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結婚して引退したはずの推しVtuberが婚約破棄されて全て失って可哀相になったので、俺がお世話する事にしました。  作者: beru


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第十七話 どうせバレているなら

「お待たせしましたー」

 大学が終わった後、いつもの様に居酒屋でバイトに励む。

 そろそろ忘年会の季節に入るので、忙しくなるのがちょっと嫌なんだが……そういや、サークルの忘年会もここでやろうかとかって話が出ているんだよな。

 俺の従業員割引クーポンを当てにしているっぽいが、あんまりバイト先で忘年会とかやられても、良い気分はしない。

 というか、俺はまだ二十歳になっていないから、酒が駄目なんだよな。


「いらっしゃいませ。あ……」

「こんばんは」

 また店に客が入ってきたので、応対すると、神崎さんが一人で来店してきた。

「どうも。今日はおひとりですか?」

「うん。何か飲みたい気分になっちゃって」

「はは、そうですか。あ、こちらへどうぞ」

 神崎さんをカウンターの席に案内していく。

 理由はどうあれ、神崎さんが来てくれるのは嬉しいなあ……何と言っても、神楽咲聖菜ちゃんの中の人なんだから、聖菜ちゃんが来てくれたのと同じ。

 というのは、神崎さんに失礼なんだろうか……。


「お冷です。ご注文はタブレットでお願いします」

「うん。ふふ、何かゴメンね。急に来ちゃって」

「いいんですよ、神崎さんならいつでも大歓迎です」

「もう……あ、そうだ。この前の事なんだけど……やっぱり、受けることにしたの」

「へえ。じゃあ、来年には?」

「まあ、まだ許可されるかわからないんだけどね」

 神崎さんが俺と同じ大学に……いやあ、胸熱だな。だって、聖菜ちゃんと同級生って事じゃん。

「応援していますので。あ、すみません、もう行かないと」

「うん。バイト頑張って」

 もう少し話していたかったが、まだバイト中だったので、すぐに厨房に行き、注文された料理を取りに行く。

 バイト中も神崎さんと時折、目を合わせたが……何と言うか、一人で飲んでいる姿も大人びてていてちょっと色っぽい感じしたな。

 とは言え、ナンパとかされないか心配だったんだが、左手薬指の指輪が男避けになっているのか、声をかけられることはなかった。


「お待たせしました、カツオの叩きと軟骨……えっ?」

「ヤッホー。バイト頑張っているじゃない」

「か、角田? なぜ、ここに?」

 神崎さんが注文した料理を運びに行くと、何と角田が神崎さんの隣に座っていた。

「いいじゃない、私が店に来ちゃ悪いの? この前も来たじゃん」

「そうだけど……神崎さん、いいんですか?」

「別に構わないけど」

「ですよねー。話が分かって助かります。あ、私も何か奢りますので。生中二つお願い」

「そ、そんなの良いけど……」

「生中一つですね。お前は二十歳になってないから、まだ駄目だぞ。注文はタブレットで」

「ちっ、駄目か……じゃあ、ウーロン茶で」

 当たり前というか、角田に酒を提供したら、俺がバイトをクビになるんだって……。

 まさか角田が店に来るとは思いもしなかったが、別に迷惑行為をしている訳でもないので、追い出すわけにはいかないし、神崎さんも何だか楽しそうに角田と飲んでいたので、まあ良しとするか。


「はあ、疲れた……」

 やっとバイトが上がりの時間になり、ぐったりしながら、店を後にする。

 今日は忙しかったな……やっぱり、このシーズンは混むんだよな。

「お疲れ様」

「あ、神崎さんに角田も。待っていたんですか?」

「うん。そろそろかなって思って。角田さん、面白い子よねー。Vの事とか、ゲームの事にも詳しいし」

「えへへ、まあねっからのオタクなもので」

 すっかり仲良くなっていたみたいだが、神崎さんも角田との接し方が大人というか、やっぱり俺とは違うなって思った。

 こういう応対が出来るから、人気Vtuberになれたのかね。


「ねえ、平沢君」

「何ですか?」

「彼女には喋っても良いかなって思って」

「え……い、いいんですか?」

 神崎さんが俺を招き寄せて、小声でそう言うが、喋るって角田に神楽咲聖菜であることをって事だよな?

