動く芸術品
ピーちゃんがピックアップしていた家は三つ。
一つ目は朱の鏡の少し横の北側、景色を見るなら最高の場所だ。
しかし高台にある為、移動に関しては少々不便だ。
景色は抜群に良い。あの景色を毎日を見れるだろう。
一つ目は朱の鏡の少し横の北側、景色を見るなら最高の場所だ。
しかし高台にある為、移動に関しては少々不便だ。
だがそれなら朱の鏡に泊まればいい。
家の外観も特にこだわりなく周囲の家ともそう変わらず、立地に値段が掛かっているのか内装は許容しがたいので却下だ。
二つ目は町の中心部の東側。
こちらも高台なのだが、周囲に商店や露店が多く賑わいがあり不便さは特にない。
小料理屋があり雑貨屋があり鍛冶屋があり魔法屋もある。そしてギルド会館も近い。
生活する分には申し分ない条件だろう。
しかしゲームしてる間ずっとここに居るわけじゃない。
三つ目は町の北の端にあり高台ではなく、崖道を下った先にある。
人の通りも殆どなく、町の喧騒も聞こえない。聞こえるのは海の音・風の音・鳥の鳴き声と完全な自然の中の一軒家なのかと思わせる静けさ。
不便さで云えば断トツで不便だ。周囲に店なんて何もない。
崖道も右へ左へと九十九折りの坂道を登る必要があり、中心部へ行くのに1kmくらい歩く必要がある。
それなのにこの金額というのは理由があった。
外観は石造り。しかも採掘量の少ない石のみで作られ、対風化の魔法が掛けられている。平屋だが大きさも一番大きく、なんと地下室が二つ用意されている。
あとは家だけではなく周囲の土地付きだ。家正面が開けているので視界は広く海を下に見るのではなく前に見る感じの作りになっている。
何故俺がこんなにこの家について語るかと云うと、気に入ってしまったからだ。
他にも色々とあったのだが、それについてはまた今度としよう。
ピーちゃんはこの三つめについてはこんなのもあるよ程度で俺に教えたのだが、まさかこれほど気に入ると思っていなかったらしく不便だよと頻りに云ってくる。
恐らく彼女の中では一つ目か二つ目が良かったのだろう。
なので決定権を彼女に委ねてみようとすると、私は俺が気に入ったところならどこでもいいから俺が決めろと云う。
俺は三つ目のここが良いと云うと、今から購入しに行こうと彼女は云った。
本当にいいのかと聞いても、俺が気に入らない所を買うつもりはないと云いきった。
家の購入はギルド会館の一階に担当NPCが居る。そのNPCにも云われたのだが、あれほど不便な場所にこれ程の金額を払ってよいのかと再三確認された。
購入すれば鍵と共にステータスに家の場所が表示されるのだ。
そして俺はShangri-laでの、初めての家を購入した。
購入後家に行くと家の前に一人の男性NPCが待っていた。
彼の名はポルクス。
この家の補助NPCだと云う。それなりの歳だがガッシリとした体型の偉丈夫。執事服を着せたら似合いそうな感じがするが、作業服の様なものを着ている。
「初めましてラピス=ラズリ様・ウィンス=キャビルソン様。本日より身の回りの世話とこの家の管理をさせて頂きます、ポルクスと申します。買い物や備品の管理、畑の世話他に何でも致しますのでお申し付けくださいませ。」
畑なんてあったのかと、補助NPCが居た事よりもそこに驚いてしまった。
ピーちゃんはピーちゃんで個人で購入出来る家には、補助NPCなんて居ないと驚いていたようだった。
彼もこの家に住むのかと聞いてみると、家の裏手に小さな小屋があり彼はそこへ寝泊りをすると云う。
そして家の中へは呼んだ時と用事を頼んでおいた時以外は、入らないと云う。
ちなみに警備も兼ねているとか。
立地条件の悪さが影響して実は値段が低く、彼も購入金額の中に入っていたのかもしれない。
他のペアに聞いてみない事には、これ以上分からなかった。
ポルクスについては今は頼む事が無かった為、何か用事が出来るまではゆっくり適当にしていてくれと云っておく。
家の中に入ると南北に大きな窓がある、大きなベッドが北側にあり雄大な海と空の景色を一望出来るようになっていた。
もう少しすれば夕方になるのでその景色を見たいが為、ベッドに腰かけその時が来るのをゆっくりと待っていた。
俺がそれを期待しているのを分かってくれていたようで、今日の彼女は一切触れて来ず隣で静かに同じ景色を眺めていた。
今日は少しだけ雲が出ている。そして西の端を朱が染め始めた。
夕焼けというのは時間が加速したかの様に、移り行く速度が早く感じる。
だがそれが良い。この短い時間で素晴らしい芸術品を、毎日違う姿で違う色使いで魅せてくれる。
俺は昔からこの日替わりの芸術品が大好きだった。
そしてこの大きな窓が一つのキャンパスだ。動く芸術と云うべきかこれは本当に素晴らしい。
毎日これを見に来る為だけに、この時間この場所に来たいくらいだ。
青さの残る海と空に迫ってくる朱、それをまだ見ぬ藍が枠外から迫っているのだろう。
そして問題の一面の朱だ。
上から見下ろす海でないため比率は空が大きく見えるが、個人的にはこの構図の方が好きだった。
目線が低い為地平線の丸みが少なく一本線に近く、空と海の境界が曖昧なこの動く絵が気に入った。
暫くすると左の端から藍色の夜が浸食していく。
昼と夜の境目が淡い紫色にぼやけ、その境界も次第に右へと進み夜の闇が世界を支配していく。
全てを眺め終わると、無意識に小さくため息を吐いていた。
そこでふと彼女の方を見ると、俺と同じくその景色に魅了されて微動だにしていなかった。
明かりを点ける為に立ち上がろうとすると、彼女に体を引き戻され共にベッドへと沈んだ。
そして場の雰囲気に流されるまま、拒否もせず身を任せてしまった。




