第十八章 王子との初夜リベンジ
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## 第十八章 王子との初夜(二回目・成功)
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チョウチョウとの契りから、二週間が経った。
その間も、璃生は毎日王子のもとへ通った。
王子は毎日、修練を続けていた。
バクシンが相手をしていた。
璃生が本を読んでいる間、廊下の奥から、静かな音が聞こえることがあった。
璃生は何も聞かなかった。
王子も何も言わなかった。
ただ、毎日、本を読んで、一緒にいた。
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その間にも、少しずつ変化があった。
王子が人間の姿でいる時間が、さらに増えた。
今では、璃生が来るときは、人間の姿で待っていることが多かった。
刈り上げた黒髪。金色の瞳。
璃生はその顔に、少しずつ慣れてきていた。
慣れてきた、というより。
好きになってきていた。
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ある朝のこと。
バクシンが璃生のもとに来た。
「王子が話したいと言っています」
「はい」
「……緊張していますので、あまり笑わないでください」
「何がですか」
「王子が緊張しているのを見て、笑わないでください」
「笑いません」
「本当に」
「本当に笑いません」
バクシンは少し複雑な顔をした。
「……おれが笑いそうなんですよね、実は」
璃生は少し目を細めた。
「バクシンさんが笑わないようにしてください」
「努力します」
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王子の部屋に入った。
王子が、人間の姿で立っていた。
いつもより背筋が伸びていた。
緊張している背中だった。
バクシンの言っていた意味が分かった。
「こんにちは」
「……こんにちは」
王子が振り向いた。
金色の目が、璃生を見た。
まっすぐだった。
でも、耳が少し赤かった。
「……話がある」
「はい」
「……座ってくれ」
璃生は座った。
王子も座った。
向かい合った。
王子は少し間を置いた。
「……修練を、続けていた」
「はい」
「……毎日やっていた。バクシンに付き合ってもらって」
「知っています」
「……先週、バクシンに確認してもらった。力加減が、前より安定していると言われた」
「そうですか」
「……百パーセントではない。でも、前よりは」
「はい」
王子が璃生を見た。
金色の瞳が、真剣だった。
「……もう一度、させてほしい」
璃生は聞いた。
「縁を、ちゃんと結びたい。今度こそ」
「はい」
「……傷つけるかもしれない。それが怖い」
「はい」
「……でも、したい。ちゃんとしたい」
璃生は王子を見た。
真剣な目だった。
怖がっている目だった。
でも、まっすぐな目だった。
「わたしも、したいです」
「……怖くないか」
「少し怖いです」
「……それでも」
「王子様と、ちゃんとしたいです」
王子は少し目を細めた。
「……前回、傷つけた。それを、忘れていないか」
「忘れていないです」
「……怖くないのか、本当に」
「少し怖いです。でも、王子様が修練してくれたことも、知っています」
「……百パーセントではない」
「はい」
「……それでも」
「それでも、一緒にいたいです」
王子は、しばらく璃生を見た。
長い間、見た。
「……ありがとう」
「こちらこそ」
「……何がだ」
「修練してくれたことに。毎日続けてくれたことに」
王子は、耳が赤くなった。
「……それは、当然のことだ」
「当然ではないです。大変だったと思います」
「……うるさい」
「ありがとうございます」
「……うるさい」
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その夜のことだった。
部屋が、静かだった。
夜の空気が、窓から少し入っていた。
王子が来た。
人間の姿だった。
璃生の部屋に入ってきた。
扉を閉めた。
璃生を見た。
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緊張していた。
王子が、ひどく緊張していた。
分かった。
体の緊張が、見えた。
「……緊張していますね」
「……うるさい」
「わたしも緊張しています」
「……そうか」
「同じですね」
「……同じじゃない」
「どちらが緊張していますか」
「……おれのほうが、もっと」
「なぜですか」
「……また、傷つけるかもしれないから」
璃生は王子を見た。
「王子様」
「なんだ」
「傷つけることを、一番怖がっているのは、王子様ですよね」
「……そうだ」
「わたしが傷つくことより、わたしを傷つけることのほうが、怖いんですよね」
王子は、少し間を置いた。
「……ああ」
「それが分かるから、大丈夫だと思えます」
「……なぜ」
「わたしのことを、一番怖がってくれているから」
王子は、璃生を見た。
金色の瞳が、揺れた。
「……変な理屈だ」
「そうですか」
「……でも、分かった」
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王子が近づいた。
