第七話 早くも噂が出回る?
「それじゃ、今日はご馳走様でした」
「うん、こっちこそありがとう。またねー」
夕飯を食べ終わった後、神崎さんに見送られながら帰宅する。
それにしても……さっきの、聖菜ちゃんの生の声。
あれは本当に俺にだけに言ってくれたんだよな。聖菜ちゃんのガワは被っていなかったけど、声は正真正銘の本物だった。
だけど、それ以上にあの聖菜ちゃんの声を出していた神崎さんも何て言うか、めっちゃ可愛く感じてしまった。
(やば、ドキドキが止まらないって)
想像を超える破壊力だったので、心臓の高鳴りが収まらないまま家路に着き、今夜は興奮してまともに眠れなかったのであった。
「であるからして、このケースでの債務者の権利は……」
翌日、いつものように大学に行き、教室の後ろの方の席に座って講義を受ける。
実はこの大学は神楽咲聖菜の中の人、つまり神崎さんが通っていた大学だったっていう噂を耳にしたので、俺もここに通う事に決めたのだ。
もちろん、噂だったので、真偽は不明……てか、神崎さん本人に聞けばすぐにわかる事か。
彼女がこれを聞いたら、どう思われるかな? わざわざ聖菜ちゃんと同じ大学を選んで受験して、通い始めたって聞いたら、ストーカーみたいに思われるかも。
偏差値的には中堅くらいの私大だったので、俺の学力でも行けそうだったので、受験しちゃったんだが、まさかそのおかげで聖菜ちゃん本人に会えるとはね。
「ちょっと、平沢くーん」
「ん? 何だよ?」
「何だよじゃないって。最近、サークルに顔を出さないじゃない。どうしていたの?」
講義が終わった後、講堂を出たところで、大学の同級生で同じサークルに所属している角田瑠莉奈が声をかけてきた。
「ああ、最近、バイトが忙しくてさ。今度は出るよ」
「本当? 平沢君、神楽咲聖菜が引退してから、随分と元気がなかったからさ。もう吹っ切れた?」
「そうだな。流石に、だいぶ落ち着いて来たかも」
角田にそう聞かれて、ドキっとしてしまったが、まさかその聖菜ちゃんの中の人と知り合いになってしまったとはとても言えない。
「そう。なら良かったんだけどさ。最近、大物Vの引退が相次いでいるじゃない。色々と闇の深い業界なのかなって勘繰っちゃうんだよね」
「はは、どうなんだろうな」
俺達が所属しているサークルは一応、文芸サークルみたいなサークルなんだが、実態はただのアニメサークルみたいなもので、俺も名前だけの会員みたいな感じなのだが、この角田はやたらとVtuber業界に詳しいんだよな。
ただ神楽咲聖菜ちゃんにはあまり興味がないみたいで、どっちかっていうと、男のVの方が好きっぽいので、俺とは嗜好は異なるんだけど、こいつに神崎さんを会わせたら、どう反応するのやら。
「それより、話があるんだけど良い?」
「話? これから、バイトがあるんだけど」
「そんなに長くかからないから。ちょっとこっちへ」
話って何だよと首を傾げていたが、角田に腕を引っ張られて、近くの空き教室へと連れて行かれる。
「話って何?」
「もしかしたら、平沢君なら知っているかもしれないけど、神楽咲聖菜について、こんな噂がネットの棒匿名掲示板で投稿されていたのよね。これ、見て」
「聖菜ちゃんの噂? 何々……いいっ!?」
告白でもされるのかとちょっとだけ期待してしまったが、聖菜ちゃんの噂と聞いたので、何の事か思いながら、角田が見せたスマホのスクリーンショットを見て、思わず声を張り上げる。
『神楽咲聖菜、婚約者にフラれたらしい。関係者から聞いたんでマジ情報』
と書かれており、背筋が凍り付いてしまう。
な、何でこんな情報が匿名掲示板に書かれているんだ……日付は、一昨日に投稿されたっぽいが、一体どこの誰が?
「あれー、知らなかったんだ」
「は、初めて見たけど……本当なのか、これ?」
「さあ。ネットだからデマも多いし、確認する術がないから、本当だと断言は出来ないけどさあ。意外にこういうのって、関係者がガチリークする事あるのよね。ネット上でも軽く話題になっているし」
匿名掲示板での誰が書いたかもわからん書き込みなど、普通はデマだと思うんだが、これに関しては聖菜ちゃんの中の人である神崎さん本人から聞いているので、俺以外に他にこのことを知っていた誰かが書き込みをしたと言う事だ。
(誰だよ、こんなのを書き込んだの?)
