第二十五話 人気Vの勧誘
『こんばんはー。聖菜です。今日は姫月マキちゃんをゲストとしてお迎えしていまーす』
『はーい。姫月マキでーす。配下の者たちも付いてきているかなあ? きゃー、聖菜とのコラボ久しぶりだねえ。何年ぶり?』
『先月もしたと思ったけど、久しぶりー。元気していた?』
『うん。今日は聖菜とのコラボだから、ちょっと張り切っちゃって。やっぱり、聖菜とのコラボは癒されるしさー。同期だからやりやすいし』
『えー、本当? そう言ってくれると嬉しいなあ。あ、今日はリズムゲーム対決をするんだよね』
『うん。ふふ、前回は不覚を取ったからー。こんばんはリベンジするよー』
ふと、神楽咲聖菜と姫月マキのコラボ配信の事を思い出すが、確かに二人は結構仲は良かった気はする。
しかし、聖菜ちゃんと姫月マキという元ぶいロイドの大物が俺の目の前に……いかん、そう考えると興奮してきた。
「あのー、それで俺にも関係あるお話とは?」
「関係あるっていうかさ。頼子とまた組んでVをやりたいなって。出来ればコスも」
「え、ええ? 私もコスやるの?」
「そうだよ。頼子も美人だからさ。二人でやれば受けるって。その為にこの話を持ち掛けたの。話題にもなるし、絶対にバズるって。元神楽咲聖菜と姫月マキの共演とかさ」
「共演はともかく、コスはちょっと……やったことないし」
神崎さんに別のVとして転生しようって持ち掛けるだけじゃなくて、コスプレまでやろうって誘っていたのか。
それはそれで見てはみたいんだけど、神崎さんは明らかに嫌そうにしているし、それって俺に関係あるの?
「もしかして、彼と付き合っているから、嫌なの?」
「だから、付き合っている訳じゃないんだって」
「なら問題ないじゃない。彼氏はいないんでしょう? 誰に遠慮する必要があるのよ? 楽しいよ、コスプレって。皆が私が可愛い衣装を着て、喜んでくれるの。Vの時とはまた違う楽しさがあるっていうか」
「そ、そうかもしれないけど、私はちょっと……顔出しもするようだし」
「顔出しが嫌なら、顔だけ隠して、衣装を着た状態で配信すれば良いだけじゃない。実際、私もよくそうしているし、その方が男子は想像を駆り立てられて、却って興奮するの。ねえ、そう思うでしょう?」
「は、はあ……」
よくわからないが、確かに顔を隠しながら、コス写真を上げたり、胸元とかをチラっと晒しているのはSNSでよく見かける気はする。
俺は理解できないが、そういうのが興奮するって人もいるのか?
「まだ何の仕事をしたいか決めてないんでしょう。だったら、またVをやれば良いじゃん。私、今は個人でやっているけど、ぶいロイドに居た頃より、全然稼げているよ。事務所にいた頃と違って、配信とかコラボ先とか、ライブの時の会場の手配とかも全部自力でやらないといけないから、大変ではあるけど、やる気があるなら、気楽に出来て良いよ」
「う、うーん……そういうのはちょっと……」
それを聞いてもなお、神崎さんは乗り気でない顔をしているが、なまじ顔なじみだから、断りにくいってのはあるのかね。
しかし、姫月マキってのは確か『ぽんこつお姫様キャラ』みたいな感じだったと記憶しているが、中の人はかなり強引な性格しているんだな。
お姫様っぽいと言えばお姫様っぽいんだけど、すごく可愛らしい声をしていた気がするので、イメージとはちょっと違うかも。
「あなたも言ってあげてよ。頼子のコス見たいんじゃないの?」
「え? いや、俺は別にそんな事は……」
「本当? 付き合っていようがいまいがどうでも良いんだけどさ。もし、あなたに気を遣って、頼子がVに復帰出来ないんなら、一緒に説得してほしいなって思って」
「俺がですか?」
