第二十五話 相手はまだ諦めていない?
「本当に付き合ってないんだ」
「本当ですって。そんなふうに見えましたか?」
「あはは、仲良かったしさ。まあ、そうでなくても正直、羨ましいなってのは思っているよ。青春しているんだなって」
「青春……ですか?」
「うん。私も大学、一年ちょっと通っていたけどさ。あんなだったのかなって思って」
と、カフェラテを飲みながら、遠い目で神崎さんが言ったが、昔を思い出したのかな?
「復学しても青春のやり直しが出来るって訳でもないと思うんだけど、取り敢えず自分を見つめ直して、卒業すれば何か踏ん切りが付くかなって。ちょっと甘いかな考えが?」
「い、いえ。良いと思いますよ。でも、大学に戻ったら、Vとしての活動は難しいですかね?」
「どうだろう。一応、学生生活と両立している人はいるけど、私はそっちの活動の方が楽しくなっちゃって、結局中退しちゃったからね。まあ……ぶいロイドの方に戻るのは当面、無理って思っておいた方が良いかなって」
当面無理か……間宮さんの話を聞いても、何か脈もなさそうだし、聖菜ちゃんの復帰の夢は二度と叶わないと覚悟しておいた方が良いのかも。
そんな復帰が出来ないほどの不祥事だったんかね、あれは?
結婚報告って別に悪い事じゃないと思うんだけど、それでファンが減っちゃったとなると、事務所としていくら結婚が駄目になったからって、簡単に許せるもんじゃないって事なのか?
「あのー、姫月マキって、何で引退したんでしたっけ? 何か不祥事を起こしたとかって話でしたけど」
「あ、ああ……私も詳しい事情は聴いてないんだけど、彼氏との結婚を事務所が口止めしたのに漏らしちゃったとか何とか……それが契約違反って事らしくて」
「そんな事情でしたか」
ネットで囁かれていた話と大体、同じって事か。
SNSで見た感じ、中の人も美人だったのに離婚したって事は、何かしら問題があったって事か。
「久しぶりにあの子に会ったんだけど、随分と変わったなって。前より美人になっていた。相当、美容に気を遣っているみたい」
「コスプレイヤーもやっているんですよね?」
「うん。Vとしての活動以外にもコスプレ写真や動画を有料で配信して、それで稼いでいるとか」
そういう事もやっているんだ。
「マキちゃんは、転生して配信以外にも支援サイトでコスプレとかもやっているからね。私には無理かな……」
「そういうの興味ないんですか?」
「ないない。無理だって。そんなのしたいとも思った事ないし」
まあ、聖菜ちゃんにコスプレの趣味があるって話は全くなかったので、やっぱりそういう趣味はないんだな。
神崎さんも美人だから、やればウケるとは思うけど、俺もそこまでしてほしいとは言えないな。
「もしかして、私にレイヤーにでもなって欲しい?」
「思っていませんよ、そんな事。ただ、マキさんと一緒にやるなら、神崎さんもそういう事をやるようになるのかなって」
「あー、うん……どうだろう。流石にコスはちょっとね……」
コスプレイヤーとしての活動には乗り気じゃなさそうなのを見て、ちょっとホッとする。
別にコスプレが悪い事とは思わないけど、神崎さんにああいう事はしてほしくないかなって。
「あはは、というわけだからさ。まあ、今後の事はゆっくり考えようかなって。それより、大学生活の方が心配だよ。ウチの大学もこの前、ちょっと行ってみたら、キャンパスも綺麗になっている所あってさ」
ちょっと気まずい空気に、神崎さんはカフェラテを飲みながら、大学の事について話し始める。
転生でも何でもVへの復帰も当面はなさそうだし、今は神崎さんが来年、大学の同級生になれるように応援しておくか。
「ごちそうさまでした。すみません、奢ってもらって」
「いいのよ。こっちもつきあってもらったんだし」
「あれー、頼子じゃん。久しぶりー?」
「へ? マ……じゃなくて、ことり!」
ん? 店を出た瞬間、いきなりサングラスをかけた若い女性に声をかけられたが、神崎さんのお知り合いか?
