第二十六話 コスプレ生ライブ
「ええ? こ、ここでコスプレするの?」
「そうだよ。いいじゃん、レンタルも無料で出来るんだしさ。別に写真撮って、上げたりはしないから、試しにやろうよ。君も良いでしょう?」
「お、俺ですか? いやー、俺は別にどうでも……」
「頼子のコス見たくないの? 神楽咲聖菜のコスプレ姿をさ」
見たいか見たくないかと言われたら、そりゃ見たい。
神崎さんも意外にそういうの似合いそうな気はするけど、本人が嫌がっているのに、見たいとはちょっと言えないな。
「わ、私もやるの?」
「当り前じゃない。ちょっと待っててね。衣装、いくつか持ってくるから」
と言って、植田さんは部屋を一旦出ていってしまった。
「…………何か、思いもかけない展開になっちゃったね」
「ですね。あの、やっぱりハッキリと断った方が良いんじゃないですか? 転生する気はないんですよね?」
「今のところは……」
神崎さんは力なくそう答えるが、もしかしてこの様子だと、少しは転生してVをやりたい気持ちもあるって事か?
実際にどうするかは神崎さん自身が決める事なので、俺はあまり首を突っ込みたくはないんだが、迷っているのだとしたら、俺は背中を押すべきなんだろうか。
「流石にコスをして、写真を晒すのはちょっとね……そこまでできる勇気はないし」
「ですよね。興味もないんですか?」
「ないよ~~! ことりも何で私なんかと一緒にやりたいのかよくわからないんだよね。確かに仲は良い方だったよ。コラボ配信もしたし、一緒に食事や飲みに行ったことは何回かあったけど、プライベートでの付き合いはそんなになかったのに」
植田さんは神崎さんと友人だったと言っていたけど、神崎さん自身はそこまで仲が良かったって自覚はないって事か。
そういうの結構あるよな。クラスでもそれなりに話したりするけど、友達と言えるかは微妙な関係の奴って。
神崎さんにとっては植田さんこと、姫月マキも友達と言えるかは微妙な関係だったんだな。
「お待たせー。はい、何着か持ってきたよ」
「ど、どうも……」
何て話している間に植田さんはセーラー服やチャイナドレス、メイド服なんかを植田さんは持ってきて、神崎さんに見せつける。
「ほら、着なよ。折角、カラオケに来たんだしさ。何か歌おう。そうだ、ぶいロイド時代の歌も結構、入ってるから、久しぶりに生ライブと行こっか」
「本当に着ないと駄目?」
「私も着るからさ。どれにするー? 私はチャイナドレスにしょうかなあ。頼子はセーラー服とか似合うんじゃない?」
「無理無理、着た事ないし。中高と制服はブレザーだったし」
「無理無理言わないでさ。ほら、平沢君も言ってやりなよ。見たいんでしょう、頼子のコス?」
「お、俺に聞かないでくださいよ」
なおも渋っていた神崎さんを説得させろとばかりに、植田さんは俺に話を振ってきたが、見たいか見たくないかと単純に言われたら、正直言って……見たい。
「平沢君、私のコスプレ見たいの?」
「いい? いやー、あの……」
神崎さんが上目遣いでそう聞いてきたので、俺もドキっとしてしまい、目を泳がせる。
どうしよう? 正直に言ってしまった方が良いのかこれは?
