第14話 ダークオークボスとの戦い
「なぎはらいっ!」
「風よ吹き荒れろ!」
沙生那と夕璃乃がダークオークの群れに全体攻撃を放つ。
事前の準備のおかげか、俺達はダークオークの本拠地エリアに入ってからも順調に進むことができた。
沙生那と夕璃乃の全体攻撃と、俺とシュヴィーネの連続単体攻撃との合わせ技は功を奏していると言っていい。
「もうそろそろダークオークボスのアジトだと思う」
シュヴィーネが心持ち緊張した様子で教えてくれた。
ボスのアジトはどのような場所なのだろう? オーク国の城のような大きいログハウスなのだろうか?
「あたしも近づいて見たことはないんだけどね。岩山をくり抜いた大きな穴みたいなところだよ」
とシュヴィーネが教えてくれた。
八体のダークオークの群れを倒し尚も進んでいくと、やがて俺達は森の木を切って開かれた空地に出た。
空地は高い岩山を背にしていた。岩山にはシュヴィーネの話のとおり、大きな穴が穿たれている。
元々洞穴だったところを削って左右に広げた、というように俺には見えた。
空地には十体ほどのダークオークが待ち構えていた。手には棍棒を持っている。
全て真っ黒の個体だ。最強クラスのダークオーク十体と戦わなければならないということになる。
その黒のダークオーク達の後方に、一体のダークオークが見える。他の個体よりも一回り身体が大きい。
そいつは平らな岩の上に胡座をかいて座っている。
「あいつがボスね」
「他のより大きいねぇ」
沙生那と夕璃乃の声には緊張が感じられる。
「とりあえず、雑魚どもを片付けなきゃだな!」
シュヴィーネが威勢よく言った。
今の俺達の実力なら連携を活かしてMPを温存しつつ、手前に群れているダークオークを倒せるはずだ。
「それじゃ、頼むよ、さきな!!」
「任せて!」
シュヴィーネの合図に沙生那が先陣を切って空地に飛び込んだ。
俺とシュヴィーネも左右に別れて、沙生那のすぐ後に飛び込んだ。
「なぎはらいっ!」
沙生那が全体攻撃を放った。
前方にいた五体のダークオークに沙生那の剣の波動が命中した。
敵は上位の黒いダークオーク、やはり一撃では倒れない。だが、これは想定内だ。
「はぁっ!」
シュヴィーネが右側の敵に鋲付きグラブの拳を叩き込む。
それを横目で見ながら、俺は左側の敵に【しのびのたんとう】で斬りつけた。
一撃では倒せなかった敵の反撃を躱して、俺は二体目、三体目に斬りつけていった。
シュヴィーネを見ると一体目を倒し二体目に拳を打ち込んでいる。
俺が斬った三体のうち一体は【しのびのたんとう】の麻痺が発動したようだ。
俺は残りの二体に斬りかかった。一体を麻痺させることができたが、棍棒の攻撃を避け損なってしまった。
左腕を打たれながらも、俺は残りの敵に斬りつけてトドメを刺した。
「風よ吹き荒れろ!」
夕璃乃が次の群れに全体攻撃魔法を放った。
「大丈夫かい、そらお?」
シュヴィーネが横目で俺に笑みを飛ばしながら言った。
その時は既にシュヴィーネは、俺が麻痺させた敵を倒し、次の敵に攻撃を仕掛ていた。
さすがはシュヴィーネ、などと感心している場合ではない。
俺は次の敵に向かい、さっきと同様に三体に斬りつけた。そして、棍棒の打撃を受けながらも二体を麻痺させることができた。
俺の息が荒くなってきた。ダメージが蓄積している証拠だ。
踏ん張りながら残り一体に斬りつけ、何とか倒すことができた。
俺が膝に手を当てて息を整えていると、誰かの手が背中に当てられた。
「そらお様、しっかり」
後ろからフォンの声が聞こえた。同時に体全体の疲労が回復していった。
「ぐぉおおーーーー!」
空地に野太い怒声が響いた。
洞穴の岩に座っていたダークオークのボスが立ち上がって吠えている。
「ボスのお出ましだな」
シュヴィーネがニヤリと笑みを浮かべながら言った。だがその表情には緊張がありありと浮かんでいた。
「ここは魔法全開でいいんだよね?」
「技も連発でいくわよ」
夕璃乃と沙生那もやる気満々だ。だが二人の表情にも緊張が伺える。
みんな固くなってる。ここは俺が先陣を切るべきか?