「あんまり勘繰られたままなの、こっちもどうかと思うし、殆どバレているみたいだしさ……別に隠し続けてもメリットはないかなって」

「か、神崎さんがそう言うなら」

「本当はダメなんだけどね。ちょっと、いいかしら?」

「はい? お二人で何の話をしていたんですかー?」

 角田を神崎さんが招き寄せて、

「あなた、私が神楽咲聖菜だって疑っているのよね? もし、そうだったらどうするつもり?」

「神崎さんが聖菜だったらですか? うーーーん……」

 彼女にそう聞かれると、角田はしばらく考え込む。


「取り敢えず……サイン欲しいです」

「それだけ?」

「後は業界の事とか色々聞きたいですね。まあ、それは言える範囲で構わないですけど」

「そう。じゃあ、ちょっと家に来てくれる? 時間は取らせないから。平沢君も来る?」

「は、はい」

 今の話で何か安心したのか、角田と俺を近くにある自宅へと神崎さんが招く。

 だ、大丈夫なのかな本当に……。


「うおおお、こんなタワマンに住んでいたんですか、神崎さん」

「そうなの。あ、こっちに来てくれる?」

 神崎さんがタワマンに住んでいる事にやっぱり驚いていたのか、角田もキョロキョロしながら、彼女の部屋を見渡す。

 そして、俺と角田を仕事部屋へと招いていき、

「さっきも話したけど、私、最近、仕事を辞めたばかりなの。二、三か月前かな」

「ふむふむ。何のお仕事をしていたんですか?」

「私の前職はね……『お二人ともこんばんは♪ ぶいロイド三期生、神楽咲聖菜です。今日は私の家に来てくれてありがとうございまーす♡』」

「…………」

 と、スピーカーを通して、神崎さんが聖菜の声で遂に神楽咲聖菜であることを自ら話す。

 角田はしばらく呆然としながら、ハトが豆鉄砲を食らったような眼で神崎さんを見つめていた。


「これが私の……」

「~~……」

「お、おい、角田!」

 急に角田が倒れそうになったので、慌てて支えると、

「ご、ごめんなさい。ま……まさか、本当にあの神楽咲聖菜……Vtuber事務所で最大手の箱、ぶいロイドでもトップスリーの、神楽咲聖菜っ!?」

「うん……てか、そうだと思っていたんじゃないの?」

「いやいや、薄々勘づいてはいましたけど~~……ああ、ヤバイっ! こんな服で来ちゃいけなかったよ! 何でもっと早く言ってくれないのさ!」

「俺に言うなよ! てか、そうだと思っていたのに、何でショック受けているんだ?」

 思いっきり疑ってはいたみたいだが、いざ本当だと知ると、角田もめっちゃ動揺していた。


「いや、だって、神楽咲聖菜だって。Vでもトップ中のトップよ。そんな超大物を目の前にして、冷静でいられないって!」

「あのー、チャンネル登録者数じゃ、聖菜はトップじゃないんだけど」

「いやいや、三百万なんて、V全体でもトップクラスじゃないですか。しかも、案件数や配信時間、グッズ売り上げじゃトップだったことありますよね?」

「そ、それは一時期だけだけど……」

「とにかくです! ああ、まさか、聖菜の中の人と会えるなんて……ああ、色紙持って来ればよかった! もう、何やっているんだか!」

「サインなら、いつでもしてあげるから、落ち着いて」

「す、すみません……」

 神崎さんに宥められて、ようやく角田も落ち着く。


「あのー、これは誰にも言わないで欲しいんだけど、大丈夫?」

「言いませんよ。てか、何で平沢君と知り合いなんですか? まさか、婚約者って、平沢君?」

「そんな訳ないだろ!」

「だよね。あ、じゃあ、婚約破棄されたって話は?」

「それは……うん、本当」

「お、おお……」

 遂にそのことも角田に話し、角田もちょっとよろめきそうになる。

 やっぱり、噂が事実ってのはショックなんだろうな。

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