第三十話 推しの嫉妬?
「ちょっと、ちょっと」
「何だよ?」
角田は俺の袖を引いて、近くの電柱の陰に連れて行き、
「どういう事か説明してよ。何で平沢君があんな大物Vと知り合いなの?」
「お、大物Vとは?」
「しらばっくれても無駄。声を聞いて、今回はすぐにわかったね。あの人、『姫月マキ』でしょ。てか、今は夏空ミーナか。どっちにしろチャンネル登録者数百万超えの超大物じゃない。神崎さんと言い、何で平沢君の周囲には人気Vが何人もいるの? まさか、ぶいロイドの関係者だったりする?」
「そんな訳ないだろ。あの人はその……神崎さんの知り合いってか、友達だったみたいで」
「ああ、確かに神楽咲聖菜とは結構仲良かったよね、姫月マキって。なるほど、そっち繋がりか……」
声をちょっと聞いただけで、植田さんが姫月マキであることを見破ってしまったのは、恐るべき聴覚というか、洞察力だが、確かに今の植田さんの声は夏空ミーナの時のまんまだったので、わかる人はわかるのかもしれない。
それにしたって、あんなちょっと聞いただけでわかるもんかね……。
「あのー、どうかしました?」
「はっ! いえいえ……あのー、お姉さん。何処かでお顔を見た気がするんですけど、もしかして動画配信とかやっていたりします?」
「へえ。あなた詳しいんだ」
「はい。Vtuberとか特に大好きで、もう目がないと言いますか。もしかして、お姉さんも好きだったりします?」
「まあ、好きと言えば好きかな」
既に植田さんが夏空ミーナという人気Vであることを角田は確信しており、恐らく植田さんの方も角田が自分の正体に気づいている事を察しているのか、ニコニコ顔で角田の質問に答えて曖昧な返事で受け流していく。
やっぱり身バレはまずいんだろうが、こういう時、どうフォローすれば良いのかわからない。
違うって否定すれば良いのか、それとも思い切って、植田さんが夏空ミーナであることをバラしてしまっていいのか。
流石に俺の一存では決めちゃ駄目だし、植田さんに任せるしかないか。
「そうなんですかー。推しのVとか居ます?」
「推しのV? そうねえ……」
角田が核心に迫るような質問を植田さんにぶつけてきたが、植田さんは少し考え込んだ後、
「ぶいロイドの神楽咲聖菜とか好きだったかな? 知っているでしょう?」
「神楽咲聖菜! もちろん、知っていますとも。可愛いですしね、声もガワも」
「うん。あなたも推しはいるの?」
「もういっぱい居て、挙げたらキリがないんですけど、パステル学園のVとか結構好きなんですよ、私」
「パステル! 私も結構見ているよ、そこのライバー」
二人の話がすっかり弾んでしまい、俺は割り込めなくなってきたが、植田さんは角田と話していてどんな心境なんだろうか。
こんないきなり会った女子ともすぐに打ち解けちゃうなんて、女子って凄いなと素直に感心してしまった。
「それでー、平沢君とはどんな関係なんですか?」
「ん? 付き合っているの」
「えっ!?」
「違いますって! 冗談は止めてください」
「あはは、ゴメンなさい。ちょっとからかっただけだって」
からかうにしても、自分は人気Vtuber兼コスプレイヤーだっての忘れないで欲しい。
こうしている時も周りに植田さんの推しがいたり……するのかな。
「へえ。でも、何だか仲良さそうだったしね。私より神崎さんに知れた方がよっぽどマズイと思うけど」
「だ、だから神崎さんとも……」
付き合っている訳じゃないんだが、神崎さんに他の女子と仲良くしているところはあまり知られたくない。
何でだろうな……聖菜ちゃんの中の人だから?
