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結婚して引退したはずの推しVtuberが婚約破棄されて全て失って可哀相になったので、俺がお世話する事にしました。  作者: beru


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第二十一話 マネージャーはまだ心配している

『えー、それでは今晩の配信はこれくらいにしたいと思います。夜遅くなのに、見てくれてありがとう。またねー、平沢君』

 その後、他愛もない雑談を一時間続けた後、神楽咲聖菜の特別配信は終了する。

 彼女の話に俺がその都度、チャットで反応し、そのコメントに聖菜ちゃんが逐次、答えていくという感じだったが、これはこれで楽しくはあった。

 しかし、やっぱりこれは違うなという気がしてしまう。

 これは配信というよりは神崎さんとの個人的なビデオ通話じゃないのかなって。


「あ、神崎さんからだ。はい」

『平沢君、私の配信に付き合ってくれてありがとう。どうだった?』

「めっちゃ楽しかったですよ。久しぶりに聖菜ちゃんの配信が見れましたし」

『えへへ、ありがとう。これ、誰にも言わないでね。間宮さんや角田さんにも内緒にしておいて。アーカイブには残さないから、本当に君だけの特別配信ってことで』

「わかりました。何か、聖菜ちゃんを独占しちゃったみたいで悪い気分ですね」

『あはは、そのつもりだったしさ。楽しんでくれたなら、よかった。私も久しぶりに聖菜になり切っていたから、緊張しちゃってさ』

 実際に楽しかったし、神崎さんが俺の為に聖菜ちゃんをまた演じてくれたってのはマジで嬉しい。

『これ、配信の練習も兼ねているからさ。ちゃんと聖菜は違和感なく演じられていた?』

「もちろんですよ。声は前と全く同じでした。ただ、動きがなかったのは残念でしたけど」

『聖菜のアバターは事務所に返却しちゃったからね。使うとしたら、SNSのアイコンに使っていたイラストくらいかなって思って。でも、やっぱり表情に変化がないのは味気なかったかー』

 Vtuberってのは、キャラのアバターが動いたり、表情が変化したりするのが可愛くて、それを配信で見るのが楽しいんだが、仕方ないとはいえ、止め絵ではそれが楽しめない。

 やっぱり、ちゃんと復帰してほしいかな……チャット欄も俺だけじゃ寂しいし、何より多くの人に見てもらいたいんだよ。


『またやるかもしれないから、その時はお願いね』

「はい。あのー、聖菜ちゃんは本当に復帰出来るですかね?」

『どうだろう。今は難しいってだけしか言えないかな。転生は……している人も多いけど、Vtuber以外に出来る事もないかなって思うし。復帰を目指したいけど、今すぐが難しいなら、他に仕事を探さないといけないしさ』

