第二十二話 転生してみない?
「しかし、どうすればいいのか……」
翌日、大学に行く途中で、神崎さんが復帰できるにはどうすれば良いか考える。
間宮さんを通じて事務所に掛け合うと言っても、彼女はまだ入社してそんな経過していないので、そんな力はないっぽいし、オンラインで復帰の署名を集めるくらいしか思いつかない。
「おはよー、平沢君」
「おはよう」
「ふふ、悩んでいるんだね。相談に乗るよ、私でよければ。どうせ神崎さんの事なんだろうけど」
「よくわかったな」
「わかるに決まっているじゃない。それ以外、ないんだし。ま、ここじゃ何だから、部室に行かない?」
「じゃあ、昼休みにでも」
「ふーん、神崎さんのマネージャーさんにも会ったんだ」
「ああ……その人によると、やっぱり復帰は無理っぽいって言われて……」
昼休み、部室に行き、昨夜のことを角田に話していく。
間宮さんの事、話しちゃって大丈夫だったかな……誰にも言うなとは言われてなかったとは思うので、セーフだと思いたい。
「どうしても聖菜として復帰してほしい? 転生じゃ嫌?」
「出来れば聖菜ちゃんに復帰してほしいけど、決めるのは神崎さんだからさ。彼女が転生してでも続けるってなら、それで良いよ」
「ふーん。ま、転生して成功している事例もあるけどね。ほら、見て。元ぶいロイド三期生の姫月マキ。知っているでしょう? この人、不祥事でぶいロイドの契約を解除されたんだけど、その後、『夏空ミーナ』として転生して、そこでも人気になったんだって。ミーナのチャンネル登録者数も百万越えだよ」
「あ、ああ……そんなにヒットしていたんだ」
姫月マキの事は知っていたが、転生してもそんなに人気になっていたのか。
「しかも、この人、離婚しているんだよ。姫月マキをやっている間にこっそり結婚していたけど、その後、一年もしないうちに離婚したって、自分で公表しているの。それでも、個人で夏空ミーナに転生して、ヒットしておまけにコスプレイヤーまでやっているんだから、凄いわよねー。だったら、婚約破棄された事を神崎さんが公表しても彼女に近いレベルまでは行けるんじゃない」
「へえ、離婚していたんだ」
「ま、結婚と離婚はぶいロイドを辞めた後に公表しているから、ちょっと聖菜のパターンとは違うけどね。別に転生をススメている訳でもないんだけど、そういう道もアリなんじゃないかって」
神崎さんが婚約破棄を公表したうえで別のVに転生ね。
恐らく神崎さんは姫月マキの事も知っているんだろうが、それで彼女が満足するだろうか。
何より、そうなると聖菜ちゃんの復帰が更に遠のいてしまいそうでな……。
「まあ、そういう道もあるってことで。あの人がどう考えているかわからないけどさ。神崎さん、今、元気にしている? 近いうちに会って話はしたいなーって思っているんだけど」
「元気だよ。会いたいって言うなら、話はしてみるから」
「お願いね。ふふ、仲良くなれば、業界の裏話とか色々と聞けるかなって思ったんだけど」
「そういう下心は止めておけよ。話せないことだって、あるんだろうからさ」
「わかっているよ。それよりさー、年末のコミケの予定なんだけど、どうする?」
「ああ、そうだな……参加するつもりでいるけど」
その後、角田とコミケに関する話し合いとか雑談をしていき、その後はバイトに向かって、一日が終わる。
しかし、現実的には転生って形しかないのかね……神崎さんには聖菜ちゃんが一番似合うとは思うし、他のVをやられてもって感じがどうしてもしちゃうんだよなあ。
一方そのころ――
「久しぶりー、頼子。元気していた?」
「うん……久しぶり」
近くのカフェに呼び出されて、久しぶりに『ぶいロイド』時代の同僚と会う。
植田ことり――これは彼女の本名だが、ぶいロイドに居た頃は『姫月マキ』というVtuberをやっていた子で、私の同期生だ。
でも三年前に引退してから、ことりとは全く音沙汰がなかったのだけど、何で今頃になって?