「どうなのー、平沢君?」
「う……見たいと言えば見たいですけど、俺は別に……」
「だってさ」
「そ、そう……わ、わかった。じゃあ、着る。着替えは何処でするの?」
「ふふ、わかればよろしい。更衣室はこっちにあるよ。平沢君も何かコスプレしてみたら? 衣装代、こっちで出すからさ」
「遠慮しておきます」
神崎さんにさせてしまって申し訳ない気もするが、こっちはマジでコスプレには興味はないし、着る気もないので勘弁してほしい。
しかし、妙な展開になってしまったな……神崎さんは
「お待たせー。じゃーん、どうかな?」
「おお……」
植田さんと神崎さんは着替えてきて、部屋に戻ってきたが、植田さんはセクシーで太腿もスリットから露わになっているチャイナドレスに身を包み、神崎さんは恥ずかしそうにしながらも、セーラー服に身を包んでいた。
「いやー、頼子、セーラー服とかわかっているじゃん。結構、ディープな趣味だよ、それ」
「な、何となく選んだだけだって。もう、絶対に写真とか撮らないでね。撮影不可だから!」
と、頬を赤らめながらも、神崎さんはミニスカのセーラー服を着ながら、ソファーに座るが、何て言うかこう……年齢不相応なところが逆に興奮してしまう。
「ど、どう?」
「ええ? ああ、可愛いと思いますよ!」
「むうう……アラサーの女がセーラー服なんておかしいと思っているでしょう」
「そんな事思ってないですって。てか、アラサーって……」
「あー、もう、例えばの話! さ、何か歌おうか? 平沢君、リクエストある? 君さ、聖菜のファンだっけ? だったら、頼子にも聖菜の歌、歌ってほしいでしょう?」
「まあ……でも、いいんですか?」
「いいんだって。個人的なカラオケなんだし。んじゃ、平沢君へのサービスとして、姫月マキのファーストシングル歌ってあげようかなー。あ、ちゃんとあるじゃん。ふふ、最近のカラオケはVの歌も充実してるんだねえ」
と言って、植田さんはノリノリで自身が歌っている姫月マキの歌を入力し、マイクを持って歌い始める。
「私は孤高のお姫さま~~♪ 配下の者たち! しっかり、私をフォローしなさいっての!」
おお、これが人気Vtuberの生歌ライブ……この歌は一回か二回、聞いたくらいだけど、カラオケで聴くと、動画サイトで視聴するのとはまた違った感じがするな。
「点数は……ええ、九十一点? 本人が歌っているのに、何で百点じゃないのよ、もう。はい、次は聖菜の番」
「わ、私? じゃ、じゃあ……そ、その前に平沢君、歌いなよ。君の歌も聞きたいな」
「俺ですか? 良いですけど、俺、あんまり流行りの歌、知らなくて」
「それでも……『聖菜のお願い。コスしたんだし、良いでしょう?平沢君の歌、聞きたいなあ♡』」
「う……そうですね!」
神崎さんが聖菜ちゃんの声真似をしてお願いしてきてしまったので、受けるしかない。
推し本人から言われたら、そうするしかないだろうもう。
「はあ、はあ……どうでしたか?」
「きゃー、結構上手だったじゃない。九十四点だって」
某アニメの主題歌を歌ったのだが、神崎さんこと聖菜ちゃんが目の前で見ているとなると、つい力が入ってしまった。
「ふふ、さあ、次は聖菜の番だよ。あんたの歌、歌ってあげなさいって」
「わ……わかった。じゃあ、一番好きな歌ね。『メルトラブ』で良い?」
「は、はい! 俺、その曲めっちゃ好きです」
「うん。えっと……あ、あるね」
俺が一番好きな聖菜ちゃんの歌を歌ってくれると言うので、ドキドキしながら、待つ。
おいおい、マジで生歌が聞けるの? 聖菜ちゃんのライブとか、オークションでチケットでプレミア価格が付いていたのにさ。
「じゃ、じゃあ行くね」
入力が終わると、神崎さんは意を決したようにマイクを持ち、曲が流れ始める。
「あれは小さな日の思い出~~……何も見えなかった……♪」
静かな口調で神崎さんが聖菜ちゃんの歌を聖菜ちゃんのまんまの声で歌い始める。
マジか……カラオケとは言え、本当に聖菜ちゃんの生ライブが聞けるなんて。
あまりにも感激過ぎて、もう死んでも構わないくらいの気分になってしまい、神崎さんが恥ずかしそうに歌っている姿をただ凝視していったのであった。
「ど、どうだった?」
「もう最高です! ほら、九十六点ですよ」
「あはは、やっぱり百点は出ないんだね」
いつの間にか神崎さんの歌も終了してしまったが、俺はもうはち切れんばかりの拍手で聖菜ちゃんの生ライブをたたえる。
これはもうファンとしては嬉しすぎるって。いかん、こんな特別扱いされてしまって、悪い気分になってきたよ。




