始まりの夜会にて(3)
その酷く寂しそうな目、どこかで─────。
…いや、きっと気の所為だ。
「…そうですか。アリア嬢が教えて下さる"その時"を僕は待っておりますね。」
「……えぇ。その時が来ましたら、是非。」
少しはぐらかされた気もしなくはないが、特に問い詰める程ではないことなのであえて追求はしない。
それに、他にも気になることは多い。今全部聞くことは叶わなくとも、少しでも多くの情報を得たい。
「それにしても、アリア嬢は本当に多くのお噂を耳にします。重鎮として活躍されているお父上によく似ていらっしゃるのでしょうね。」
アリア嬢のお父上、シトリファー侯爵は財務総括官として有名であり、社交界でもよく聞く名である。
ここで侯爵の話を振ったのは、アリア嬢があまりご両親に関しての話をしない、というのが少し気になったから。仕事柄、お父上とはあまり話さないのかもしれないけれど。
「そう、なのでしょうか?私自身はあまり似てると感じたことは無いのですが。」
特に不審な点はない、ということは単純にあまり話さないだけなのかな。アリア嬢に僕が積極的に話しかけることを侯爵に知られれば、どう感情を抱かれるか読めなくて聞いてみたけど、これなら大丈夫だろう。
「そうでしたか。」
話せば話すほど興味が湧いてくる。本当に底が知れない人だ。
そして、会話が途切れた、今なら。
「もしよろしければ、ですが。アリア嬢、僕と1曲、踊ってくださいませんか?」
「……!」
微かに驚いた顔をして息を飲んだアリア嬢。
せっかくの夜会だからこそアリア嬢と踊ってみたい、という気持ちに突き動かされる。
「……ええ、喜んで。」
意識して丁寧にエスコートすると、バルコニーにも流れてくる音楽に合わせ、2人だけのダンスが始まる。
「不思議なものですね、なかなか私にダンスを誘う方はおりませんでしたので、少し新鮮な気分です。」
「僕もあまり経験はありませんが、アリア嬢に楽しんで頂けてるなら光栄です。」
くるりと回ると、ふわっと広がるスカートに、煌めくアクセサリー。まるで精霊が顕現したような幻想的な一時で、思わず息を飲んでしまう。
「ダンス、とてもお上手なんですね。」
「そうでしょうか?私はまだまだ至らぬ点も多いですが、……ただ、少しだけ」
「少しだけ、貴方と踊れるこの時間が、楽しいのかもしれません。」
その少し優しい眼差しは、"氷の侯爵令嬢"と言われるのが不思議なくらいに美しくて。
あぁ、こんなにも優しくて、美しい人から目を離したくない。
そんな出会いの夜の数日後、アリア嬢と再会することをまだ僕は知らなかった。