ゆっくりだった。
前回よりも、もっとゆっくりだった。
璃生の前に来て、止まった。
「……いいか」
「はい」
「……怖くなったら言ってくれ」
「言います」
「……すぐに止める」
「はい」
「……傷つけたら、今度こそ、二度とこういうことはしない」
「傷つけないと思います」
「……なぜ」
「修練してきたから。わたしのことを怖がってくれているから」
「……保証はない」
「でも、信頼しています」
王子は、璃生を見た。
長い間、見た。
それから、そっと手を伸ばした。
璃生の頬に、触れた。
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壊れ物を扱うような手だった。
前回も丁寧だったが、今回はもっと丁寧だった。
一ミリずつ確かめるような、触れ方だった。
「……大丈夫か」
「大丈夫です」
王子の手が、少し動いた。
「……今は」
「大丈夫です」
もう少し動いた。
「……今も」
「大丈夫です」
璃生は、ちゃんとそこにいようとした。
感覚を遠ざけないで、ちゃんといようとした。
怖い、という感覚が来た。
でも、王子の手が温かかった。
大きくて、丁寧で、温かい手だった。
怖さと温かさが、並んでいた。
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少しずつ、進んだ。
王子は毎回確認した。
「……大丈夫か」
「大丈夫です」
「……無理していないか」
「していないです」
「……本当に」
「本当に」
璃生の答えを、全部聞いた。
答えが来るまで、待った。
答えが来てから、動いた。
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途中で、璃生が感じた。
王子の感情が、高ぶってきた。
前回と同じように。
璃生は少し構えた。
でも、今回は違った。
王子が止まった。
自分で止まった。
深呼吸した。
一回。
二回。
それから、また続けた。
爪は変わらなかった。
人間の爪のままだった。
壊れ物を扱うような手のままだった。
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璃生は、それを感じた。
止まれた。
自分で止まれた。
修練の成果だと思った。
毎日続けてくれていた修練の、成果だと思った。
胸の中で、何かが温かくなった。
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夜が深まった。
王子は丁寧だった。
ひどく丁寧だった。
璃生はちゃんとそこにいた。
全部、感じた。
怖い、という感覚もあった。
温かい、という感覚もあった。
大きい手だな、という感覚もあった。
静かだな、という感覚もあった。
全部、本物だった。
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終わったとき、王子が璃生を見た。
金色の目が、璃生を見た。
「……大丈夫か」
「大丈夫です」
「……傷は」
「ないです」
「……本当に」
「確認しますか」
「……する」
確認した。
傷はなかった。
王子が、深く息を吐いた。
「……よかった」
声が、少しかすれていた。
「王子様」
「なんだ」
「ありがとうございます」
「……何がだ」
「丁寧にしてくれたことに。止まってくれたことに」
「……当然のことだ」
「当然ではないです。大変だったと思います」
「……うるさい」
「ありがとうございます」
王子は黙った。
璃生の横に、横になった。
天井を見た。
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しばらく、二人とも黙っていた。
静かだった。
夜の静けさだった。
窓から、星の光が少し入っていた。
「……怖かったか」
「少し」
「……すまない」
「謝らなくていいです」
「……でも、怖かったんだろう」
「少しありましたけど、温かいのほうが大きかったです」
「……温かい」
「王子様の手が、温かかったです」
王子は少し間を置いた。
「……狼のときも、温かいと言っていたな」
「はい。毛が温かかったです」
「……人間の姿のほうが、温かいか、狼のほうが温かいか」
「どちらも温かいです」
「……同じか」
「はい、同じです。王子様だから、どちらも温かいです」
王子は天井を見たまま、少し動いた。
「……変なことを言う」
「本当のことを言いました」
「……変な人間だ、おまえは」
「よく言われます」
「誰に」
「チョウチョウさんに。たまにコールさんに」
「……そうか」
王子は少し間を置いた。
「……おれも、同じことを思っていた」
「変な人間だということですか」
「……それもある。でも、それだけじゃない」
「何がですか」
「……面白い人間だと思っていた」
「面白い」
「……毎日来て、本を読んで、怒鳴られても次の日にまた来た。変だと思った。でも、面白かった」
「そうですか」
「……あと」
止まった。
「あと?」
「……かわいいと思っていた」
璃生は少し驚いた。
「わたしが、ですか」
「……うるさい、忘れてくれ」
「忘れません」
「……忘れてくれ」
「かわいいと思ってくれていたんですね」
「……言うな」
「ありがとうございます」
「……礼を言うな」
「言います」
王子が、深く息を吐いた。
