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天使で悪女なマリーさん、猛禽紳士にお嫁入りする。  作者: 葉月クロル


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第12話 高級なレストラン

「ここが『本格的な』レストランなんですね。素敵な建物だわ」


 新しいドレスを着て髪を整えたマリーは、フレッド・クラスト辺境伯にエスコートされながら、この街で一番美味しいと評判の裕福な客向けのレストランにやって来た。人気の店だけあって、ディナーの時間帯はかなり客が入っている。


 王都にいた頃には、学園生の男子とカフェに行ったことはあったが、レストランに入ることはなかったので、彼女の胸は期待で膨らんでいる。


「アランが選んだのだから、間違いなく美味い店だろう」


 無自覚に従者を褒めるフレッドに、アランは内心で『フレッドさま、そういうとこ! この人たらし! 俺じゃなくて婚約者をたらそうよ!』と突っ込みを入れていた。


 従者思いのためか、婚約者とふたりきりで食事をするのを嫌ってなのか、個室を手配してアランも一緒に食べるようにと命じられているので、奥の特別な部屋に通された三人はテーブルについた。


 追加料金を払った部屋なので、内装が一際ひときわ豪華で、香りの強くない花もふんだんに活けられている。可愛らしいマリーにぴったりの部屋だ。

 猛禽紳士には……いや、このような場は女性に合わせるものなので、問題はない。


 彼は「妙にチャラチャラした部屋だな」と文句を言ったが、アランに「今は婚前旅行みたいなものですからね、お嬢さまにサービスしてもバチは当たらないと思いますよ」と言われて黙った。

 マリーの方はもちろん「なんて素敵なレストランなのかしら。お姫さまのお部屋みたいだわ」と大喜びだ。彼女は男爵家の令嬢なので本当にお姫さまなのだが、その自覚はない。毎日の食事に困るようなお姫さまはいないからだ。


「マリーお嬢さまは、お酒は召し上がれますか?」


 食前酒を注文しようとしたアランが、マリーに尋ねた。

 本来ならばホストであるフレッドが選ぶのだが、この男は女性というものをあまりにも知らなすぎて「適当に強いやつを持ってこい」などという注文をしかねないので、常識のある従者であるアランが請け負っている。


「わたしはもう十七歳だから、お酒を飲んでも大丈夫なんだけど……飲んだことがないからわからないわ。こういうちゃんとしたお店に来るのも初めてだし、どうしたらいいかよくわからないの。マナー違反をしても多めに見てね」


「口に入りゃあ、別になんでもいいんじゃねえか?」


「フレッドさま、言葉づかい、ね?」


 ぞんざいな物言いをアランから注意されたフレッドは、「俺は手づかみじゃなきゃ気にしないし、他に見ている者もいないから、気楽に食うがいい」と言い直した。


「あら、もしかすると気をつかって個室にしてくれたの? ありがとう、フレッド」


 にこにこするマリーに、フレッドはそっぽを向いて「人目が煩わしかっただけだ」と言った。

 実際、常に厳しい表情で黒い眼帯を付けている彼は、暗黒界の帝王のような雰囲気があるため、人の視線を集めてしまいがちなのだ。今日も、愛らしいマリーを連れていたために、少し歩いただけで「人攫ひとさらいか?」という失礼な疑いを何回か持たれていた。


 マリーにはワインをジュースで割った低アルコールのカクテルを、フレッドとアランはアルコール度数の強めのシェリーを頼む。

 食事中も、マリーはワインではなくジュースにしてもらった。


 コース料理を頼んでいたので、最初に来たのがほんのちょっとのアミューズであったため、マリーは『こんなにちょっぴりなの?』と寂しそうな表情になる。

 気の利くアランが「お嬢さま、今夜はアミューズ、前菜、スープ、魚料理、肉料理、デザート、食後のお茶と小さな焼き菓子とチョコレート、といったコースを頼んであります。量は少しずつですが、途中でおなかがいっぱいになったら遠慮なく残して大丈夫ですよ」と声をかけた。


「え? 残すの?」


 それはそれで嫌な気持ちになる。

 食べ物を無駄にすることは、マリーにとっては身を引き裂かれるように辛い、重い罪なのだ。


 いつも少ない食事しか食べられなかったマリーには、コース料理を食べきることは難しい。魚料理が出てくるまではとても美味しく食べることができたのだが、半分くらいで手が止まりそうになる。

 高級な店なので、ソースには生クリームやバターが使われていて、質が良くとても美味であるものの、マリーにはあぶらが強すぎた。


(こんな美味しい料理を残すなんてできないわ。捨てられてしまうもの。持ち帰れるものなら持ち帰りたいけれど……)


 それはさすがに無理だろうな、とマリーはため息をついた。

 

「口に合わんのか?」


「いえ、とても美味しいです。でも、こんなにたくさん食べたことがないので……」


「そんなことではクラスト領で元気に過ごせないぞ。とはいえ、馬車に乗るばかりでろくに身体を動かしてなけりゃ、飯も入らんか。俺が食うから寄越せ」


「えっ」


 フレッドは立ち上がるとマリーの皿を奪い取り、口に魚を放り込むと皿だけ返した。


「こういうちまちました料理は食べた気がしねえからな」


 肉料理も、マリーにひと口だけ食べさせるとあとはフレッドのおなかに入った。


「甘いもんは食えるか?」


「少しだけ」


 シャーベットは食べて、果物のタルトはほとんどフレッドが食べる。


「アラン、焼き菓子とチョコレートはすべて包ませろ」


「少し量を足して、明日のおやつにしましょうか。お嬢さま、食後のお茶はゆっくり召し上がって大丈夫ですよ」


「俺は酒がいい」


「お茶にしておいてくださいよ。宿に戻ったら手配しますから」


「ふん」


 こうして、フレッドの気遣いで、マリーのおなかは破裂しないで済んだのであった。


 

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