第12話 連携プレイ
「【まほうつかいのつえ】だって。私これにするぅ」
俺達はオーク国の城の中の武器屋にいる。
先ほど、夕璃乃のクエストに従ってダークオーク討伐依頼を受けたところだ。
「【まほうつかいのつえ】『魔法の威力が上昇します』だって」
冒険の書の説明書きを読み上げる夕璃乃。
「【まほうつかいのローブ】っていうのもあるわよ」
品揃えを見ながら沙生那が言った。
「どれどれ……【まほうつかいのローブ】『MP消費が少なくなります。魔法防御力が上昇します』」
MP消費が少なくなるのはありがたい。それだけ撃てる回数が増える。
MP消費については、昨日冒険を終える前に調べてみた。
俺の【はやぶさぎり】や沙生那の【こんしんげき】もMPを消費する。勿論、夕璃乃の【かぜまほう】もだ。
そこで気になったのが、【かぜまほう】には唱える言葉によってバリエーションがあることだ。
『届け』『貫け』『ぶっ飛ばせ』では威力が違っていた。
なので、それぞれのMP消費を見てみると、やはり威力が強いほどMP消費が多いことが分かった。
【はやぶさぎり】と【こんしんげき】は今のところ攻撃パターンは一つしかない。なのでMP消費も均一だ。
「なるほどねぇ。これからはMPに気をつけなきゃだね」
と、夕璃乃。
念の為、俺と沙生那の装備も新しくできるか見てみた。だが、今のところ新しい装備は現れていなかった。
道具屋にも立ち寄ったが、ここでも新たなアイテムは現れてはいなかった。
「それじゃ、ダークオーク討伐に行くわよ!」
実質的リーダーの沙生那の合図で、俺達はダークオーク討伐へと向かった。
◇ ◇ ◇
「ここから先がダークオークの縄張りだよ」
オーク国の森を進んで、小さな渓谷に辿り着いた時にシュヴィーネが言った。
「気を引き締めていきましょう」
そう言って沙生那は細い流れを跳び越えた。
境界の渓谷を渡って進むうちに、森の木々の間にダークオークが見え隠れするようになってきた。
「やつらは敵を見つけると、集まってくるんだ」
シュヴィーネは周囲に目を配りながら言った。
「こんな森の中だと戦いにくいわね」
そう言いながら沙生那も周囲に目を配っている。
オーク国は森の国だ。そこはスライム国と同じである。
スライム国は所々に湖や泉などの開けた場所がある。
一方オーク国の森には開けた場所はほとんどない。中小の渓谷がある程度だ。
多少なりとも開けた場所があればと思い、俺はシュヴィーネに聞いてみた。
「……この先に、ちょっと広めの渓谷があったな」
シュヴィーネが記憶をたどりながら言った。
だとすれば、敵をその渓谷におびき出せれば戦いやすい。
沙生那達は先に渓谷で待ち構える。俺は敵を引きつけつつ渓谷に入る。
待ち構えていれば、発動に時間がかかる沙生那の【こんしんげき】もすぐに撃てる。
夕璃乃の【かぜまほう】なら離れたところからでも攻撃できる。後方支援にうってつけだ。
俺はその考えを皆に話した。
「いい考えじゃないか、そらお!」
そう言ってシュヴィーネが俺の肩を引っ叩いた。痛いんですけど、シュヴィーネさん。
「でも、そらお一人で奴らをおびき出すってのは反対だ。あたしもそっちをやるよ」
だが、そうすると沙生那達が手薄になってしまう。
「ああ、私達を信頼してないなぁ、陰キャ君」
そう言って夕璃乃は、頬を膨らませた。
「そうよ。そもそも私は嶺渡君とレベル同じなんだからね。夕璃乃はともかく」
「あぁ、沙生那、ひっどぉい」
夕璃乃が沙生那にもふくれて見せた。
ということで、俺とシュヴィーネが敵を引き付ける役になった。
「それじゃ、頼んだわよ、嶺渡君、シュヴィーネさん!」
そう言って沙生那は、シュヴィーネが教えてくれた渓谷に向かって走り出した。夕璃乃も続いて走り出した。
「さあ、私達も行くよ!」
シュヴィーネが活を入れるように俺の方を引っ叩いた。
だから痛いんですってば、シュヴィーネさん!
