第二十七話 推しのヤキモチ?
「どう、楽しいでしょう?」
「あはは……楽しいと言うか、恥ずかしいというか……」
神崎さんが歌い終わった後、植田さんはご満悦そうに神崎さんに聞くと、彼女は恥ずかしそうな笑みを浮かべて曖昧な返事をする。
楽しいかどうかはともかく、セーラー服姿で聖菜ちゃんがカラオケをしたなんて知れたら、凄いバズっちゃうだろうな。
「ほら、コスも楽しいよ。皆に見て楽しんでもらえるんだしさ。その分、エステやジム行ったり、整体とかもして外見には気を遣わないといけないけど、頼子なら美人だし絶対に受ける。それを生かさないのはもったいないって」
「別に生かそうとは思ってないし……てか、一人でも十分、やっていけているでしょう? 何で私と一緒にやりたいの?」
「わかってないなあ。一人でもタワマン暮らしで、それなりに贅沢できるくらい稼いでいるけど、それがいつまでも続くかわからないでしょ。それに最近、フォロー数もメンシの伸びも停滞気味でさ。フォロー数を増やすにはやっぱり話題になることをしないといけないと思って。炎上はまずいし、仲間を増やした方が幅が広がるでしょう」
なぜ、植田さんが神崎さんをしつこく勧誘してくるのかと不思議に思っていたが、そういう事だったのか。
新規の客を開拓するために、ちょうどぶいロイドを引退して、しかも自分と同じように結婚が駄目になって、美人の神崎さんと組もうって事か。
うーん、商売上は真っ当なんだろうけど、神崎さんが乗り気ではないなら、あんまり無理強いせん方が……。
「平沢君もそう思うよねー?」
「え? あ、いや、俺は神崎さんの好きにして良いと言いますか……本人が嫌なら、無理強いしない方が良いかと」
植田さんはふと俺の隣に座り、俺の腕に絡みつきながら、体を密着させてそう言う。
ちょっと近いって……香水のいい匂いもするし、植田さんも大胆な事をするなあ。
「君もさー、頼子がまたVとして活動してほしいなら、そう説得しなよ。平沢君の言う事なら聞きそうだし。ねえ、お姉さんのお願い♪」
「う……あはは、まあ俺は聖菜ちゃんのファンだったので、出来れば聖菜ちゃんをまたやって欲しいなってだけで」
「ふーん。あ、平沢君、私のチャンネルフォローしてくれている? よかったら、してくれると嬉しいなあ。夏空ミーナで検索すればすぐ出てくるから」
「あ、はい。わかりました。じゃあ、今、やっちゃいますね」
何だか植田さんがやたらと体を密着させながら、甘い声でチャンネル登録をしてくれと頼んできたので、すぐにスマホを取り出して、『夏空ミーナ』のチャンネルを検索し、登録を済ませる。
「しました」
「きゃー、ありがとう。実はさ、今晩も配信する予定だったんだよね。良かったら、見てくれる?」
「わかりました」
ここまで言われたら、彼女の事も応援しないわけにはいかないので、今晩は植田さんの配信を視聴してみよう。
(ちょっとサービス良過ぎるでしょ、植田さん)
見たら、夏空ミーナのチャンネル登録者数も百万以上、インスタや他のSNSも数十万フォローは当たり前の超インフルエンサーのお姉さんが直々にこんな事をしてくれるなんて。
「あー、オホン。二人とも随分とイチャ付いているじゃない」
「えっ! い、いえ、イチャついている訳では!」
植田さんと話し込んでいると、向かい側の席に座っていた神崎さんがあからさまに不機嫌そうな顔をして、咳き込みながらそう言ってきたので、慌てて植田さんから離れる。
「えー、イチャついていたんじゃないの? 私、平沢君と話していて、凄く楽しかったんだけどなー」
「そ、そうですか? そう言ってくれるのはとっても嬉しいんですが……」
「やっぱり、イチャ付いていたんじゃん。まあ、いいよ。姫月マキも可愛くて人気あったしね」
