第15話 感謝の形
「修理代はレベルアップ毎に、そらおさんのポイントから天引きさせていただきますね」
受付のお姉さんからにこやかに通告された。支払いは分割にしてもらえるとのことだ。
このパーティーの名目上の筆頭者は俺だ。なので請求は全て俺に回されるのだそうだ。
「ごめんね、嶺渡君」
「すまん、そらお」
「陰キャ君、ごめーーん」
「すみません、そらお様」
四人が申し訳無さそうに謝ってくれた。
だが今回のことは、無茶をしてHP切れを起こした俺を皆が心配してくれた結果だ。却って謝らなければならないのは俺の方だ。
「あんたのおかげでボスを倒せたよ。ありがとう、そらお」
そう言いながら、シュヴィーネが俺を抱きしめた。
「それと、あたしのことを守ってくれたね」
そう言うシュヴィーネの声は、いつもとは違う柔らかい声だった。
そこまで感謝されるとドギマギしてしまう。
シュヴィーネからほのかに香る甘い香りも相まって、俺は顔が火照ってくるのが自分でも分かった。
すると、
「私だって陰キャ君に守ってもらったしぃ! 私も感謝のハグするんだからどいてよぉ!」
そう言って夕璃乃は、俺とシュヴィーネの間に無理やり腕を差し込んで、後ろから俺を抱きしめた。
「ありがとねぇ、陰キャ君。私さぁ魔法が効かなかった時ね、ちょっとだけ恐かったんだぁ」
夕璃乃の声が背中に感じられた。恐らく夕璃乃は俺の背に顔を当てているのだろう。
今回のダークオークボス討伐、自分的にはもっと上手くできたのではという思いがある。正直、やっちまったという感が強い。
そんな中、沙生那は前衛として切り込み隊長的な活躍をしてくれた。俺が考える一番の功労者は沙生那だ。
フォンも、俺は勿論、他のメンバーにもこまめに回復魔法をかけてくれた。
なので、俺がここまで感謝されると申し訳ない気持ちになる。
「そろそろ離れてもいいんじゃない?」
「そうです、そらお様から離れてください」
沙生那とフォンがシュヴィーネと夕璃乃を引っ張りながら言った。その声には苛立ちが感じられる。
「ええーー? せっかくだからさぁ、沙生那もハグすればいいじゃん」
「うむ、四人で抱きつくのもいいかもしれないな」
などと夕璃乃とシュヴィーネが言い出した。
「私はいいわよ別に」
と断る沙生那とは反対に、
「なら、私も」
とフォンはシュヴィーネと夕璃乃に加わって俺に抱きついてきた。
「私はそらお様と冒険ができることに感謝しています」
それこそ俺の方が感謝したいくらいだ。
でもこのままだと、また沙生那に怒られてしまうのではないだろうか? そんなことが頭をよぎり、俺は沙生那を見た。
沙生那は三人に抱きつかれている俺をじっと見ていた。やはり怒っているのか?
それも当然だろう。一番の貢献者である沙生那を差し置いて、無様にHP切れを起こした俺が感謝されているのだから。
だが沙生那は、声を荒げる様子もなく、
「さあ、もういいでしょ? 今日はそろそろ終わりにしましょう」
と、言った。
よかった。沙生那は怒ってはいないようだ。
沙生那の言葉に、ぶつぶつ言いながらも夕璃乃達は俺から離れた。
沙生那は俺に近づくと、
「嶺渡君、冒険の書を出して」
と言った。
なんで俺の冒険の書を? と思ったが、とりあえず言われたとおりに俺は自分の冒険の書を出した。
沙生那は俺が手にしている冒険の書の表紙をめくって、『冒険を終わりますか?』のページを開いた。
自然、俺と沙生那の手と手、腕と腕が触れ合うこととなる。
そして沙生那は、
「今日はお疲れさま、嶺渡君。一緒に帰ろ」
と言って沙生那は【はい】に指を触れた。
「「「ああっ!」」」
夕璃乃とシュヴィーネ、フォンが驚きの声を聞きながら、俺と沙生那は光に包まれた――――
「やった! 上手くいったわ!」
沙生那にしては珍しくはしゃいだ声で言った。
沙生那は、俺と沙生那が触れ合った状態で俺の冒険の書を起動した。
なので俺と沙生那は一緒に転移した。俺の出発地点である俺の部屋に。
「なんだかドキドキしたね」
そう笑顔で言う沙生那は、心持ち頬が赤く上気している。
「は、はい……」
俺はそう答えるのが精一杯だった。
以前、夕璃乃と同じ状況になったことはある。
といってもあの時は、偶然の事故みたいなものだった。
だが、今回は……
そこに、スマホの呼び出し音が鳴った。机の上に置いてある俺のスマホだ。
俺が手に取って見ると夕璃乃からだった。俺達が転移した後ですぐに夕璃乃も転位したのだろう。
タップしてスマホを耳に近づけたところで、
『陰キャ君、沙生那いるっ!? いるでしょ!!』
夕璃乃のけたたましい声が聞こえてきた。スピーカーにしてないにも関わらずだ。
沙生那を見ると、俺が見たことのないニヤニヤ顔をしていた。
「後で夕璃乃の家に行くからって言っておいて」
沙生那はさらっと言った。
いやいや、ここは直接話してほしいんだけど! と思ったが、沙生那にはその気がないらしい。
「えっと、その……」
『何? いいから早く沙生那に代わってっ!』
夕璃乃の凄まじい剣幕にオロオロしながらも、俺は必死に説得を試みた。
そして、なんとか夕璃乃を説得して通話を終わることができた。
「はぁ……」
俺がため息をつくと、
「あ……」
沙生那が小さな声をあげた。
「私、靴がないかも……」
言われてみればそうだ。今日沙生那は彼女の自宅で冒険の書を起動して転移した。
なのに俺の部屋に帰ってきたのだから、靴はここにあるはずがない。
いや、もしかしたら、靴もこっちに転移してるかも……
俺は沙生那に部屋で待っていてもらい、玄関を見に行った。
だがやはり沙生那の靴はなかった。
どうする……俺はしばし考えた。
そこに母親がリビングから出てきた。
ヤバい、何か言い訳を考えないと!
その時俺に救いの神が降りてきた。
「えっとさっき石蕗さんが来たんだけど靴の底が取れちゃったからサンダル貸してあげてもいいかな?」
俺は猛烈な早口でまくし立てた。
母親はキョトンとして聞いていたが、沙生那が困っているということは理解してくれたようだ。
母親は二つ返事でスニーカーやらサンダルやらを出してくれた。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。ありがとうございます」
二階から降りてきた沙生那が俺の母親に丁寧に礼を言った。沙生那は手にカムフラージュ用のバッグを提げている。
沙生那の役に立てるのが嬉しいらしく、母親は終始ニコニコしていた。
俺は門の外まで沙生那を送った。
「今日はありがとう。また連絡するわね」
「はい」
俺は、沙生那が曲がり角を曲がるまで見送った。
角を曲がるとき、沙生那はこちらを見て小さく手を振ってくれた。
俺も小さく手を振った。ちょっとだけ照れくさかった。




