第三話 やっぱり推しの中の人?
今の声……聖菜ちゃんの声に良く似ていたよな?
気のせいか? だが、確かにそっくりだったんだが……毎日のように聖菜ちゃんの声を聞いていた俺がそっくりと感じたのだ。
でも微妙に違うような? まさかね……。
(でも、今の話、聖菜ちゃんとよく似ていなかったか?)
結婚を機に仕事を辞めたって神崎さんの話も聖菜ちゃんが結婚を機にVtuberを引退したって話にそっくりだったし……何より、ファンでもないのに限定グッズをあんなに持っているのは不自然な気も。
「どうしたの?」
「い、いえ。これ本当に貰っちゃっても良いんですね?」
「いいよ。本当に欲しいって人が持つべきだと思うし、何よりお詫びとお礼も兼ねているんだから」
「はは。ありがとうございます」
ゲロをぶちまけられたお詫びとしては、あまりにも高価なお詫びな気がしたが、それ以上に神崎さんの事が凄く気になって仕方ない。
あまりプライベートな事を詮索しちゃいけないのはわかるんだが……もし、この人が『神楽咲聖菜』の中の人だったら?
今、聞いた話も全て合点が行くんだけど、まさかあなたがそうですかともここでは聞きにくいし……。
「あ、もう遅くなっちゃったよね。明日は土曜日だけど、大学とかバイトはあるの?」
「いえ、どっちも休みです」
「そうなんだ。平沢君、一人暮らしなんだって? 大変でしょう、学生で一人暮らしって」
「まあ、大変ですけど、どうにか。神崎さんはいつから一人で暮らしているんです?」
「私も学生時代から。といっても、大学時代にちょっとあるバイトにのめり込んじゃってね。どうにか卒業は出来たんだけど、一年留年しちゃって」
一年留年……そうだ、確か聖菜ちゃんも大学を留年したって話をしていたのを思い出した。
どんどん確信に迫っている様な感じだが、大学を留年する奴なんてたくさんいるだろ?
「へえ、そうだったんですか。何のバイトしていたんです?」
「ちょっとIT会社でバイトしていてね」
IT企業でバイト……VtuberはIT関連の仕事と言えなくはないが、違うのか?
「あ、俺の上着いつ届きます?」
「明日には来ると思うよ。本当にごめんなさい。あ、よかったら連絡先交換しない? 携帯の番号とSNSのID交換」
「いいですよ」
俺の方から連絡先を交換しないか、言おうとしたところで、神崎さんの方から連絡先の交換を言い出してきたので、スマホで連作先を交換する。
これで神崎さんといつでも連絡が取れることになったが、彼女の正体がどうであれ、女性とこうやって距離を詰められたってのはやっぱりドキドキしちゃうな。
「あ、ウチの居酒屋、また来てください。神崎さんなら、いつでも大歓迎ですし。あ、これウチの割引クーポンです。よかったらどうぞ」
「本当? 実はあんまりお酒って飲まないんだけど、平沢君がそう言うなら、またお邪魔しようかな」
「神崎さんなら大歓迎ですって。あ、明日はバイト入ってないですけど、その後は三日連続で入っていますので」
「結構、バイト頑張っているんだね」
「一人暮らしなんで、少しでも稼がないといけないんですよ」
仕送りにも限りがあるし、何より物価高で生活も大変。これでも聖菜ちゃんが引退してからは出費は減った方だけどね。
他にもフォローしているVや配信者は何人も居るけど、一番の推しは聖菜ちゃんだったんでな。
「あ、もうこんな時間なので」
「うん。夜遅くに呼び出してゴメンね。またね。聖菜のグッズが欲しかったら、いつでも声をかけて」
「流石にそんながっつくような真似は出来ませんって」
もう遅くなってしまったので、今日の所は一旦、神崎さんの家を出て自宅に帰ることにした。
彼女の事をもっと知りたいが、取り敢えず確認したいこともあるのだ。
『きゃあーーーー! またダメだったよおお! もう一回トライだ!』
帰宅した後、自分のノートパソコンで神楽咲聖菜の動画のアーカイブを久しぶりに視聴する。
しばらくぶりに見ても、やっぱり可愛い声をしているなと感心してしまったが、今は彼女の過去動画を楽しむために見ているんじゃない。
「うーーーん……似ているような違うような」
聖菜ちゃんの動画をイヤホンを使って出来る限り大きい音量で聴いてみるが、神崎さんの声に似ているような違うような……。
駄目だ何度聞いても確信が持てない。
念の為、神楽咲聖菜の中の人ってワードでネットで検索をかけてみる。
中の人に関する情報はネットで色々と出てはいるんだが……どうももともと、配信活動をしていたって情報があるんだが、顔や本名までは出ていないんだよな。
顔バレしているVtuberとかは結構いるんだけど、聖菜ちゃんは割とがっちり個人情報が守られてる感じだ。
Vtuberってのはそれが強みなんだろうけどさー。
「やっぱり、直接聞いてみるしかないのかな」
あなたは神楽咲聖菜なんですか?と。いや、流石にストレートには聞けないので、まずは声がよく似ているって言われませんかって切り出してみるか。
結局、ネットで調べた範囲では神楽咲聖菜が神崎頼子さんと同一人物かの情報は得ることが出来なかった。
数日後――
「いらっしゃいませー。あ……」
「こんばんは」
「神崎さん。今日も来たんですね。あ、こちらへどうぞ」
いつものように居酒屋でバイトをしていると、また神崎さんが店にやってきた。
わざわざ来てくれるって事は、俺に心を許しているって事なのかな?
「ご注文はタッチパネルでどうぞ」
「うん。ねえ、バイトはいつ終わる? 悪いけど、今夜もちょっと話があるんだ」
「え? 話ですか? 十時には終わりますけど」
「じゃあ、終わったら、ウチのマンションの前に来てね」
「あ、はい」
何の話かと思いながら、また客が入ってきたので、急いで案内へと行く。
バイト中なので、ここではゆっくりと話せないのは難点だが、幸いにも神崎さんの家はこの居酒屋からは歩いて数分程度で着いてしまうような場所だから、すぐに会えるのはとてもありがたい。
「ひいい、遅くなっちまった」
客が予想外に多かったので、定時を少し過ぎてしまい、急いで店を後にして、神崎さんのマンションへと向かう。
「こんばんは」
「どうも。すみません、遅くなっちゃって。それで、話とは?」
「うん……ちょっと、家に来てくれる?」
「あ、はい」
マンションの玄関の前に既に神崎さんはおり、また彼女の部屋に案内される。
何だろうな話って……。
「それで、お話とは?」
「あー、うん。平沢君さ。もしかして、私に聞きたいことなかったりする?」
「神崎さんにですか?」
リビングで神崎さんがソファーに座りながら、神妙な顔つきでそう聞いてきた。
恐らく神楽咲聖菜の事か……俺が同一人物だと思い始めていると気づいている?
「ハッキリさせておきたいと思って。お互い、モヤモヤしたままだと気持ち悪いと思うし」
「う……じゃあ、聞きますけど、神崎さん、神楽咲聖菜と声が似ているって言われていませんか?」
と切り出すと、神崎さんはしばらく考え込み、
「そうだね。同一人物だったとしたら、どうする?」
「どうすると言われましても……」
正直、嬉しい気持ちと困惑の気持ちの両方だ。
やっぱりそうなんだろうか?




