第27話 フレッドはわたしをどう思っているの?
「レベッカ、わたし、どうしたらいいの?」
「そうですわね……」
マリーからあまりにも青春な告白をされて、胸から萌えが溢れそうになっているレベッカは、鋼鉄の精神力でそれを押し留めて、ポーカーフェイスをキープした。
さて、とレベッカは頭脳を高速回転させる。
本来ならば、わたしは彼が好き、彼はわたしをどう思っているの? からの、可愛い無防備ヒロインが堅物男を落とすラブコメが始まるのだが、なにしろこのふたりはすでにゴールインしている、
しかも、スタート地点が『女なら誰でもいいから嫁にしろ』『お金を積めば手に入る』という最悪な状況であった。
だがふたりがすでに夫婦であるという事実は、利用できるのではないだろうか?
「フレッドはわたしのことをどう思っているのかしらね。少しは好ましいと思ってくれていると思う?」
「それは……」
「辺境伯という立派なお仕事をこなしていて、武人としても名高いフレッドは、自立した大人の男の方だわ。それにとても親切で、双子たちのことも気にかけてくださっているの。あの子たちから届く手紙を読めばお心遣いがよくわかるわ。毎日楽しそうに遊んだり勉強をしたり、ごはんもたくさん食べさせてもらっているの。最近では身体付きもしっかりとしてきたとあったわ。ダーナがね、客観的な視点からヤウェン男爵家についての報告の手紙を送ってくれるのよ」
マリーは「あの両親についても、余計なことができないように、しっかりと見張ってくれているしね」と苦笑した。
「それに引き換え、わたしは無学で無知なただの小娘よ。とてもじゃないけれど、フレッドにはつり合わない……それは自覚しているの」
「いえ、奥方さまは奥方さまでいらっしゃるだけで価値がございますわ」
(そうなのよ萌え萌えパワーに満ちたマリーたんは生きているだけでこの世の至宝なのよ! 呼吸するたびに七色の虹と光が空気を染める唯一無二の尊いお方なのよ! 異論は許さなくってよ!)
だが、マリーは悲しげに笑って「ありがとうね、レベッカ」と目を伏せた。
「結局、わたしはお飾りにしかなれないのよ……」
以前に比べると確かにフレッド・クラスト辺境伯のマリーに対する態度は軟化しているし、離婚するつもりはないと宣言もしている。けれど、果たしてそこに恋愛感情があるのかというと、レベッカには断言ができない。
マリーは可愛い。とても可愛い。
だが、フレッドにとって愛玩動物としての存在でしかないとしたら、滅多な発言はできない。希望を抱かせてしまい、かえってマリーを傷つけてしまうかもしれないからだ。
なので、レベッカは慎重に言葉を選んだ。
「フレッドさまはとても公正なお方で、努力して実力を身につける者をきちんと評価してくださいます。そのフレッドさまは、今現在、奥方さまを辺境伯夫人であると認めていらっしゃいます」
「そうかしら?」
「はい。フレッドさまは口先だけのおべっかは使いません。あの方が妻だと断言したら、嘘偽りのない妻なのでございます」
マリーの瞳が揺れた。
「奥方さまに今できることは、来る王都の披露宴で辺境伯夫人としての振る舞いをこなして、クラスト家の力を見せつけることでございます。それができるのは奥方さましかいらっしゃいません。まずはダンスを成功させることを目標にしてください。さらに出発までに貴族間の状況についての知識を身につけることで、フレッドさまのお役に立つことができるとわたしは考えます」
レベッカはにこりともしないで「まずは、人としてフレッドさまにお認めいただく。互いに対等で尊敬できる存在になり、親密さを深めることで、愛情も生まれるのではないでしょうか」とマリーに告げた。
ロマンスのかけらもない計画だ。
けれど、マリーは決意した。
「ありがとう、レベッカ。わたしはやるわ。ベッドに潜ってベソをかいていたって、なんの役にも立ちはしないもの!」
マリーは立ち上がると「早く戻らなくては。貴重なダンスの時間を浪費したらもったいないわ」と、力強くレベッカに言った。
さて、その間フレッドは。
「フレッドさま、あんた、奥方さまになにをしてくれちゃったんですか!」
カトレアに、めちゃくちゃ責められていた。
そして「俺はダンスをしていただけだ! おまえも見ていただろう!」と狼狽えていた。
「むしろ聞きたい。俺のなにが悪かったのだ? 気づかないうちに女性の嫌がるようなことをしたのか? どうだ?」
「そ、それは……」
カトレアは考え込んだが、フレッドよりも女性に詳しい彼にもなぜマリーの様子が急変したのかわからない。
「もしや、臭かった、とか?」
「臭くない! はずだ! 今朝は湯も浴びたし、ここに来る前に新しいシャツにも着替えてきたし、コロンもひと吹きしてきたぞ。アランにもらったものだが……それがいけないのか? コロンが臭かったのか?」
「ちょっと失礼」
カトレアは乱暴にフレッドの胸ぐらをつかむとくんくん匂いを嗅いだ。
「……普通におっさんの匂いがする」
「おい!」
「けれど、臭くはありませんね」
「そうだろう!」
フレッドは彼なりに、マリーに嫌われないようにと気を使っていたようだ。
「ではなぜ……」
と、そこで扉がノックされた。
「奥方さまのお戻りでございます」
扉が開き、マリーが元気に飛び込んできた。
「途中で退出しちゃってごめんなさい! あのね、ちょっと、じょうちょ……」
「情緒不安定になっただけでございます。女性にはたまにございますので、問題はありません」
「そうなの、それなの。でもね、もう直ったから続きをやりましょう」
マリーは緊張しながらも、フレッドの顔を真っ直ぐに見上げた。
「わたし、披露宴でダンスを踊りきるわ。だって、辺境伯夫人だもん」
決意のこもった青い瞳を、フレッドは美しいと感じた。
「そうだ、おまえは辺境伯夫人だ」
目を細め、唇が笑みを作る。
ふたりはごく自然にダンスのホールドを組んだ。そして、音楽に合わせて踊り出した。