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しばらくして、璃生は笑いそうになった。
こらえた。
でも、笑いそうになった。
「……なぜ笑っている」
「笑っていないです」
「笑っている」
「気のせいです」
「笑っている。なぜだ」
「……かわいいと思っていた、と言ってくれた王子様が、かわいいと思いまして」
王子が固まった。
「……おれが、かわいい」
「はい」
「……どういう意味だ」
「そのままの意味です」
「……おれは、かわいくない」
「かわいいです」
「……かわいくない」
「耳が赤いのが、かわいいです」
「……耳は赤くない」
「今、赤いです」
「……うるさい」
「本当のことを言いました」
王子が璃生を向いた。
金色の目が、璃生を見ていた。
「……変な人間だ」
「はい」
「……でも」
「でも?」
王子が、少し困った顔をした。
困った顔のまま、言った。
「……好きだ」
璃生は、王子を見た。
金色の目が、まっすぐだった。
「わたしも、好きです」
「……即答するな」
「考えなくても分かります」
「……なんで」
「王子様が、毎日待っていてくれたから。扉を開けて、待っていてくれたから」
王子は少し間を置いた。
「……それだけで分かるのか」
「それだけで十分です」
王子は天井を向いた。
また、耳が赤かった。
「……変な人間だ」
「はい」
「……もう寝る」
「はい」
「……おやすみ」
「おやすみなさいです」
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王子が目を閉じた。
璃生もしばらく天井を見ていた。
それから、目を閉じた。
隣に、温かい気配があった。
大きな気配だった。
でも、怖くなかった。
温かかった。
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璃生は眠りに落ちる前に、思った。
ここにいていいんだ、と今日も思えた。
隣に誰かがいて、温かくて。
それが、怖くなかった。
笑いながら、いられた。
それが、なんというか。
奇跡みたいだと思った。
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翌朝。
目が覚めたとき、王子がまだいた。
眠っていた。
璃生は起き上がらないで、しばらく王子を見た。
人間の姿で眠っている顔は、狼のときとは違う顔だった。
でも、どこかが似ていた。
何が似ているのか、しばらく考えた。
静かさが、似ていた。
眠っているときの静けさが、狼のときも人間のときも、同じだった。
璃生はそれを見ながら、ただいたな、と思った。
特別なことではなかったが、特別な感覚だった。
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しばらくして、王子が目を開けた。
璃生を見た。
「……起きていたのか」
「はい」
「……何を見ていた」
「王子様の顔」
「……見るな」
「静かな顔でしたよ」
「……うるさい」
王子が起き上がった。
黒髪が、少し乱れていた。
「……寝ぐせがついています」
「……見るな」
「かわいいです」
「……かわいくない」
「かわいいです」
「……うるさい」
王子が手で髪を直した。
璃生はそれを見て、笑った。
今度は声に出して笑った。
小さく、でもちゃんと笑った。
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王子が璃生を見た。
怒っていなかった。
困った顔をしていた。
でも、口元が、少し動いていた。
「……笑うな」
「すみません」
「……謝るな」
「どちらですか」
「……うるさい」
王子が立ち上がった。
服を整えた。
扉に向かった。
扉の前で、止まった。
昨夜のチョウチョウと同じように、扉の前で止まった。
振り向いた。
「……また来る」
「はい」
「……明日も」
「わたしも行きます」
「……本を、持ってきてくれ」
「何がいいですか」
「……続き」
「旅の物語の続きですね」
「……ああ」
「分かりました」
王子は、また少し間を置いた。
「……昨夜のことを、後悔していないか」
「していないです」
「……傷がなくて、よかったか」
「よかったです。王子様が止まってくれたおかげです」
「……修練した」
「はい」
「……おまえのために」
「知っています」
「……それで、十分か」
「十分です。ありがとうございます」
王子は、少し間を置いた。
「……礼を言うな」
「言います」
「……勝手にしろ」
扉が開いた。
出ていく前に、一瞬だけ振り向いた。
金色の目が、璃生を見た。
「……おやすみ」
「おはようございます」
「……朝だったか」
「朝です」
「……おはよう、では」
「おはようございます」
扉が閉まった。
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璃生は、閉まった扉をしばらく見た。
それから、自分の胸の文様に触れた。
服の合わせをそっと開いた。
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黒椿の輪郭が、そこにあった。
白くなかった。
白ではなかった。
夜空の色だった。
深い群青の中に、黒が滲んでいた。
鮮やかだった。