「なーに? 平沢君とは付き合っている訳じゃないんでしょう? だったら、良いじゃない。妬いているってことはやっぱり彼と……」
「別に付き合っているでも妬いている訳でもないから。話はもう終わり? 取り敢えず、コスや転生の話なら、今はその気がないって事だけは言っておくから」
と、神崎さんはやっぱり不機嫌を露わにした口調で、ジュースを飲みながら、きっぱりとそう断り、植田さんも苦笑しながら、
「はいはい。ま、気が変わったら、いつでも言ってよ。また頼子とも仲良くしたいしさ。平沢君もまた聖菜と姫月マキのコラボ見たいでしょう?」
「まあ、はい」
姫月マキと聖菜ちゃんってそんなに頻繁にコラボしていたかなって思ったが、二人が復帰してくれると言うのであれば、コラボ配信は改めて見てみたい。
なんせ中の人とお知り合いになれちゃったんだから、違う目線で配信を見れるだろうしね。
「じゃあ、今日はありがとう。二人とも今晩の配信、よかったら見てねー」
カラオケボックスを後にし、植田さんが俺達と軽く手を振って別れる。
色々な意味で凄い人だったな……美人だし、気さくで、声も可愛らしいしで、そりゃ人気も出るのも納得か。
「むうう……」
「ど、どうしました、神崎さん?」
「別に。ことりと随分と楽しそうだったじゃん。ああいうのタイプだったんだ」
「いえ、そういう訳では……どうしたんです、何か機嫌悪いみたいですけど?」
「機嫌悪くないし。コスプレなんて、そんなに良いかしら、全く……」
別にコスプレが良かった訳じゃないんだけど、綺麗なお姉さんからあんなに密着されてお願いされたら、どうしてもドキドキしてしまうっていうか。
てか、あんな営業をいつもしているのか、植田さんって?
「で、でも断ってくれたのは嬉しいです。俺としては、神崎さんにはまた聖菜ちゃんをやって欲しかったので」
「本当? ふふ、まあそういう事なら許すかな」
「? 許すとは?」
「何でもない。とにかく、転生もコスも考えてないから、安心してね。じゃ」
「あ、はい。また」
不機嫌だった神崎さんが最後は安堵した表情をしたので、ちょっと首を傾げたが、まあ、聖菜ちゃんへの復帰を第一に考えてくれているってのは確かに救いか。
夜中になり――
「さて、植田さんの配信はそろそろかな」
風呂も夕食も済ませた後、植田さんこと、夏空ミーナの配信を見るために、パソコンを起動させて、待機する。
配信では何をするのかなーっと、楽しみにしながら待機していると、ミーナの可愛らしいSⅮ画像が表示されて、配信が開始された。
『こんばんはー、夏空ミーナです。配信見に来てくれてありがとう』
「お、おお……これが夏空ミーナ……って、これ植田さん本人かい」
配信が始まると、夏服のセーラー服とミニスカートを履いた植田さんが首から上を隠した状態の動画を右上の方に表示しながら挨拶をする。
てか……声、めっちゃ可愛いなおい。
思い出すと、これは姫月マキの声そのまんまなんだが、改めて聞くと、何か凄く可愛く思えてきてしまった。
『みなさーん、今日はセーラー服にチャレンジしてみましたー? 似合いますか?』
『超似合うっ!』
『可愛いなんてもんじゃない!』
『太腿も最高!』
と、チャット欄も興奮の嵐で同接も一万二千人以上いる。
てか、これは結構……うん、興奮するな。
ついさっきまで、このミーナ本人とカラオケをしていて、チャイナドレスのコスも拝んでいたんだが、あの人がこんな配信をしていると思うと、何か妙な背徳感を感じてしまう。
『ありがとー。今日はね、昔のお友達とカラオケに行っていたの。うん、久しぶりにねー。めっちゃ楽しかった。あ、女の子だから安心してね♡』
「ぶっ!」
早速、ミーナが今日俺と神崎さんと一緒にカラオケに行ったことを話してしまい、思わず吹き出しそうになる。
ちょっ、まさか今日の事、配信で話したり……しないよな?