フォンに回復してもらったからスタミナは十分だ。俺が先行してボスの注意を引きつけるのが最良の戦術だろう。
「よくもやってくれたなぁーー」
太く、くぐもった声で叫びながらボスは手にした巨大な棍棒を一振りした。
すると砂ぼこりが津波のように俺達に迫ってきた。
「うわっ!」
俺の少し斜め前にいたシュヴィーネの声が聞こえた。横目で見ると、彼女はガードの姿勢のまま後ろに吹き飛ばされた。
その直後、俺も同じように吹き飛ばされて転がった。
すぐに立ち上がって周りを見ると、夕璃乃だけはしっかりと立っている。
「けほけほっ、何よ今の砂は。目潰し?」
腕で顔を庇っていた夕璃乃が言った。なぜ夕璃乃だけがふっ飛ばされてないんだ?
「なんで夕璃乃は平気なの?」
吹き飛ばされて転がっていた沙生那が起き上がりながら言った。
「ん? なんでかなぁ」
不思議そうに俺たちを見る夕璃乃。
魔法使いの夕璃乃だけがダメージ無し、ということは今のは魔法攻撃なのか?
などとやっているうちに、ボスが次の攻撃をしようと構えていた。このままだと同じ攻撃を受けてしまう。
検証は後だ。次の攻撃を撃たせてはいけない。
「石蕗さん、紅藤さん、技と魔法で攻撃してください!」
俺はそう叫んでボスに突貫した。
一瞬、攻撃力を取るか麻痺を取るか迷ったが、俺は【しのびのたんとう】を手にして【とうぞくとたんけん】を腰に差した。
すぐ後ろにシュヴィーネが地を蹴る音が聴こきながら俺は、まさに今攻撃をしようとしているボスの懐に飛び込んだ。
「はやぶさぎり!」
俺は一撃目から技を放った。
ダダンッ!
二連攻撃なら確実に確率五十%の麻痺が効くか? 一瞬考えたが結果としてボスは麻痺はしなかった。
だが、ボスの注意を引くことはできた。ボスは俺に向かって棍棒を振り下ろした。
俺は咄嗟に避けたが避けきれずに左肩に薄く攻撃を受けてしまった。
勿論、痛みはない。だが、そこそこ疲労を感じるレベルのダメージだ。
これを他のメンバーに食らわせてはいけない。
「せいっ!」
シュヴィーネがボスに拳を打ち込んだ。俺に向いていたボスの注意がシュヴィーネに向かう。
シュヴィーネの一撃はかなり効いていそうだ。だがその分シュヴィーネはボスの懐に深く踏み込んでいた。
「がぁーー!」
ボスは棍棒を持っていない左腕でシュヴィーネを横殴りしようとした。
俺はシュヴィーネとボスの狭い間合いに飛び込んだ。そしてボスの横殴り攻撃を背中で受けた。
俺とシュヴィーネは一緒にそのまま数メートルふっ飛ばされた。
「そらお様!」
フォンが叫んで駆け寄ってこようとした。いや、ここは来ては駄目だ。フォンが攻撃されたら耐えきれないかもしれない。
俺は来ないようにと、フォンに手で合図した。
「風よ、貫け!」
俺のフォンへの合図とほぼ同時に、夕璃乃が単体攻撃魔法を放った。そして俺に追い打ちをかけようとしていたボスを後ずらせた。
「こんしんげき!」
続けて沙生那が踏み込んで技を放った。この攻撃もボスを後ずらせたが、倒すところまではいかない。
ボスに全体攻撃を撃たせてはならない。何とかして俺に注意を引きつける必要がある。
俺は二回攻撃を受けた。結構な疲労感だ。だがここで攻撃の手を緩めてはいけない。
俺は立ち上がった。そして、ふと思いついて、予備として腰に差したいた【とうぞくのたんけん】を抜いた。
思いつきの二刀流がどこまで効くか。ぶっつけ本番ではあるが、やってみる価値はある。
ボスは夕璃乃に向かって突進を始めた。全体攻撃が効かなかった彼女を、一番の難敵と見なしたのだろう。
「風よ、ぶっ飛ばせ!」
