朱の鏡
方針が決まるとピーちゃんは早かった、付近でモンスターの気配がすると云って、街道を逸れて右へ左へジグザグと進んでいく。
本当に俺は何もしていない完全な寄生プレイヤーである。
特に語ることも無いレベルで倒していくのだ。
見付ける・突き刺す・倒す・見付ける・薙ぎ払う・倒すこの繰り返しだ。全て一撃で倒していく。
この日また変な噂が経った。ラピス=ラズリがレッド・ベール~レンド区間で格下のモンスターを甚振りながら猛進していたと。そんな噂話は今日も風神=雷神の許へ届いていた。
レンドの北にある湖を東側へ迂回する様に街道は曲がっており、その一番東端に安全地帯になっている休憩所があったのでその場所で一晩明かす事となった。
流石に町や村とは違うので俺の右隣にいるピーちゃんは左手で尻尾を触るくらいで、右手の槍は手放さず警戒していた。
◆◇◆
ヒソヒソヒソヒソ
(おい、初期街なら分かるがなんでラピス=ラズリがこんなレベル帯にいるんだ。)
(俺に聞いたって分かるかよ。)
(安全地帯だってのによ、何であんなに警戒心剥き出しなんだよ。)
(あんなに殺気振り撒かれたら、誰も近付かねえな。)
(横で寝てるやつって誰なんだ。)
(分からねえが数日前に震雷の奴が云ってたぞ。)
(何て言ってたんだ。)
(ラピス=ラズリが遂にペアを組んだ、ってな。)
(と言う事は隣はその相方か。)
(お前この距離から名前確認出来るか。)
(スキルあるから出来るぜ。)
(ってことは、クラス確認も出来るのか。)
(ああ、任せろよ。)
◆◇◆
「何を任せるんだ、お前ら。」
「いっ、いえ何も。何もしません何も見ません。」
「あの子の情報が流れたら、お前等だと思っとくからな。それと…顔と名前は覚えたからな。」
「はい…失礼します…。」
◆◇◆
(やばかった、そしてあかん。あの人あかん。睨まれた時の威圧感が異常すぎる。)
(聞く話と実際に睨まれるとでは別物すぎるぞ。)
(伊達に死神と云われてないな。)
(実際戦場じゃ一方的らしいしな。)
(そういや今日は何で槍なんだ。)
(普段は槍らしいぞ。そして大鎌持ってる時が…)
(本気と云うわけか。)
(そういう事だ。)
(見た目は物凄い美人でスタイルも抜群なんだけどな。何と云うか近寄れないんだよな。)
(それ分かるわー………。)
(……………。)
かの残念美人は、色々な人の中で話題となりつつ休憩所の余は更けていく。
◆◇◆
「おはよう、ピーちゃん。」
「良く寝れたー?」
「ぐっすり寝たよ。」
「そかそかーー。今日は美味しい物を用意したぞー。」
そう云いながらインベントリから、アップルパイとパンプキンパイを満面の笑顔で取り出す。
食べて食べてと催促するので食べてみると物凄く美味しかった。
「私お勧めの料理職人さんの一品だよ。」
そう云いながら俺が食べているのを、終始ニコニコして眺めていた。
それを見た休憩所に居た人達により、あの死神ラピス=ラズリがニコニコしてて凄く可愛かったとまたしても噂を掻っ攫う人気者??だった。
そして又見付ける・突き刺す・倒す・見付ける・薙ぎ払う・倒すを繰り返し、レッド・ベールへ向かう。
レッド・ベールに到着する前にはもうレベル25になっていたが、止まらぬ猛獣に好きにさせておいた。
到着後にその話をすると、早く云ってよーと頬を膨らませていた。
転職クエストの前にギルド・タワーに…と思ったが、タワーらしきものが見当たらないのでこの町にはないのか聞いた。
するとここにタワーを置くと景観が崩れるので、二階建てで横に長いギルド会館と云う場所があるそうだ。
機能的には同じだと云うので、早速ギルド会館に行く事にした。
この町もお勧めの宿屋があるのでまずそこに泊まりつつ、家を探したり転職しようと云う事になった。
朱の鏡
建物に赤さが全くないのにこの名前とは…と思っていると夕方になると分かるよと云われた。
朱の鏡は町の北側の高台に位置する。その理由も宿の名前に関係していた。
部屋に入ると北側に大きな窓があり、眼下には広く海が広がっていた。
部屋の中の椅子居座ると窓枠が額縁となり、中の絵は空と海が広がりゆっくりと姿を変えていく。
眺めているだけで心が落ち着くような、時の流れが遅くなったと錯覚させる風景だ
こういった風景に憧れていた節もある俺は、飽きる事も無くずっと眺めていた。
そして空が朱に染まって行くにつれ、宿の名前の意味が分かって来た。
空も海もまるでどちらかが鏡の様に、朱に染まっていく。
しかしそれが見れたのはほんの一瞬だ。全体が染まると端から闇に包まれ始めるのだ。
しかし一瞬と云えど、これを見れた事は嬉しかった。
「俺にこれを見せたのは、同じような景色が見える家にしようって事じゃないのか。」
「察してくれて嬉しいよ。どうかな。」
俺もまた見たいと思ったし、朝日の時はどう見えるのか見てみたいと思った。
「でも高いだろう。ウィーちゃんが結構お金持ってたからいけると分かったからここに来たんだよ。」
「もしかして全部俺持ちってことか。」
そうでは無いと教わった。ペアで家を買う時は完全に折半になると云う。
お互いが同額出して買わなければならないという条件がつく。
そして下調べを済ませてある家は、お互いが1,000万シード支払う必要があると云う。
結構高額な条件だと云うが、気に入って貰えると思うと自信満々だった。
なので明日はその家を見に行く事となった。




