第二十八話 これは浮気になる?
『そうなんですよ。昔の友達と久しぶりに会ってね。そこで、カラオケで大盛り上がりしちゃって♪ 昔の歌なんかも歌って、ちょっとした生ライブみたいな感じでー』
チャット欄のコメントに返信する形で、植田さんはそう答えていくが、これは明らかに神崎さんの事ではないか。
一応、昔の友達ってのも嘘ではないんだろうが、流石に神崎さんというか聖菜ちゃんの名前は出さないよな……?
いくら何でもそこまではやらないと信じたいが、やっぱり俺も同席していたので、ドキドキしてしまう。
『あ、そうそう。今度ね、私もライブやりたいなって思っているの。そう、ライブ。何か久しぶりに歌いたくなってさ。ゲストも呼びたいなって』
「ゲスト?」
誰だろう? まさか、神崎さん……ではないよな。
聖菜ちゃんの権利はぶいロイドの事務所が持っているので、勝手に使う事は出来ないはず。
神崎さんを出すにしても、別のVに転生させたうえで出さないと無理だろうし、そもそも神崎さんがやるとは思えない。
『そうなの。ライブ、私好きなんだよね。きゃー、何かこのセーラー服ちょっと寒いかも。やっぱり、今の時期じゃキツイかなあ。暖房効かせているんだけどね』
半そでのセーラー服とミニスカでは当然のことながら、今の時期では寒いだろうが、植田さんの生足、真っ白でめっちゃ綺麗なんだよな。
相当手入れしているんだろうけど、ついさっきもカラオケボックスで見たばかりなので、これが加工じゃないってのが凄い。
『その友達もさ、最近、ちょっと失恋したみたいで、ショック受けていたのよね。そうなの、うん。あはは、私もまあ、あれだったんだけどさ。少しは元気づけられたかなって思って』
失恋って……思いっきり神崎さんの事じゃないか。
正確には婚約破棄だけど、流石にそこまで詳細には言わなかったが、これ神崎さんが見ていたら、どうするんだ?
絶対に怒りそうだけど、植田さんも何を考えているのやら……これでは配信から目を離せん。
『んでねー、友達と一緒にカラオケでコスして遊んだりしたのー。あ、これは後でメン限動画で詳しく話そうかなあ。プライバシーに関わるしね』
「なっ!」
まさか、メン限の動画で神崎さんと俺の事を話したりは……しないよな?
限定公開とは言え、植田さんがそこまで非常識な事はしないと思いたいが、もし何か変な事を話されたら気が気ではない。
神崎さんだけじゃなく、俺にも関わる事だからな……後で、植田さんに直接言っておかないとだけど、それ以上に何を言ったのか把握しておく必要あるからな。
『あ、そうそう。この前、みんなにオススメされたゲームをちょっとやってみたんですけどー。すごく、面白くて今度配信でもやろうと思うんですよね。それで……』
何て考えていると、植田さんは今度の配信でやるゲームの話を始め、それ以降は今日のカラオケの事を話すことはなかった。
ここまで、ハラハラしっぱなしの配信の視聴は初めてだな……取り敢えず、植田さんのメンバーシップに加入しておくか。
値段は……一か月、四百九十円ね。
割と値段は普通だけど、聖菜ちゃん以外のメンバーシップに入るのは初めてだな。
ちょっと罪悪感があるけど、別に浮気とかじゃないからね。
『みなさん、今晩も配信見に来てくれてありがとうございますー。また会いましょうね、おやすみー』
その後、二時間弱で植田さんの配信は終わり、おやすみの挨拶をして、俺も一息つく。
最初の頃はハラハラしてしまったが、終わってみたら、普通の雑談配信だったな。
友達とカラオケに行って、ゲームの話とか新しいコスの話とかそんな他愛もない話で盛り上がっていたが、何て言うかやっぱりトークのスキルは高いなって思った。
声も可愛いし、話も上手いし、何よりも首から下だけで顔は晒してなかったとは言え、セーラー服のコスを晒していたってのが、わかっているっていうか。
(そんな事より、神崎さんにちょっと報せた方が良いかな?)