「神崎……あなたも頼子と知り合いなんだ」
「はい。もしかして、お姉さんも?」
「うん。友達で、元同僚なの」
「へえ……ん? 元同僚? と、ということは……」
植田さんがそう答えると、角田もハッと目を見開きながら、恐る恐る植田さんを指差し、
「まあ、そういう事。悪いけど、ここじゃあまり大きな声で言えないので、今ので察してくれると嬉しいんだけど」
「は……はい。じゃあ、やっぱり! お姫様……ですか?」
「話が早くて助かるよ。じゃ、私はちょっと用事があるからこれで。詳しい話はそこにいる平沢君から聞いて。彼なら事情知っているから。またねー」
「はい! さ、さようなら」
と言い残して、植田さんは俺達の元から去っていくが、今の言い方だと俺の方から話しちゃっても構わないって事だよな?
「やっぱりそうだったんだー。姫月マキ、SNSで見た通りの綺麗な人だったねえ。てか、あんな大物と知り合いなら、早く言ってくれてればよかったのに」
「俺だってまだ知り合ったばかりなんだって。てか、声を聞いただけでよくすぐにわかったな」
「私のVセンサーを舐めないで欲しいわね。てか、ミーナの声、まんまだったじゃない。あれは誰でもわかると思うよ」
確かに一瞬だけ、夏空ミーナってか姫月マキの声を披露していたから、俺でもすぐにわかっていたかも。
てか、あの人はあまり身バレとか気にしない人なんかな?
SNSでもたまに素顔を出して、コスを披露しているし、そういうのを気にしていたら、出来ないことなんかも。
「はっ! 連絡先を聞いておくんだった。ああ、もうぶいロイドのオーディションのアドバイスを聞いておきたかったなあ。神崎さんにはちゃんと話しておいてよ」
「わかったよ」
まあ、また会いたいっていうなら、俺の方からまた話を通しておけばいいが、そんな事より角田のオーディションのことか。
俺としてはアドバイス出来ることはないんだが、神崎さんもちゃんとアドバイスしてくれるんかな。
「出るかな……あ、出た」
『もしもし、平沢君?』
「神崎さん。今、ちょっと良いですか?」
『うん。別に予定はないけど、どうしたの?』
夜中になり、神崎さんに電話をして、今日角田がぶいロイドのオーディションを受けると言った事を話してみる。
『へえ、角田さんがね。オーディションを受けるんだ』
「そうなんですよ。それで、神崎さんのアドバイスが欲しいって」
『私がアドバイス出来る事なんて、あるかなー。正直、何でオーディション合格したのか、私だってよくわからないんだし』
倍率が千倍以上あるオーディションとなると、もはや何をやれば合格確実なんて、誰にもわからないのが実態なんだろう。
それでも、やっぱり合格経験のある人からの生のアドバイスは聞きたいわな。
神崎さんと植田さんはどうやって千倍の難関を突破したんだが。
「どうしても話を聞きたいって言うので。自己PRの動画とか送るんですよね」
『うん。書類審査と自己PRの動画を送って、一次審査を合格したら、何回か面接があるって流れだよ』
「なるほど。ちなみに神崎さんって、どんな動画送りました?」
『私はねー……どうだったろう? すぐに思い出せないかな』
もう何年も前のだから、すぐに思い出せないのも無理ないか。
『わかったよ。角田さんに会って話をしてみる。早い方が良いよね? 私はいつでもいいから』
「ありがとうございます。よかったー。断られたらどうしようかと」
『ふーん。角田さんの事、そんなに応援しているんだ』
「え? そりゃ、まあ……オーディション受けるってなら応援はしますよ」
『だよね。彼女、もしオーディション通過して、Vデビューしたら、やっぱりファンになるんでしょう』
「ファンというか、そりゃ配信は見ますよ。どんなのか気になりますし」
『はいはい。友達ならそうだよね。んもう、ことりにもデレデレしてー』
取り敢えず、角田と会って話をするって事にはなったが、何だか神崎さんがやたらと不機嫌になってしまった。
俺、怒らせるような事、言っちゃったかな……?




