「ねえ、これって一体どういうことなの!?」


 すべての責任は俺にあると言わんばかりの剣幕で沙生那が言った。


 しどろもどろになりながら、俺は自分が知っている限りのことを沙生那に話した。


「異世界転移ですって!?」


 高くて鋭い声で沙生那が言った。


「ひっ……!」


 俺の口から思わず変な声が出てしまった。


 とりあえずは論より証拠。俺は沙生那をダークスライム退治に連れて行くことにした。


「新しいお仲間ですね。行ってらっしゃいませ」


 受付のお姉さんがにこやかに送り出してくれた。


「で、そのダークスライムっていうのはどこにいるの?」

「村の外にいます」


 などと話しながら村の外に出ると、早速灰色のダークスライムに遭遇した。


「ひ……!」


 ダークスライムを見た沙生那が怯んで小さな声を上げた。


「大丈夫です、【ひのきのぼう】で二、三回叩けば倒せます」

「わ、分かってるわよ!」


 沙生那はものに動じないタイプだと思っていたので、この反応は意外だった。


 だが、沙生那は運動神経も抜群のようだ。数回戦うとあっさりとコツを掴んだ。


「ふん、案外簡単なのね」


 ドヤ顔の沙生那に、ダメージには気をつけてくださいと注意した。


「攻撃を受けなければいいんでしょ。楽勝よ」


 そんなこと言って、始めた頃の俺と同じ目に遭わなければいいのだが……


 そして案の定沙生那は、


「はあ、はあ、はあ……な、なんでこんなに疲れるのよ」


 となった。


 沙生那が戦闘不能になってしまう前に、俺は彼女を宿へ連れ帰った。


「疲れた時ってどうすればいいのよ……これに何か、書いてあるんじゃないの……?」


 沙生那は、ドカッとベッドに腰掛けて冒険の書を取り出した。


 そういえば回復はどうするのかと思って、俺も【冒険の書】を見てみた。


『冒険者の宿で仮眠すると体力が回復します。道具屋で売っているポーションを飲んでも回復します』


(そうか、道具屋か!)


「あの、石蕗(つわぶき)さん、道具屋に行ってみませんか?」


「道具屋に……?」 


 沙生那はハァハァ言いながら冒険の書を見ている。


「はい、体力回復には宿屋での仮眠と道具屋のポーションが効くそうなので」

「ほんとね、そう書いてあるわ……」


 そう言って沙生那はゆっくりと立ち上がった。


 この【冒険の書】、冒険の進み具合に応じて情報が小出しにされるようだ。


 受付のお姉さんに聞いて隣の道具屋に沙生那と二人で行った。


 売っていたのは、【かいふくポーション】【どくけしポーション】の二つだった。


「これだけ?」


 不満そうな沙生那。そのことに関しては俺も同意見だ。


「冒険の進み具合で品数は増えますよ」


 道具屋の店員さんが教えてくれた。


 今のところ毒攻撃を受けたことはない。だがすでに道具屋で買えるということは、遠からず必要になるのだろう。


 とりあえず回復と毒消しの両方をポイントで買っておくことにした。


「とりあえず今日はここまでにしておくわ」

 と沙生那。


 俺は戻り方を教えて、明日からは別々に冒険しましょうと沙生那に言おうとした。

 そうしたら、


「明日もよろしくね」


 と先に沙生那に言われてしまった。


「べつべ……え?」

 俺は言葉に詰まった。


「なによ。まさか私を一人で放り出すつもりだったの?」

 途端に険しい顔になる沙生那。


「い、いえ、そんなことは……」

 俺は俺で、一人でクエストを進めたいとは言えなくなってしまった。


 元の世界の俺の部屋に戻ると、

「ねえ、連絡先交換しない?」

 と沙生那が言った。


「ええ!?」

 俺は心底驚いて声を上げた。


「なによ! 嫌なの?」

 またしても沙生那に怒られてしまった。


「ご、ごめんなさい! そうではなくて、いいんですか? 俺なんかと……」


 俺が嫌なわけはない。彼女のほうが嫌だろうと思ったのだ。


「連絡先を交換しておけば向こうで落ち合えるでしょ……そのほうが私も安心だし……」


 後半は何を言ったのかよく聞こえなかったが、ここは沙生那の言うとおりにしたほうが良さそうだ。


 ということで、俺は沙生那と連絡先の交換をした。


 そして、沙生那のことが気になって仕方ない母親を遠ざけながら、沙生那を玄関先で見送った。


「冒険に行くときは連絡するのよ。私も行くときには連絡するわ」


 いつの間にか沙生那に主導権を握られた格好になっている。


「またね」


 そう言って沙生那は歩き出した。だが数歩歩(ある)いてから振り返り俺を見た。


 そして、心持ちうつむき加減になって、


「今日はありがとう」


 と小さく言った。


「い、いいえ」


 俺がそう返した時は既に沙生那は前を向いて歩き出していた――――



◇  ◇  ◇



 次の日学校から帰ってくると、早速沙生那からショートメールが来た。


 沙生那> 三十分後に宿屋に集合!


 すっかりパーティーリーダー気取りだ。まあ、それはそれで、却(かえ)って俺も気楽でいいのだが。


 宿屋の廊下で落ち合うと沙生那が、

「嶺渡(ねわたし)くんは今レベルいくつ?」

 と聞いてきた。

「レベル12です」

「私はまだレベル4よ。クエストだって『ダークスライムを倒してレベルを上げましょう!』なんだから!」


 何だか沙生那は怒っている。俺のせいじゃないのに。


「それじゃ、行きましょう」


 沙生那は俺の意向など聞かずに、さっさと宿を出て狩場に向かった。


「慣れればなんてことないわよね」


 ドヤ顔で言う沙生那。すっかり戦闘にも慣れたようだ。


「あなたに追いつくのも時間の問題ね」

「そう、ですね……」


 最初は怖がっていたのに、という言葉は飲み込んでおいた。


 その後も移動しながら、二人でダークスライムを狩り続けた。


「あ、クエストが変わったわ」


 レベル確認をしようと【冒険の書】を見て沙生那が言った。


「ほら、見て『スライムのお姫様を助けよう!』って出てきたわ!」


 沙生那はそう言って、俺に近づいて彼女の【冒険の書】を見せた。


 その拍子に沙生那の肩が俺の肩に触れる。


 俺はドキッとしてしまったが、沙生那は全く気にしていない様子だ。


 沙生那は普段は俺に対しては上から目線だ。塩対応と言ってもいい。


 だが、こんなことがあると、もしかしたら仲良くなってもらえるかもしれない、などと思ってしまいそうになる。


 だが油断は禁物だ。俺なんかが勘違いして馴れ馴れしくしたりしたら、どんな災難が降りかかることか。


 とにかく沙生那の機嫌が悪くならいように、細心の注意を払わなければならない。


「それじゃ、スライム国に行くわよ!」


 と、やる気満々上機嫌の沙生那を見ながら、俺はそう心に刻み込んだ。




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