俺とシュヴィーネは木々の間をすり抜けながら、ダークオークに一撃を食らわせていった。
俺は【とうぞくのたんけん】で。一方シュヴィーネは鋲付きグラブを嵌めた拳を叩き込んでいる。
これは先のダークスライム戦で使った作戦だ。先に俺たちがダメージを与えておけば、後の沙生那達が敵を一撃で倒せる確率が高くなる。
それに俺達は敵を引き付けるのが役割だ。この時点で無理して倒そうとする必要はない。
シュヴィーネは自ら引き付け役を買って出るだけあって、走るのも身のこなしも速かった。
速さにはそこそこ自信があった俺も、敵に手こずっていると引き離されてしまいそうだ。
やがて俺とシュヴィーネは目標の渓谷に入った。
そこは、オーク国に入ってから見てきたどの渓谷よりも広かった。
川の流れ自体はさほどでもない。だがこちら側の河原の幅は三〜五メートルほどある。対岸は高い岩場だ。
「お待たせっ!」
河原に飛び込むなりシュヴィーネが叫んだ。
待ってましたとばかりに、
「風よ、貫け!」
と川を背にした夕璃乃が【かぜまほう】を放った。シュヴィーネのすぐ後ろに迫っていたダークオークが吹き飛ばされ、黒い霧になった。
俺はシュヴィーネから横に三メートルほど離れて河原に突入した。
そこには沙生那が待ち構えていた。
「【こんしんげき】!」
沙生那が技を発動させて剣を振るった。
沙生那の【こんしんげき】を喰らったダークオークは真っ二つになって黒い霧になった。
そして驚いたことに、すぐ後ろから来ていた別のダークオークの身体にも斬撃痕が刻まれ、黒い霧となった。
「え? なんかすごいわね、この技!」
技を放った沙生那本人も驚いている。恐らく剣戟が波動のように伝わったのだろう。だが詳しい分析は後だ。
その後も次々とダークオークが河原に突入してきた。
沙生那の【こんしんげき】も夕璃乃の【かぜまほう】も強力で頼もしい技だ。
だが、技を使うとMPを消費する。今戦っているダークオークの波がどれくらい続くか分からない。
そのような状況ではMPは節約しておいたほうがいい。
「技は後のためにとっておいてください!」
俺は沙生那と夕璃乃に向かって叫んだ。
そうなると重要になるのは俺とシュヴィーネの先制攻撃だ。
おびき寄せる段階で多くの敵に一撃を食らわせてはいる。だが全てではない。
俺達がしっかりとダメージを与えておけば、沙生那は殆どを通常攻撃でトドメを刺すことができる。
夕璃乃もMP消費が少ない【かぜまほう】『届け』で足りるはずだ。
そう考えると、河原に飛び込んでくる敵に、俺とシュヴィーネが更に一撃を加えることは有効だ。というよりは必須であろう。
「よっしゃ、やってやろうじゃないの!」
俺が説明するとシュヴィーネはすぐに意図を理解してくれた。
この作戦は概ね功を奏した。ひとつ難点を挙げるとしたら俺が忙しくなったことだ。
ほとんどの場合、沙生那と夕璃乃は一撃でトドメを刺すことができた。
だが、与えるダメージは必ずしも均一ではない。また同色のダークオークでもHPに個体差があるようだ。
そのため、数体のうち一体の割合で討ち漏らしにが出てしまう。
俺は、先制攻撃を食らわせながらも、討ち漏らしが無いか常に気をつけた。
そして討ち漏らしがいれば即座にトドメを刺した。
ようやくダークオークの波が収まった頃には、俺の息もかなり上がっていた。
だが、そのかいもあって、戦闘は俺が考えていたとおりに進んでくれたようだ。
「大丈夫ですか、そらお様!」
河原に座り込んで肩で息をする俺にフォンが駆け寄ってきた。そして治癒魔法をかけてくれた。
「敵の本拠地はこの川の上流だ」
残党がいないか調べに行っていたシュヴィーネが戻ってきて言った。
「どうする? このまま続けて行く?」
沙生那が俺に訊いた。
今日の戦闘は、苦戦したという程ではなかったものの楽でもなかった。
今日遭遇したダークオークはグレーの個体だった。
本拠地に近づけば、より色が濃い強い個体と戦わなければいけないだろう。
冒険の書を見ると俺のレベルは23になっていた。そして新しい技に【ていさつ】が加わっていた。
俺のパーティーでの立ち位置がよく分かる技だ。
沙生那と夕璃乃もレベルが上がっているだろう。
ここは一旦戻ったほうがいい。技の検証が必要なのは勿論、店に新しい装備や道具が加わっているかもしれない。
「分かったわ、戻りましょう」
「うん、ここは陰キャ君の判断に任せるよぉ」
沙生那と夕璃乃も、俺の考えに賛同してくれた。
冒険が進むにつれて、メンバーそれぞれの個性がはっきりしてきた。
沙生那は剣士、夕璃乃は魔法使い、フォンは治癒士、シュヴィーネは格闘家、といったところか。
そして、俺は何なのだろう? と考えた。
【はやぶさぎり】という技からすれば基本的には剣士なのだろう。
だが新しい技は【ていさつ】だ。これは武器に【とうぞくのたんけん】を選んだからなのか?
もしかすると使用する武器や防具、或いは戦い方で、キャラの成長の仕方に違いが出るのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は沙生那達とオーク国の城の宿屋に戻った。