「そう。だから、呼んだのよね。やっぱり、彼氏バレはまずいっていうか、婚約破棄されたばかりなのに、また新しい彼氏が出来たとか知られたら、更にイメージ悪くなるじゃない。一応、私も今はドル売りしているしさ。頼子がVやレイヤーとして活動してほしいなら、彼氏さんの協力は必要だと思うし。ねえ、わかるよね?」
「ま、まあ……そうかも」
お互い結婚というか、彼氏がいることを隠しながら、V活動をしていたもの同士なので、そのあたりのリスクはよくわかっているのだろう。
というか、俺は神崎さんに聖菜ちゃんに復帰してほしいわけで、コスプレイヤーになって欲しい訳じゃないんだけどな。
「頼子はどうしたいのよ?」
「私は……取り敢えず、春から中退した大学に戻ろうかなって考えているの。書類審査と面接だけで復学できる制度があるから、それで」
「へえ、そんなのあるんだ。でも、大学行きながらなら、一応Vは出来るんじゃない。ぶいロイドにも実際、いたじゃん。現役女子大生の子」
「私は中退しちゃったけどね」
神崎さんは中退してしまったが、他にも現役の女子大生をやりながら、ぶいロイドのライバーをやっている子がいるってことか。
まあ、学生も意外に忙しいんだけどな……出来なくもないんだろうけど、俺はサークルとかバイトもしたいんで、配信活動に時間を割く気は全然ないんだよね。
「ご、ごめん。だから、配信活動はしばらくはちょっと……」
「やる気しないってこと? ま、無理にとは言えないけどさ。まさか、聖菜に復帰したい気持ちあるの?」
「ちょっとだけ……聖菜以外のキャラをやるイメージ湧かないって言うか……」
「そんなにあの子に愛着あったんだ。ま、聖菜のキャラは私も好きだったし、姫月マキも気に入っていたけどさ。しょうがないじゃん。私なんて、事務所と揉めちゃったから、絶対に戻れないし」
「あれ、でも和解したって噂聞いたけど」
「和解したからって、お互い納得している訳じゃないんだって。私、悪い事したつもりはないんだし。姫月マキのファンには悪いけど、今更、事務所に頭を下げて戻るの無理って感じで」
と、ジュースを飲みながら、姫月マキこと植田さんはそう軽い口調で言うが、事務所と何かあったんだか。
「あの、やっぱり復帰は難しいんですか?」
「さあ。頼子は不祥事で引退したわけでもないけど、炎上しちゃっているからね。君も知っているでしょう。聖菜のグッズやCDをたたき割った写真を上げたり、ネットオークションで売り飛ばしているファンなんかも結構見かけたし、グッズの売り上げも減ったなんて噂も聞くからさ」
ああ、確かそんな写真を俺は見た記憶はあるが、流石に俺はそこまでは出来なかったよ。
聖菜ちゃんのグッズを破壊するなんて、そりゃ真のファンではないだろう。
「聖菜への復帰を考えているなら反対はしないけど、リノー社の上の方って、結構頭固いからさあ。炎上して引退したライバーの復帰なんて、よっぽどじゃないと認めないと思うよ」
「かもね……」
と、神崎さんも力なく植田さんの言葉に頷く。
そんなに神崎さんって、リノー社に恨まれているのか? 確かに三百万人の登録者数を誇るVの突然の結婚しての引退は痛いかもしれないし、ファンだったから気持ちはわかるんだけどさ……。
「とにかく……ゴメン。コスプレは流石にちょっと」
「ふーん。そのプロポーションを生かさないの持ったないと思うけどね。私も十代まではファッション何それみたいな地味な田舎娘だったけど、今は色々なファッションするの楽しくてさー。ファンとの交流も楽しくて、気晴らしになるし。試しにやってみなよ。ここで」
「ここで?」
「そう。知らない? このカラオケボックス、色々な衣装のレンタル出来るんだけど」
「え、ええ?」
植田さんが思いもかけない提案をしてきて、神崎さんもビックリして声を張り上げる。