夜空そのものの色で、輝いていた。
深群青に滲む黒。
光の当たり方によって、深い紫が混じった。
星のない夜空のような、でも深くて美しい色だった。
黒椿が、完成していた。
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璃生は、しばらくそれを見た。
金木犀と、黒椿。
二つの花が、朱色の彼岸花のそばで、鮮やかに輝いていた。
あと一つ。
水仙が、まだ白かった。
でも、白の中に、真珠色の気配が、確かにあった。
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璃生は服を戻した。
窓の外を見た。
朝の光が入っていた。
青い空だった。
きれいだ、と思った。
ちゃんと、そう思えた。
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昼前に、廊下でバクシンに会った。
バクシンが、璃生を見た。
一瞬で、分かったらしかった。
「……よかったですか」
「よかったです」
「……傷は」
「ないです」
バクシンが、深く息を吐いた。
「……よかった。本当に、よかった」
「バクシンさん」
「はい」
「王子様の修練に、毎日付き合ってくれていましたよね」
「……はい」
「ありがとうございます」
バクシンは、璃生を見た。
「……おれに、礼を言うんですか」
「王子様のために動いてくれていたので」
「……それは、当然のことで」
「当然ではないです。ありがとうございます」
バクシンは、しばらく璃生を見た。
それから、顔を覆った。
「……泣きそうです」
「泣いていいですよ」
「……泣きません。男泣きはしません」
「してもいいです」
「……しません」
バクシンが手を下ろした。
目が、少し赤かった。
「……王子が、今朝、少し違う顔をしていました」
「そうですか」
「……照れていましたが、それより、すっきりした顔をしていました」
「そうですか」
「……よかったです。本当に」
「わたしも、よかったです」
バクシンは、また目が赤くなりそうになった。
壁を向いた。
「……少し、待ってください」
「はい」
「……こみ上げてくるので」
「どうぞ」
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その夜。
璃生は日記を書いた。
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今日、黒椿の文様が色づきました。
王子様の色です。
夜空の色でした。
深群青に黒が滲んでいて、とてもきれいでした。
昨夜、笑いながら一緒にいられました。
それが、なんというか、奇跡みたいだと思いました。
怖いという感覚は、少しありました。
でも、温かいのほうが、大きかったです。
二つの花が色づきました。
あと一つ。
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書いて、コールへの日記も書いた。
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コール様へ
今日は少し、報告があります。
黒椿の文様が色づきました。
夜空の色です。
とてもきれいでした。
あと一つ、水仙の文様が色づけば、全部揃います。
まだ時間がかかるかもしれないですが、焦っていないです。
今日の夕方の図書館は、いつもより少し明るい気がしました。
コールさんのお茶が、今日も美味しかったです。
ニジトセ
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書いて、ノートを閉じた。
窓の外を見た。
夜空だった。
星が出ていた。
深群青の夜空に、星がきらきらしていた。
黒椿の色と、同じ色だと思った。
璃生は窓に手を当てた。
胸の文様が、温かかった。
二つの花が、輝いていた。
あと一つ。
水仙が、待っていた。
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翌朝届いたコールの日記には、こう書いてあった。
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黒椿が色づいた、と書いてあった。
夜空の色だと。
水仙は、まだ白いと書いてあった。
焦っていないと書いてあった。
わたしも、焦っていない。
ただ。
水仙が色づいたとき、どんな色になるのか。
少し、気になっている。
気になっているというのは、おかしな感覚だ。
自分の文様が、どんな色になるのかを、気にしている。
おかしいと思うが、気になっている。
別に、急がなくていい。
ただ、気になっている。
コール
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璃生は日記を読んだ。
読んで、少し口元が動いた。
コールさんが、気になっていると書いてくれた。
焦っていないけど、気になっている。
それが、コールさんらしかった。
璃生はノートを胸に当てた。
温かかった。
今日も、図書館へ行こう。
そう思いながら、支度を始めた。
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*(第十九章へ続く)*