夕璃乃が単体攻撃魔法を放った。今のところ夕璃乃の最強の魔法だ。
ボスは立ち止まって防御の姿勢を取った。夕璃乃の魔法は見事命中したが、ボスの突進を一時的に止めただけだった。
「効かぬなぁ」
黒い豚の顔に不気味な笑みを浮かべるボス。そしてボスは再び夕璃乃に向かって突進を始めた。
「えっ……」
夕璃乃はその場で立ち竦んでしまった。彼女からすれば今の一撃で倒せると思ったのだろう。そこに一瞬の隙ができた。
ここでボスを止めなければ夕璃乃が真正面から攻撃を受けてしまう。
俺は疲労感を抑えつけて猛ダッシュをかけた。そして、ボスと夕璃乃の間合いに飛び込んだ。
「はやぶさぎり!」
右手に持った【しのびのたんとう】で斬りつけた。
続けて、
「はやぶさぎり……!」
左手の【とうぞくのたんけん】で斬りつけた。
夕璃乃に向いていたボスの注意が俺に注がれた。
目的は果たせた。だが技の二連撃は初めてのことだ。
二撃目を撃った後、俺は体勢を崩してしまっていた。
そこに、
「ふんっ!」
と、ボスが棍棒で俺に打ちかかってきた。
俺は避けることも防御することもできず、左半身に強打を受けてしまった。
「嶺渡君!」
「陰キャ君!」
「そらお様!」
「そらお!」
数メートルふっ飛ばされて転がった俺の耳に、皆の呼ぶ声が聞こえた。
俺は何とか上半身を起こした。痛みは感じないものの、疲労感は半端ないものになっていた。
「こんしんげき!」
「風よぶっ飛ばせ!」
沙生那と夕璃乃が技を撃つ。攻撃を受けたボスは片膝を付いた。あと一息だ。
俺はぼうっとした頭で、沙生那達の戦いを見ていた。
「っしゃああーーーー!」
シュヴィーネが叫びながらボスに殴りかかった。
一撃、二撃、まだボスは倒れない。
「とどめだぁああーーーー!」
シュヴィーネの回し蹴りがボスの頭に炸裂した。
「ぐぉ…………」
低い唸り声を上げて、ダークオークのボスはうつ伏せに倒れた。
そして黒い霧となって消えていった。
やっと倒せた……そう思った瞬間、俺の身体から一気に力が抜けた。
強烈な眠気が俺を襲った。HPが尽きかけてる証拠だ。
「そらお様ぁーー!」
フォンの声が聴こえる。フォンに回復してもらおう。
そうだ、回復ポーションを飲めば――
――――――――
目が覚めるとそこは宿屋の部屋だった。
どうやら俺は、ボスの攻撃を受けてHPが尽きてしまったようだ。
「やっちまったなぁ……」
ベッドから起き上がって冒険の書を見ると、レベルは25になっていた。
ダークオークボスを倒す前に二つレベルが上がっていたようだ。
ボス戦の分の経験値が入っていたら、あと二つくらい上がっていたかもしれない。
そう思うと惜しいが、仕方がない。
すると、外の廊下を走る足音が聴こえてきた。
そして、バタン! と勢いよくドアが開かれた。
「嶺渡君!」
「そらお!」
沙生那とシュヴィーネが同時に現れた。そして狭い入口から、二人同時に部屋に入ろうとした。
「ちょっと、あなたどきなさいよ!」
「お前こそ、そこをあけろ!」
沙生那とシュヴィーネが揉み合っていると、
「陰キャ君!」
「そらお様!」
夕璃乃とフォンも入口の取り合いに加わった。
四人は賑やかに騒ぎながら部屋に入ろうとしている。
だが、この宿屋は見た通りの安普請だったようだ。
一枚板の部屋の壁は、レベル25前後の四人の冒険者の重圧に耐えることはできなかった。
バキッバキッ!
凄まじい音を立てて、板壁は壊れてしまった。
「はぁ……」
思わずため息が出た俺の頭に浮かんだのは「修理代はいくらだろう」だった。