確か実家には婚約破棄された事を報告したとか言ってはいたけど、他にも話していた人はいたのか?
神崎さんに後で確認してみるしかないが……俺としてはシラを切りとおすしかない。
「それにさー、神楽咲聖菜が彼氏持ちってのも何年か前にリークされていたんだよね、この掲示板のぶいロイドスレでさ」
「そ、そんなのリークされていたのか?」
「知らないの? えっと、これよこれ」
「ん……?」
角田がまたスマホで、掲示板で書かれていたらしい、書き込みを俺に見せると、そこには怪文書っぽい書き込みがいくつか書かれていた。
『P既婚』
『Ⅼ同棲中』
『S彼氏持ち』
『Ⅿ彼氏持ち』
「何だよこれ?」
「噂だと不祥事でぶいロイドを引退した姫月マキが書き込みしたリーク情報って噂だよ。ほらほら、ぶいロイドメンバーのイニシャルと既婚か彼氏持ちかの情報が書かれているの」
「いやいや、怪しすぎるじゃん。こんなの鵜呑みにするなよ」
「バッカねー。この『S彼氏持ち』って所を見なよ。これ、聖菜の事じゃないの? 学生時代から付き合っていた彼氏と結婚って言っていたんだから、ちょうど三年前の書き込みとも合っているじゃない」
「え? そうなのかな……?」
S=『せいな』ではあるけど、これだけじゃ確定とは……てか、ぶいロイドで他にSの名前のVはえーっと……いかん、すぐに思い浮かばない。
「だから、今回のも信ぴょう性が意外にあると思って。どうする? 神楽咲聖菜が婚約破棄になったって事は、もしかしたら復帰の可能性もあるんじゃない」
「馬鹿な事を言うなよ。話は終わりか? もう聖菜ちゃんの事は忘れると決めたんだ。俺はバイトがあるから、もう行くぞ」
「あ、待ちなさいって」
これ以上深堀りされると、ボロを出しそうだったので、慌てて角田から逃げ出すように教室を後にする。
やべえな……後で、神崎さんに聞いてみないと。
「ちょっと緊張するな……」
バイトが終わった後、神崎さんの携帯の番号に電話をかけてみる。初めてなんで緊張してしまうが、ちょっと緊急事態っぽいので、連絡せざるを得ない。もしかしたら知っているかも……。
『はい』
「あ、神崎さんですか。夜分すみません、平沢です」
『どうしたの、こんな時間に?』
「実は一昨日、匿名掲示板のスレで神崎さん……っていうか、聖菜ちゃんが婚約破棄されたって書き込みがあったらしいんですけど……ご存知ですか?」
『あ……うん、私も今日、マネージャーさんから、元だけどね。聞いたんだ」
やっぱり、神崎さんも知っていたのか。
わざわざ俺が言うまでもなかったが、大丈夫なんだろうか?
『大丈夫だよ、真偽不明の匿名投稿なんだし。ネットでも大して話題になってないでしょう。みんなデマだと思っている』
「そうですけど、他に婚約破棄の事、話したんですか?」
『あー、家族以外だと友達とか、ぶいロイドで仲良かった子にも話しちゃったけど……平沢君じゃないんでしょう? なら、心配しなくて良いって』
「ちょっとビックリしちゃったと言いますか」
『関係者リークとかたまにあるけどね。私が彼氏持ちだったってのも誰かリークしていたっぽいけど、本気にしていたの極一部でしょう。平気だって、あはは』
実際はどうかわからないが、どうやら神崎さんは平気なようだ。
『それよりさ。明日、暇?』
「え? 大学も休みですし、バイトもないんで暇ですけど」
『だ……だったら、ちょっと家に来てくれない? 手伝ってほしい事があるって言うか……』
「手伝ってほしい事ですか? 良いですよ」
『本当? ありがとう。じゃあ、お昼頃来てね』
思いもかけず、神崎さんから誘われてしまったが、手伝ってほしい事って何だろう?
まあ、神崎さんの手伝いなら何だってしちゃうけどな。
「