「ゴメンねー、いきなり誘って。どうしても確認しておきたいことがあって」
「何?」
「婚約が駄目になったって話。本当?」
「――っ! う、うん……聞いていたんだ」
「噂になっていたからね。でも、本当だったんだー」
そんなに噂になっていたとは、知らなかったが、彼女でも知っているって事は既にVの界隈では知れ渡っていると見ていいだろう。
別に隠す気もなかったけど、ちょっと気味が悪いと言うか……。
「あはは、元気だしなって。頼子も知っていると思うけど、私なんか一年もしないうちに離婚しちゃったんだし」
「そうだったね。それで話って?」
「うん。ねえ、よかったらウチと一緒にVtuberやらない?」
「え? ことりと?」
「そうなの。私、今はフリーだけどさ。いずれは事務所立ち上げてやりたいなって思って。んで、結婚が駄目になったもん同士の売れっ子が組んだら、話題になるんじゃないかってさ。どう? ガワとかはそっちの希望の添うようにするし、費用は私が払うからさー」
「えっと……」
ことりがそう迫ってきたが、そうは言われても急に返事は出来ない。
「良い話だと思わない。ほらー、私達、何度かコラボもしていたし、一緒にオンラインゲームで協力プレイの実況もやっていたじゃん。私も知っている人との方がやりやすいしさ」
「ああ、そうかも。うん、考えておく」
「えー、もうVをやる気ないの?」
「そうじゃないけど……やっぱり、まだ聖菜への未練があるっていうか」
「あんた、そんなにあの子に執着していたんだ。私もマキのキャラは気に入っていたけど、今更、事務所にも戻れないし、引きずってもしょうがなくない」
「それは、まあそうだけど」
あまり乗り気じゃなさそうなのが、表情に出てたのが、ことりは苦笑しながら、そう言ってきたが、自分は声優でもないし、聖菜以外のキャラが出来る自信がどうしてもない。
あの子にも悪い事をしてしまったし、今更、他の子に乗り換えるのはちょっと……。
「わかった、わかった。別に焦らせないからさ。それより、これからどうするか考えているの?」
「最近、色々とあったんで考え中かな」
「なら、Vをまたやってみたら良いじゃん。他にも声をかけてみるからさ。ウチらの仲じゃん」
「うん……もう少し、整理する時間欲しいかな」
とカフェラテを飲みながら、力なく呟く。
どうしようかな……大学への復学も考えているけど、転生してまでVをやる気はどうしても今は湧かない。
平沢君はどう考えているんだろう? もし転生するって言ったら、平沢君が嫌な顔をしちゃうんじゃないかとふと不安になってしまい、とてもそんな気が起きなかった。
「はー、今日も疲れた」
バイトが終わり、いつものように自宅に帰る。
大学行ってバイト行って、家に帰って寝る。つい最近まではこの単調な繰り返しを聖菜ちゃんの配信を見て、癒されていたんだけど、今はその聖菜ちゃんの中の人と知り合いになれてしまったんだよな。
神崎さんはどうしたいんだろうな……聖菜ちゃんに復帰したいみたいだけど、他のVへの転生とか考えているのかな?
「姫月マキって、転生していたんだよな」
話には聞いていたけど、全然追ってないから、どんなVとして活動しているか全く知らなかった。
ちょっとスマホで検索をかけてみたが、星空ミーナって子が元姫月マキの転生した姿か。
「うお、思いっきり顔を晒しているじゃん」
彼女のSNSを見たら、思いっきり素顔も出してコスプレ写真も上げていたのでビビった。
色白で加工しているっぽいけど、結構美人でスタイルも良いなあ。いいねも一万以上付いてて、めっちゃバズっている。
神崎さんってコスプレとかするんだろうか?
全然、そういう趣味は聞いたことはないけど、あの人がコスプレしたりして、こうやって写真を晒したりする姿って想像できないって言うか、あんまりしてほしくないかも……。