「ひ、久しぶりって言うか、この前、会ったよね」
「あはは、そうだったわねえ。ま、私もこの近くに住んでいるしー。ところで、その子は? まさか、新しい彼氏?」
「ち、違うの! え、えっと……ちょっとした知り合いというか、親戚? ねえ?」
「は、はい」
親戚とかでは全然ないのだが、神崎さんが目で話を合わせてくれって訴えていたので、取り敢えず頷く。
何だこの人は? 神崎さんの友達……なんだろうな。
「そうなんだ。随分と若いよね。まさか、高校生?」
「一応、大学生です」
「へえ、学生なんだ。そういや、頼子ってこの辺の大学に通っていたんだっけ」
「そうなの。えっと、今日はちょっと用事が……い、行こう」
「え? ああ、はい」
神崎さんが俺の手を取って、この場から去ろうとしたので、俺も神崎さんと一緒に行こうとすると、彼女は神崎さんの手を取り、
「待ってよ。これから、暇? なら、付き合ってくれる? そこの学生君も」
「お、俺もですか?」
「そう。大事な話があるから。ねえ、良いでしょう? 奢るからさー」
「ええ? ど、どうしよう?」
思いもかけずお誘いを受けてしまい、神崎さんも困った顔をして、俺と彼女を交互で見る。
何だろう? 神崎さんの知り合いなのはわかるとして、初対面の俺にも話って?
てか、この人は何者なんだ?
「ダメー? もしかしたら、そこの彼氏君にも関係ある話だし」
「だから、彼氏じゃないって」
「その割に手を繋いでるし、一緒にお茶飲んでいるじゃない。デート中なんでしょ、今? そうじゃないなら、なおさら良いじゃん」
「う……」
「俺は構わないですけど……」
「決まりじゃん。じゃあ、ちょっと付いてきてね。三人で話せる場所が良いかな」
俺にも関係あるかもしれない話ってのが、何なのか気になったので、この人に付いて行くことにした。
だ、大丈夫だよな? 怖いおっさんとか出てきたらどうしようかと思ったけど、神崎さんの知り合いなら安心して良いんだな?
「どうぞ」
彼女に案内されたのは近くのカラオケボックス。
変な場所ではなくて安心したが、わざわざここに案内したってことは、人に聞かれるとまずい話って事?
「取り敢えず、自己紹介しようか。私、植田ことりって言うの。頼子とは……元同僚兼友人ってところかな」
「はあ……ん? ど、同僚ってっ!?」
その言葉を聞いて、思わず身を乗り上げる。
神崎さんの元同僚ってことは、まさか……。
「へえ、その反応、やっぱり関係者とかファンかな。じゃあ、改めて自己紹介。『こんにちはー。今日も配信見てくれて、ありがとー。ぶいロイド三期生、みんなのお姫様姫月マキでーす。配下の者たち、頭が高いぞ♡』」
「…………」
お姉さんがサングラスを取った後、めっちゃ聞いたことがある可愛らしい声で、自己紹介をし、言葉を失う。
「え、え? ひ、姫月マキ? マジ?」
「マジ……だよ。彼女が姫月マキ。今は、夏空ミーナだよね?」
「そう。まあ、またの名は『夏空ミーナ』かな。君、Vtuberとかもしかして詳しい?」
「は、はい……あ、俺、平沢公人って言います。その神崎さんとは……」
唖然としたところで、俺も慌てて自己紹介するが、神崎さんとの関係を答えようとして、言葉に詰まる。
付き合っては本当に居ないし、どう説明すれば良いのかちょっと答えに苦しむ。
「まあ、親戚でも彼氏でもセフレとかでも良いんだけどさ」
「だから違うって!」
「わかった、わかった。平沢君ね。よろしく。ミーナの事も知っている君?」
「は、はい……聞いたことは……」
植田さんは注文したコーラを飲みながらそう訊き、素直に答える。
え? ぶいロイドの元大物Vが目の前に二人も居るってこと?