杞憂かもしれないし、神崎さんも植田さんの配信を見ているかもしれないが、念の為ね。
『神崎さん、さっきの植田さんの配信を見ましたか?』
とラインでメッセージを早速送ってみると、即既読が付き、
『うん、見たよ』
すぐに短い返事が着た。
通話モードに切り替えないかと言うと、神崎さんも応じてくれたので、
『もしもし。どうしたの、平沢君?』
「すみません、夜分遅くに。さっきの植田さんの配信で俺達の事、話してましたよね?」
『ああ、カラオケに行ったって話? それがどうしたの?』
「だ、大丈夫なんですかね? 神崎さんの事、話したり……」
『大丈夫だよ。彼女だって、まさか私の名前を出したりしないって。それに、友達とカラオケに行ったって話くらい、別に普通でしょう。私だって、地元のリア友と遊びに行った話はしていたじゃない。でも、それで友達が特定されたとか、相手を怒らせたとか一度もないから安心して大丈夫だって』
「あ、そうですか」
ちょっと心配し過ぎかなって思ったが、神崎さんはあっけらかんとした口調でそう言ってきたので、考えすぎだったのかと思う。
『彼女も元ぶいロイドのライバーだし、他人のプライバシーを不用意にバラすような真似はしないって。仮にそれをやったら、アカウントごとバンされるリスクだってあるんだからさ』
「そ、そうですか」
なるほど、個人情報を漏洩したら、そういうリスクもあるわけか。
植田さんだって配信で稼いでいる人なんだから、そのくらいの事は承知の上だよな。
でも、あのリーク情報は姫月マキこと植田さんの仕業だって噂だが……。
「でも、何か姫月マキがリークした情報ってありますよね。聖菜ちゃんが彼氏持ちだとか何とか」
『あー、あれの話? どうなんだろうね? 彼女がやったって噂もあるけど、証拠はないしさ。匿名掲示板でのリークだし、確かめようがないんだよね』
前に角田が見せた掲示板に投稿された『怪文章』が姫月マキがやったって話。
てか、何処からそんな話が出たんだろう? 植田さんがやったって証拠は……当然ないんだよな?
『心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だって。何かあったら、私がどうにかするから。ね?』
「は、はい。すみません、ちょっと心配し過ぎでしたね」
出過ぎた真似だったと反省したが、そうだよな。神崎さんも植田さんも大人なんだし、配信に関してはプロなんだから、出過ぎた真似はしないと信じたい。
「実は俺、植田さんのメンバーシップに入ったんですよ」
『へえ。ミーナの。良いんじゃない』
「そうなんです、はは」
『聖菜一筋じゃなかったんだ。他のVに浮気なんてちょっとショックだな、私』
「えっ!?」
いきなり、神崎さんが聖菜ちゃんの声真似をしてそう言ってきたので、ドキっとしてしまったが、他のVのメンバーシップに入ったら、浮気になるのか?
「う、浮気なんてとんでもない! 俺は聖菜ちゃん一筋なんだって!」
『本当〜〜? その割にことりにデレデレだった気がするんだけどなあ』
となおも聖菜ちゃんは問い詰めていくが、植田さんってか夏空ミーナのメンバーシップに入ったのは別に推しを乗り換えたとかじゃ断じてないんだ!
『ナンテね。どうだった、聖菜に妬かれた気分は?』 「へ? あー、はは! いや、ドキっとしましたよ!」
「アハハ、ビックリさせちゃった? まさか本気にするとは思わなかったから」
何だ神崎さんなりのサービスだったのか。
ビックリしたな、もう……神崎さんもファンサービス旺盛な方だな。
『ま、おふざけはともかくさ。あんまり、他の女子にあからさまにデレデレするの止めた方が良いと思うけどな。私も微妙な気分になるし』
「は、はい。気をつけます」
急に真面目な口調で神崎さんがそう言ってきたが、まさか本当に怒ってたりする?