 神楽咲聖菜として、どうしても復帰してほしいが、現状ではそれは期待しない方が良いって事か。

 まあ、神崎さんの一存では決められないし、事務所がどう判断するかだが……。

『夜遅くまでゴメンね。それじゃ、おやすみ』

「あ、おやすみなさい」

 そう言って、電話を切り、さっきの配信を思い返す。

 アーカイブにも残ってないので見返すことが出来ないが、とにかく神崎さんが聖菜ちゃんをまたやってくれたってだけでも嬉しいので、今晩はその余韻に浸ろう。


 翌日――

「ありがとうございました」

 いつものように居酒屋でのバイトに精を出し、そろそろ上がりの時間になる。

 今日も客が多かったな……サークルの忘年会、結局、ウチの居酒屋でやることになったけど、従業員クーポン使えるか確認しておかないと。

「あ、いらっしゃいませ」

「こ、こんばんは」

「え? 間宮さん……でしたよね」

 夜になって、スーツを着た女性客が一人、ウチの店に来たので誰かと思ったら、何と神崎さんの元マネージャーの間宮さんだった。


「えっと、まだ大丈夫ですか?」

「ああ、はい。ラストオーダーはまだなので。おひとり様ですか?」

「はい。と、取り敢えずビールを一杯」

「ビールですね。ご注文はそこのタブレットでお願いします」

 一人だったので、近くのカウンター席に間宮さんを案内し、注文したビールを持ってくる。

 何か話があるのか、それとも単に飲みに来ただけなのか……恐らく、俺に話があるんだろうが、何だろうか。


「生中一つですね。どうぞ」

「ありがとうございます。あのー、平沢さんでしたよね。ここでバイトしていたんですね」

「はい。あの、もしかして、俺に何か?」

「た、大した話ではないのですが……すみません、お仕事の邪魔はしたくないので」

「俺、もうすぐ上がりなので」

「あ……そうですか。それじゃ、これを飲んだら、外で待っていますので。んぐ……」

「あの、そんな焦らず飲まなくても……」

 間宮さんがビールを一気飲みし始めたが、そんなすぐに店を出れる訳じゃないので、焦って飲まなくても良いのに。


「ふう、終わった。えっと、間宮さんは……あ」

「ど、どうも。ひく……」

 着替えて外に出た後、間宮さんは既に店の前で待っていたが、ビールを生中で一杯しか飲んでなかったのに、結構酔っているみたいだな。

「すみません、待たせてしまいまして。あのー、お話ってのは?」

「ああ……頼子さんの事なんですけど……お二人って、やっぱり付き合っているんですか?」

「いいっ? いや、付き合ってはいないですって。前にも言いましたよね?」

「そ、そうですか。何か最近、平沢さんが頼子さんの家に頻繁に出入りしているようなので……い、良いんですよ、別にお付き合いしても。頼子さん、もう事務所との契約も解除になっていますし、プライベートな事には事務所は口出す権利はないので!」

 俺が神崎さんの家に出入りしているのは事実だが、何でそのことを知っているのかね、この人は。


「とにかく、神崎さんとは付き合っている訳じゃないので。間宮さん、神崎さんのマネージャーではもうないんですよね? どうして、神崎さんの事が気になっているんですか?」

「いえ、婚約破棄されたって話を聞いてから、すごく落ち込んでいたみたいなので、すごく気になってしまいまして……頼子さんとは既にぶいロイドとは関係はありませんが、ショックで変な事をしないか心配で」

 なるほど、個人的に心配しているだけって事なのか。

 親身になってくれる良い人じゃないか。ちょっとおっちょこちょいな所もあるけど、聖菜ちゃんが配信で言った通りの人で何かホッコリしてしまう。


「あの、神崎さんの復帰ってやっぱり難しいんですか?」

「えっと……私としては頼子さんが復帰したいのであれば、応援したい気持ちはあるんですが、何分、私もまだ入社三年目なので、あまり出来る事もないんです。じょ、上司に掛け合うことくらいはしますが、私の意見だけが通る訳ではないので」

「あ、そうですよね」

 そっか、まだ間宮さんだって、事務所に就職してからそんなに経っていないんだから、神崎さんを彼女の力だけでは復帰させるのは無理って事か。

「彼女の引退報告以来、メンバーシップが減ってしまったライバーもいて、その……当社としても結構な損害が出てしまっているみたいなので、上の人は、かなり根に持っているんですよ。婚約破棄の事はもう耳に入っているんですが、頼子さんを復帰させようって話は現状、全くないと言って良いです」

「そ、そんな状況なんですか」

 何と煽りを食らって、ファンが減ってしまったライバーもいたのかよ。今の話を聞くと、神崎さんが聖菜ちゃんとして復帰するのは……絶望的っぽいじゃん。


「すみません! 私の力不足で!」

「いいんですって。俺に謝らないでください」

「はい……あの、平沢さん、頼子さんと仲が良いんですよね? だ、だったら、彼女の支えに少しでもなってあげてください。私も力になりますので。あ、連作先交換しましょう」

「わかりました。あ、じゃあ、番号とか交換しましょうか」

「はい」

 間宮さんと連絡先の交換をスマホで行うが、これで神崎さんの事を相談できる人がまた増えたな。

 俺としても助かるなー……どうにか、聖菜ちゃんを復帰させたいけど、俺にできる事あるんか、今の話を聞いても自信なくなってきた。


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